ボッチャで、温泉街を盛り上げる!人や地域をつなぐ、パラスポーツの可能性
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みなさん、『ボッチャ』って知っていますか?あるいは『スギムライジング』という言葉が2021の流行語として注目されたことを覚えていますか?ボッチャはヨーロッパで考案された競技で、今日ではパラリンピックの正式種目にもなっているスポーツ。そして『スギムライジング』は、東京 2020 大会で金メダルを獲得した杉村英孝選手の得意技の名前です。
ボッチャは、身体への負担が比較的少ない直径8~9cmほどのボールを投げ、相手よりいかに多く、的の近くに置けるかを競います。世代や障害の有無を超えて誰にでもプレーしやすい競技ですが、勝つためには頭脳とテクニックを駆使して対戦相手との駆け引きをする必要があり、奥が深い一面も。
直径8~9cmほどのボールを投げて…
的の近くに相手よりいかに多く置けるかを競う
そんなボッチャを全国の温泉地に広めていくことを目指し、JTBではいま静岡県・伊東市と共に『温泉ボッチャ』の普及に取り組んでいます。「ナゼ温泉で?!」と、みなさん思われることでしょう。…う~ん、ほんとにナゼなのでしょうか。JTBeing編集部も疑問に思っていたところ、モニターツアーが開催されるとの情報をキャッチ!潜入してきました。
※日本パラリンピック委員会サイト
温泉で、ボッチャを実体験!初対面でも盛り上がる!
このモニターツアーには、ボッチャの普及に取り組む団体や、企業の関係者らが参加。目的は、「温泉でボッチャを体験しながら研究会を開き、ボッチャを温泉でやることの魅力を知り、さらなる可能性を探る」というものです。
参加した当編集部のスタッフは、もちろんボッチャ初体験。事前に動画で競技の様子を少し見ただけの、いわゆる"初心者"です。そんな状態なので、参加する前は正直なところかなりドキドキしていたのですが、簡単な説明だけで、驚くほど簡単にゲームを始めることができました。やっているうちにすぐに上達の手ごたえも感じられ、つい熱くなってしまいます。確かに、温泉旅館にあれば家族や友人で気軽に楽しめそう。よい意味でハードルが低い競技だという印象です!
モニターツアーに参加
簡単な説明だけでゲームを始めることができた
また、見た目はシンプルですが、いろいろと作戦を考えて勝負していくのがボッチャの難しくも面白いところ。競技としての楽しさはもちろんですが、チームで話し合うなかで交流が芽生え、コミュニケーションが深まるので、結果的にお互いを知るいい機会にもなりました。今回は初対面の方々とチームを組んだのですが、すぐに打ち解けることができ、距離も近づいた気がします。
・・・と、少しプレーしただけでボッチャという競技の魅力はつかめました。しかし、疑問の本命「ナゼ温泉で?」は、もう少し掘り下げてみたいところ。そこでJTBの担当者2人にもインタビューしてみました。
第三事業部 / スポーツビジネス共創部 大谷 信喜
入社以来、法人営業を担当。オリンピック・パラリンピック協賛企業への営業を経て、現在は大阪・関西万博2025および新規事業開発に取り組む。趣味は街道歩き。
静岡支店 吉田 和正
入社後は愛知県の法人営業を担当。現在は静岡県東部の地域交流推進担当として、現地の方々と協力しながら、地域の素晴らしさを発信するための様々な取り組みを行っている。趣味はバイクと、最近始めた伝統派空手。
伊東に、すでにあった“ボッチャの芽”を、観光の看板へ
―― そもそも、障害者競技のボッチャとの接点はどこから?
大谷:JTBは、東京2020オリンピック・パラリンピックにオフィシャルパートナーとして関わっていました。そのなかで、子どもたちにパラスポーツを通じた多様性の理解や、障害者との交流による様々な気づきを提供しようという狙いから、企業に協賛をいただいて学校にパラアスリートの講演会やボッチャ体験会を無償提供するプログラム(Potential Meets You)を実施していたのです。ちょうど社会的にもパラリンピックへの関心が高まっていたこともあり、私はそのような動きを一過性のもので終わらせず、パラリンピックの“レガシー(後世につながる業績)”にするためにはどうしたらいいかと考えていました。
「ボッチャは、本当の意味で健常者と障害者がフラットに楽しめるんです。」と大谷。
そんなときに新聞で、ある企業のトップと元オリンピック選手の対談記事を見て、『いつでもパラスポーツに触れられる機会を』という考えに共感。さらに、『温泉卓球があるのなら、温泉ボッチャもあり得るのではないか』という視点に興味を持ったのがスタートです。小さなお子さんから高齢者まで幅広い世代が気軽に楽しめるボッチャは、旅先で新たな交流を生み、旅の体験価値を高めていくことができるのではと考えました。そこで知人に相談したところ、日本でも有数の温泉地である伊東市の市長を紹介してもらった、という流れです。
市長を訪ねたところ、ボッチャの金メダリストである杉村選手が同市のご出身で、なんと名誉市民にも選ばれていることを知りました。そこから盛り上がり、『伊東市をボッチャの聖地にしましょう!』という話へ発展。そして、実は伊東市はすでにJTB静岡支店と観光ブランディング事業において協働しているということがわかり、担当の吉田に相談しました。
静岡県伊東市は日本でも有数の温泉地。今回の「温泉ボッチャ」モニターツアーの会場となった暖香園にもいい温泉がある。
吉田:そうですね、JTBでは官公庁や行政からの受託事業を手掛けていて、静岡支店では当時すでに伊東市から観光プロモーション事業の3ヶ年事業を受託していました。この観光プロモーション事業は、いわゆる『地域交流』として、地域と企業あるいは地域とお客様とをつなぎ、伊東市を盛り上げていくことを目的としています。そのため、日ごろから伊東市ならではの看板となるような誘客コンテンツの開発を考えており、そんなときに大谷から『ボッチャ』の話がありました。
これを推進するにあたっては、とにかく伊東市に住む皆さまのご理解やご協力が不可欠です。その点では、杉村選手が名誉市民になられていたり、市内の公立校で競技体験の機会があるなど、そもそも伊東市がボッチャの普及・振興に積極的に取り組んでいたので、土壌ができていたと思います。
一方でJTBとしては、青空マーケットの会場でボッチャの体験コーナーを設けたり、地元の旅館や観光関係者、交通会社等へボッチャを紹介したりといった活動をしています。また、公式のSNSアカウントや温泉ボッチャサイトの開設、各種広告物の掲示など、PR活動にも力を入れています。
大谷:私も地元中学・高校でのボッチャ体験を見学しましたが、生徒さんたちがとても楽しそうにプレーされていて、大変盛り上がっていました。また、あるミュージシャンのファンイベントでボッチャ体験の企画があったのですが、アーティストとファンの間だけではなく、ファンの方々のなかでも交流が生まれていたのが印象的でした。
社会や企業の課題解決、そして国際交流などに役立てたい
―― 温泉ボッチャは、普及していきそうでしょうか。
吉田:温泉ボッチャを普及させていくためには、大きく2つの方法があると考えています。「個人」と「団体」です。個人とは、家族や友人などの小グループを対象に、温泉宿などでの、まさに温泉卓球のような娯楽として普及を狙うもの。そして団体は、企業の研修旅行や学校の教育旅行において、そのプログラムにボッチャを組み入れていただこうというものです。
現在、特に後者での取り組みが先行していて、団体での研修やワーケーションの合間にアイスブレイクとして取り入れていただけるよう、積極的に提案しています。体験後にはアンケートを取っているのですが、『アイスブレイクとボッチャは、とても相性がよかった』とか、『他業種の方とのコミュニケーションもスムーズにいきました』といった声が寄せられており、評判も上々です。
そうやって伊東で楽しまれた方々が、地元へ戻ってからもボッチャの話を"お土産話"として発信してくださったら、さらなる広がりが生まれるのではと思っています。そのためには、やはり各旅館や施設様からのご協力が必要ですので、これからどうその輪を広げていくか。これが私の大きな使命です。
大谷:スポーツには、社会課題を解決したり、社会にインパクトを与える力があります。ボッチャを通して、障害者と健常者の交流機会を創り、また地域に新たな交流を生み出して温泉街に活力を与え、生活者の健康づくりや多様性の理解促進につなげることができます。今後は、伊東市を温泉ボッチャの聖地にし、この取り組みを全国に広げることで、国内各地の温泉街の活力再生につなげていきたいですね。いわば全国規模の「温泉ボッチャプロジェクト」です。さらに、ボッチャは世界的に認知されているパラリンピック競技であるため、国際交流や相互理解の促進、あるいは、修学旅行先のコンテンツとして、または探究学習での活用といった価値を創出できればと考えています。
誰もが参加しやすく、話も弾む、そんな交流の場となれる
いかがだったでしょう。取材から、『温泉で、ボッチャ』を楽しめることの意義が見えてきました。ボッチャなら、他の競技と比べてプレーにおける障害者と健常者のハンディや差が小さいため、誰もがフラットな条件で一緒になって楽しめる。それはつまり、より多様な人々を迎え入れ、あらたな交流を生みだす大きな可能性を秘めているということではないでしょうか。
まだ、プロジェクトとしては動き出したばかりのボッチャですが、数年後、さまざまな温泉地で人・組織・地域どうしの、これまでにない交流を生みだしている様子が見られるかもしれませんね。
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