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「いま、文明に問う。」飛騨から始まる地域産業の変革と、CoIVaで描く持続可能な未来

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岐阜県飛騨市を舞台に、地域の産業構造を根本から問い直し、持続可能な社会を目指すプロジェクト「Co-Innovation Valley」が始動しました。

教育・まちづくり・再生可能エネルギーを軸に展開するこの挑戦の先に、どのような未来を見据えているのか——。発起人の井上博成さんと、JTB執行役員中部エリア広域代表の小島健治が、共創の背景と目指す姿について語り合います。

一般社団法人 Co-Innovation Valley alliance
代表理事
井上 博成

1989年岐阜県高山市生まれ。
京都大学大学院博士課程を経て経済学博士号を取得。自然資本や地域金融を専門とし、研究と事業の実践・往復を重視。飛騨高山小水力発電をはじめ、木材活用を推進する飛騨五木、管理型信託会社であるすみれ地域信託など、地域資源を生かす多数の事業立ち上げに携わる。
2025年8月に設置認可を受け、2026年春に開学した「CoIU(Co-Innovation University)」の理事長を務める。

株式会社JTB 執行役員
中部エリア広域代表
小島 健治

愛知県名古屋市出身。
北海道大学法学部卒業後、1991年にJTBへ入社。
1999年長野オリンピック県外輸送業務担当、2002年FIFAワールドカップ日韓共催大会PJT営業担当、2016年伊勢志摩サミット宿泊業務統括責任者など、MICE領域で営業を中心に取り組み、津・金沢・名古屋での箇所長経験を経て、現在に至る。
今年9月から開催される愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会推進担当も兼務。

地域の産業構造を問い直し、持続可能な未来をつくる「Co-Innovation Valley」

——まずは「Co-Innovation Valley」について教えてください。

井上:「Co-Innovation Valley」とは、地域の産業構造を問い直し、持続可能な地域社会の実現を目指して取り組むプロジェクト全体の名称です。岐阜県飛騨市で第一弾の実証を進めており、今後さまざまな地域で取り組んでいきたいと考えています。

岐阜県飛騨市での取り組みについて、具体的には、2026年4月に開学した「Co-Innovation University(CoIU)」(①教育)、共創拠点施設「soranotani」(②不動産価値の向上)、そして「再生可能エネルギー事業」(③新たな産業構造の柱を立てる)の3本柱で構成されています。全国の企業や自治体、NPOなど多様な皆さまと連携しながら、産業創出や人材育成のハブとなる「共創の場」を目指しています。

——「Co-Innovation Valley」を立ち上げた背景は何だったのでしょうか?

井上:地域、ひいては日本の未来を考えたとき、いま私たちに必要なのは「問い直すこと」だと感じ、このプロジェクトを立ち上げました。

私は飛騨市の隣に位置する高山市出身なのですが、大学での研究をきっかけにこのエリアの産業構造が抱える課題に関心を持つようになったんです。
例えば、飛騨は家具で有名な地域ですが、日本一豊かな森林資源がありながら、およそ10年前まで原材料である木の90%以上を国外からの輸入に頼っていました。
また、高山市のお土産産業は年間約200億円の売上を誇る一方で、商品のほとんどは地域外からの仕入れで成り立っており、地域ならではの付加価値をほとんど生み出せていないのが現状でした。

さらに、高山市で使われる電力の大半も他の地域から購入しています。このように外部へ依存する手法は、効率性を求める資本主義としては自然なことかもしれませんが、そこから地域への愛着や誇りは生まれにくいと感じています。

一方で、自分たちの集落にある資源を活用して価値あるものを生み出し、それを自分たちで使ったり、訪れた人に体験していただいたりする。そうすることで、自らのなかに誇りや自信が湧く循環をつくることこそが、住民のウェルビーイングにつながるのではないか、そして地域の新たなアイデンティティをつくりだすのではないか——そんな想いが根底にあります。

ただ、自給率が低く、外部からの仕入れに依存している構造は、日本全国で起きている課題です。だからこそ「Co-Innovation Valley」では、まずは飛騨でモデルをつくり、いずれは国内外問わずさまざまな地域へ形を変えながら展開していくことを目指しています。

「教育・まちづくり・再生可能エネルギー」の3本柱へ挑む、産業構造の改革

——なぜ、最初の場所に岐阜県飛騨市を選ばれたのでしょうか?

飛騨古川の街並み

井上:私自身は飛騨市の横の高山市が生まれ育った町です。学生時代に高山市のお金の流れや産業構造を調べるなかで課題を感じ、解決のために高山市へUターンしてきたという個人的な背景があります。

高校時代から感じていた「この町に大学があったらいいな」という想いを形にするため、大学設立の検討委員会を設立し、高山市・飛騨市も含めてどこに立地したいかとの検討を進めました。
そのなかで、飛騨市長の町にかける想いや教育への想い、そして町がもつ可能性に惹かれたことがあります。

今年の4月に開学した大学「CoIU」のある飛騨古川は、徒歩10〜20分ほどで中心部を一周できてしまうコンパクトな街です。そしてそのなかに多様な文化や生活、商業も含めて入り混じっている。
海外の研究でも、目に留まった学研都市では「ウォーカブル(歩きやすい)な街」も1つの特徴とされていましたが、飛騨古川のサイズ感はまさに学びの場として最適だと直感的にも感じました。

現在、街の中には3箇所の街中キャンパスがあり、今後さらにもう1箇所増える予定です。街全体が「学びの場」であり今後飛騨古川駅東の開発が進めば、より大きな「体験資源」になりうると捉えています。

——「教育」以外に、本プロジェクトでは「まちづくり」「再生可能エネルギー」も推進されているそうですね。

2024.9.18 Co-Innovation Valley記者会見資料より引用

井上:はい。まず「まちづくり」に関しては、飛騨古川駅東前に「soranotani」という共創拠点の整備に着手をしています。

「soranotani」は、多様な人々が集まりともに未来を創る、飛騨の「体験資源」を象徴するフラッグシップとなるよう、大阪・関西万博の「大屋根リング」などを手掛けた建築家の藤本壮介さんに設計・監修を行っていただきました。

飛騨を象徴する木材を使用した「日本の中でも最大級の木造建築」となるのではと考えており、内部には食・宿泊・アート施設に加え、飛騨の木を使った子供の遊び場、飛騨の薬草を使用した温浴施設、「CoIU」のキャンパスの一部も入ります。

地域の産業構造を変えるためには、人流を増やし、街全体の価値をあげながら不動産価値を高めていく取り組みが不可欠と考えています。

2028年開業予定の「soranotani」完成イメージ

次に「再生可能エネルギー」に関しては、環境省の「脱炭素先行地域」に高山市が採択されたことを受け、2050年までにこのエリアのすべての電力を地域由来の再生可能エネルギーに切り替えることを目標に掲げています。

これまで外部に頼っていたエネルギー構造を変革する「第一弾」として進め、エネルギーの地産地消が地域住民のウェルビーイングを高めることを証明したいと考えています。ちなみに、「soranotani」で消費する電力も当然すべてこの地域で生成された再生可能エネルギーで賄う計画です。

一過性の観光で終わらせない。JTBとのパートナーシップが目指すもの

——これらの活動を加速させる母体として、2025年9月に井上さんとJTBは一般社団法人「Co-Innovation Valley alliance」(通称:CoIVa)を設立しましたが、両者が手を組むことになったきっかけについて教えてください。

小島:まだ Co-Innovation Valley プロジェクトが構想段階だった約4年前に、弊社の役員がこの取り組みについて井上さんから直接お話を伺い、非常に強い共感と感銘を受けたことがきっかけです。

私たちは長年、地域の課題解決や誘客を通じた地域活性化に取り組んできましたが、このプロジェクトは産業構造の変革という、さらにその先を見据えています。

仮にSNS等で話題になって観光客が押し寄せ、一時的に消費単価が上がったとしても、それが本質的な意味での地域活性化や持続可能な観光地経営につながっているかといえば、決してそうではありません。一過性のブームで終わらせないためには、その地域独自の「理念」が必要不可欠です。

井上さんのお話にもあった通り、このプロジェクトには非常に強い理念があります。
「これまでの慣習通りのやり方で本当にいいのか」「それは地域住民の幸福に本当につながっているのか」「目指すべき街のあり方とは何なのか」——ここまで深く自問自答を重ねている取り組みは唯一無二だと感じました。

だからこそ、このプロジェクトに参画すること自体が、JTBの存在意義を問い直す契機になるのではないか、学べることが非常に多くあるのではないかという結論に至り、名古屋事業部、岐阜支店ともに協働させていただくことになりました。
名古屋事業部の安達雅哉さんが、本プロジェクトの立ち上げ時から頑張ってくれており、飛騨にも何度も通い井上さんとの信頼関係を構築してくれたことで今があると思っています。

井上:JTBさんには、このプロジェクトがまだ企画書という「紙」でしかなかった頃から本当に深く関わっていただいています。

JTBさんは「交流創造事業」を事業ドメインとされていますが、単なる観光の提供にとどまらず、その先にある「観光や地域がどうあるべきか」を問い直そうとされている姿勢に、私たちの思想との強い親和性を感じました。

もちろん、ビジネスとして成り立たせるためには、短期的な成果や数値目標も大切です。
しかし、数値を上げること自体が目的ではなく、長期的な視点で「問い続ける」という姿勢こそがこのプロジェクトの本質であると、JTBさんなら深く理解していただける。そう実感できたからこそ、ぜひ一緒に取り組ませていただきたいと考えました。

——具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

小島:1つの大きな役割は、私たちが持つ多種多様な企業様とのネットワークを生かし、多様なプレイヤーを巻き込んで共創を生み出すことです。この飛騨という地から新たなイノベーションを創出していくことこそが、JTBの貢献できる領域だと考えています。

また、先ほど「教育」のお話がありましたが、対象は学生だけでなく、社会人を対象とした「リカレント教育」にも力を入れています。
例えば、数ヶ月から半年にわたって複数回飛騨を訪れ、地域に入り込んで課題解決を行う企業向け研修プログラムや、1〜2泊で自己変革を図る「トランスフォーマティブツーリズム」といった体験を提供しています。

社会人の方々が自分自身を見つめ直し、新たな価値を見出して挑戦するための機会づくりを進めているところです。

井上:「Co-Innovation Valley alliance」はその名の通り、10年〜20年先の仕事や産業のあり方をともに考えていくための「アライアンス(同盟・連合)」です。今後はビジネスマッチングやオンラインサロンの展開など、活動の幅をさらに広げていく予定です。

また、個人的な期待としては、「soranotani」が完成して飛騨に多くの人流が生まれたその先で、「ここはどんな場所であるべきか」をJTBさんとともにに模索し続けていけたら嬉しいですね。

あくまで私個人の見解ですが、地域は「観光地」として完成した瞬間から街のアップデートが止まり、現状維持を目指しているつもりが気づけば地域全体が劣化していく……というケースが非常に多いと感じています。一度成功体験を得ると、どんな地域や企業でも自らのあり方を見つめ直す機会を失ってしまうからです。

だからこそ、飛騨は観光客がたくさん来てくれたら「完成」ではなく、常に自らのあり方を問い続け、アップデートし続ける地域でありたいと考えています。

小島:その通りですね。飛騨を訪れた方にどのような体験をしていただき、地域の方々とどう交流し、どんな魅力を発信していくかを組み立てることは、私たちが最も得意としてきた領域です。

しかし、だからこそ過去の成功体験にとらわれず、時にはこれまでの手法自体に疑いを持って、一過性ではない本質的な地域活性化に向き合わなければなりません。
私たちだけでなく、井上さんや地域住民の皆さま、そして協業してくださるパートナー企業の皆さまとともに、飛騨のあり方を模索していきたいと思っています。

前提を疑い、人と社会と地球の調和を目指す

——今年度の4月からついに大学「Co-Innovation University(CoIU)」が開学となりましたが、手応えとしてはいかがでしょうか?

井上:「地域の産業構造を変える」という目指すべき指標に照らし合わせれば、成果はまだまだこれからという段階です。しかし、学生たちはすでに大学の理念である「いま、文明に問う」を体現してくれています。

例えば入学式にあたっても、彼らは「既存の形式的なやり方でいいのだろうか?」という問いからスタートしました。教職員から「迎えられる側」として受動的に参加するのではなく、自分たちの手でゼロから入学式をつくりあげる、そして、ただ問いを立てるだけでなく、それを実行に移したことも重要です。
本当に頼もしい存在だと感じています。

Co-Innovation University(CoIU)入学式の様子

現在、複数の学生から相談をもらい「やりたいこと」について対話を重ねています。将来的には十分な規模の出資を行い、彼ら自身が地域の産業構造を変える挑戦に取り組めるようなサポート体制を整えているところです。

また、もう1つ象徴的な出来事として、2026年8月3日に国立大学法人 高知大学様と高知県須崎市様と連携協定を結びました。これは両校の学生が互いのキャンパスを行き来できる環境の連携でもあります。
これまでとは異なる環境や人々との出会いを通じて「CoIU」の学生にとどまらず、より多くの若者が自分自身を見つめ直すきっかけを提供していきたいと考えています。こうした連携を今後ほかの大学や地域にも少しずつ広げていけたらと願っています。

2026.8.3  CoIUリリース資料より引用

——「自分自身のあり方を問い直す」というのも、このプロジェクトにおける大きなテーマなのですね。

井上:はい。高度経済成長期であれば、自分のなかにある違和感に目をつぶっていても経済的な豊かさを享受できる時代でした。
でも、現代は違います。今日まで続く「失われた30年」とは、人々が自分や社会のあり方を見つめ直す「メタ認知」の視点を失ってしまった期間でもあったのではないでしょうか。

パンデミックの経験やAIの進化に象徴されるように、現在は社会構造を揺るがすような変化が同時に起こりうる時代です。だからこそ、当たり前とされてきた社会の前提を疑う姿勢を持たなければ生き残れませんし、多くの人が違和感に向き合い始めています。

前提を疑い続ける生き方は決して楽なものではありません。
しかし、「どうすれば人と地域、そして地球環境が調和していけるのか」を真摯に考えられる人が1人でも増えること。それこそが結果として人々のウェルビーイングを高め、より良い社会をつくることにつながると信じています。

小島:非常に深く考えさせられるテーマですよね。JTBも先日、新社長への交代という体制の節目を迎えましたが、こうした組織の変革期こそ、自らのあり方を見直す絶好の機会だと捉えています。

私たちがこれまで取り組んできたことについても、振り返り、このやり方でいいのか、もっとできることはないのか——そうした問いを絶えず立て続ける姿勢は、私たちのような企業組織にとっても不可欠です。

飛騨がそうした「本質的な問い」を体現する場所となり、訪れる方々にその価値を感じていただけるような地域であり続けられるよう貢献していきたいです。

文 佐藤伶
写真 鍵岡龍門
編集 花沢亜衣

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