中高生の探究学習・キャリア学習への活用に期待。メタバース上で企業の事業活動が学べる「PMYアカデミー」
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企業の活動と中高生の学びをメタバースでつなぐ社会体験学習プログラム「PMY(ピーエムワイ)アカデミー」。2025年4月に製品化して以降、中学・高校のキャリア教育や探究学習の教材として導入が進んでいます。
「職業」ではなく、その背景にある「事業活動」に焦点を当て、従来のキャリア教育とは異なる発想で開発されたPMYアカデミーには、どのような思いが込められているのでしょうか。
プロジェクトの発起人であるJTBビジネスソリューション事業本部の大谷信喜とともに、開発支援を行った一般社団法人キャリアアクシス研究所 代表理事の小林等さん、一般社団法人つくるとつなぐのまなび 理事の難波俊樹さんに、開発の背景と今後の展望について伺いました。

ビジネスソリューション事業本部 事業推進担当部長
大谷信喜
JTB入社後は、法人営業を担当。プロモーション事業、国際スポーツイベント、スポーツホスピタリティなどに携わる。現在は、新規事業開発に取り組んでおり、2025年4月に「PMYアカデミー」をローンチ。

一般社団法人キャリアアクシス研究所 代表理事 小林等
早稲田大学商学部卒業後、JTBに入社し教育旅行営業に従事。2013年、社内の新規事業公募制度で「キャリア教育事業室」を設立し、中高生を対象にしたキャリア教育プログラム「CASプログラム」を開発。2020年にJTBを退職し、複数の仕事を持つポートフォリオワーカーに。現在は、一般社団法人キャリアアクシス研究所の代表理事、玉川大学観光学部准教授、地域密着型スポーツクラブ「ラビッツクラブ湘南二宮」の代表を務める。

一般社団法人つくるとつなぐのまなび 理事 難波俊樹
東京工業大学大学院社会理工学研究科修了後、東京女子学園中学・高等学校教員、出版社勤務を経て、東京富士大学経営学部の准教授を務める。また、探究学習の研究にも力を注ぎ、「日本アクティブ・ラーニング学会」理事や、「一般社団法人つくるとつなぐのまなび」理事、麹町学園女子中学校・高等学校の探究特別顧問として従事しながら、教育現場に探究学習の大切さを伝えている。
中高生たちに届けたい“新しい可能性”。「PMYアカデミー」に込めた思い
――まずは、PMYアカデミーの概要を教えてください。
大谷:PMYアカデミーは、企業の事業活動と中高生をつなぐ社会体験学習プラットフォームです。大きな特徴は、企業の事業内容をメタバース上に展開しているということ。参加している生徒は、オンライン上に構築された仮想空間内を、パソコンやタブレットを使って自由に回遊し、企業ごとの教室を巡りながら理解を深めていくことができます。
2025年12月現在、協賛していただいている企業数は7社。11月にはJTBも教室を公開しました。多彩な事業内容に触れることで、生徒の探究心や社会への視野が広がることを期待しています。
ビジネスソリューション事業本部 アウターコミュニケーション推進チーム 事業推進担当部長 大谷信喜
――「PMYアカデミー」という名称には、どんな思いが込められているのでしょう。
大谷:「PMY」は「Potential Meets You.(可能性に会いに行こう)」の頭文字です。この言葉の原点は、東京2020パラリンピック競技大会に向けて、JTB内で立ち上げたプロジェクトにあります。企業と学校が連携し、アスリートとの交流イベントなどを通じて、中高生たちが「自分自身の可能性に気づく機会」を創出してきました。
今回のPMYアカデミーにも、その理念を引き継ぎたいという思いから、この名称を採用。「新しい可能性に気づく機会」を、より多くの生徒たちに届けていきたいと考えています。
「職業の選択肢を増やすよりも……」。実体験から気づいたキャリア教育の大切さ
――今回のプロジェクトは、小林さんと難波さんも開発に大きく関わられたと伺っています。どのような体制で開発を進められたのでしょうか。
大谷:難波さんには、学習プログラムの企画や教員向けのご指導を。小林さんには企画のためのアイデア出しや、学校導入のサポートを中心にご協力いただいています。
実はPMYアカデミーのきっかけは息子と小林さんにありまして…。小林さんは以前JTBにいて、そのときに開発されたキャリア教育プログラム「CASプログラム(※)」を、私の息子が高校生のときに受けていたんです。
当時、息子とそのプログラムについて詳しく話す機会はなかったのですが、大学の入学式を控えたある日「どうしてこの学部に興味を持ったのか」と聞いてみたんです。すると「CASプログラムがきっかけだった」と。JTBが提供していたプログラムだと知り、すぐに小林さんに会いに行きました(笑)。
※ CASプログラム:「Career Axis Support Program」の略。JTBが提供するアクティブラーニング型のキャリア教育プログラムで、自己分析や社会人との対話を通して、生徒が「働く理由の中で、もっとも大切にしたいこと」である「キャリアの軸」を明確にしていくことを目的としている。(CASプログラム(Career Axis Support Program))
一般社団法人キャリアアクシス研究所 代表理事 小林等
小林:懐かしいですね。「CASプログラム」は、JTB在籍中に「子どもたちが、保護者や教員以外の社会人との接点を十分に持つことができていない」という課題を感じて、新規事業公募制度を活用して立ち上げた事業なんです。
「どのような職業があるか」を知る前に、「どのような思いで働いているのか」という生き方に触れることが、進路選択や職業選択の動機づけにつながり、社会に出てからもやりがいを持って働けるのではないか。そんな想いから構想しました。
実際に大谷さんの息子さんがCASプログラムを受講し、それが進路選択につながったと聞いたときは、本当に嬉しかったですね。
――社会で働く人の思いに触れることで、将来の働き方が具体的になったのですね。
大谷:その通りだと思います。登壇者の仕事に対する思いや熱意に触れ、「この領域で学びを深めたい」と考えるようになったと聞きました。それまでは「親として息子に何もできなかった」と思っていたのですが、そんなかたちで自分のいる会社が息子の進路選択に関わっていたと聞いて、驚いたし、嬉しかったですね。
そして「この気づきと学びは、もっと多くの子どもたちに届けるべきだ」と確信し、小林さんに連絡を取り、「一緒に新しいプロジェクトを立ち上げよう」とお声がけしたんです。
小林:大谷さんから連絡をもらい、本格的にキックオフミーティングをしたのが、2022年2月ごろ。まさにコロナ禍でしたので、自宅近くの山の上で、ミーティングをしたのを鮮明に覚えています。
当時、CASプログラムは対面を重視し、生徒と社会人がリアルで交流する形式で実施していたため、どうしても開催できる地域に制限があるのが課題でした。大谷さんからの提案は「オンラインで学べる形に」という話で、その課題も解決できるのではと大きな可能性を感じましたね。
――教育現場に探究学習の大切さを伝える難波さんの立場から、現在のキャリア教育において改善点はありますか?
一般社団法人つくるとつなぐのまなび 理事 難波俊樹
難波:地域格差に加え、「職業の選択肢のせまさ」には以前から課題を感じていました。例えば中学の職業体験では、「学校から半径1キロ圏内」など、近隣企業だけに依存してしまう傾向があります。そうなると、学生が接点を持てる企業や職業の幅はせまくなってしまい、その後の進路に十分に生かすことができません。
さらに高校になると、「大学選び」が中心になってしまうため、「その先にある社会」にまで目を向けられていないように感じています。
実際、親や親戚にインタビューするだけで、探究学習が終わってしまう学校も多いようです。より多様な仕事に触れられる環境をつくり、生徒たちが幅広い選択肢が持つことができたら、より良いキャリア教育につながるのではないでしょうか。
探究心を引き出す仕掛けとは? プログラム開発に向けたこだわり
――開発において、こだわったポイントを教えてください。
大谷:生徒たちとの接点の多い企業だけでなく、接点が少ない企業にも積極的に参加してもらうことを重視しました。
例えば、日常生活のなかで触れる機会の多い小売りや食品、エンタメ業界は生徒たちも事業内容をイメージしやすいですが、いわゆるB2B企業などはなかなか直接的な接点がありません。そういった「普段接点のない企業や仕事」に触れることも、キャリアの視野を広げるきっかけになるはずだと信じて、引き続き幅広い業種の企業に参加を呼びかけていくつもりです。
難波:コンテンツ作りの過程では、各企業が大切にしている「事業の背景」をどう伝えるかにも注力しました。
例えば、冷凍食品を手がけるニチレイフーズさんの場合は、「なぜ食品を冷凍するのか」という背景を紹介。冷凍することで賞味期限が長持ちし、それがどのような社会課題を解決していくのかなど、「なぜその事業や技術が社会に必要なのか」を理解することで、新しい探究にも発展すると考えています。
実際に、ある学校では、ニチレイフーズさんのコンテンツがきっかけとなり、「どのような食材であれば冷凍保存が可能なのか」という実験に発展した事例もあったようです。
――幅広い業種の仕事を知ることや、事業内容の背景を知ることで、生徒の探究心も深まっていくということですね。教育現場への導入において、学校側からの反応はいかがでしたか。
小林:より多くの子どもたちに届けたいという思いにもつながりますが、学校側の費用負担が不要という点は評価いただけていると思います。
また、普段使っている端末をそのまま利用でき、教師向けのガイドやワークシートも用意しているため、事前準備が最小限に抑えられる点や、インターネット環境さえあれば使用できるので、時間や場所にとらわれず学べるという点も、多忙な学校現場との相性が良い仕組みだと評価いただいています。
大谷:一方で、メタバースに対する教師の方々の理解促進や、学校のICT環境の差に課題を感じました。学校によっては、まだDXが浸透していないところも多く、「メタバースとは何か」というところから理解を深めてもらう必要がありました。
また、クラスの全生徒が同じタイミングでアクセスしてしまうことで、システムに負荷がかかり、接続が乱れてしまったこともありました。
――PMYアカデミーを導入し、授業に活用している学校からは、どのような声が届いていますか?
小林:トライアルで実施してもらった高校の生徒からは、「今まで体験したことのない感覚だった」「冒険しているようなワクワク感があった」「メタバースの世界観が面白かった」などのポジティブな声が届いています。
他にも、「視野を広げ、将来のことについて学べるきっかけになった」という声も。ゲーム感覚で楽しく学んでもらい、将来への気づきにつなげていってほしいですね。
大谷:実際の授業の様子を見に行かせてもらったことがあるのですが、「今日はPMYの日です」と先生が案内すると、教室が湧きたつんですよ。嬉しかったですね。
すでに60校を超える学校に申込みをいただき、活用がスタートしています。メタバースについても、デジタルネイティブの生徒たちは、操作方法などを詳しく説明しなくても、積極的に空間を回遊している様子でした。
余談ですが、チャットや撮影などを楽しめる機能に加え、学びには直接関係ないのですがアバターにダンスをさせることもできるんです。これが生徒たちに好評で(笑)ゲーム感覚で楽しく、前向きに学びを深めていってもらえたらと思っています。
学校と企業をつなぎ、生徒たちの可能性を広げる未来へ
――今後の展望や期待していることについて教えてください。
小林:現在、都心部だけでなく、地方の学校からも導入を希望する問い合わせをいただいています。これはまさに私たちが実現したかったこと。
大谷さんの息子さんのように、中高生のときに社会と接する機会を得ることで、進路選択の幅が広がり、その後の生き方が大きく変わる可能性もあります。PMYアカデミーが、学校と企業の架け橋になってくれることを期待しています。
難波:生徒の学びや探究心は、いかに「内発的動機づけ」を高めるかが重要です。
しかし、「良い学校に進学させること」に注力してしまう学校が多いのも事実。「生徒たちの探究心と学びをどのように結びつけるか」という部分に、学校側が目を向けていく必要がありますね。
大谷:時間と場所を選ばないPMYアカデミーだからこそ、できることは幅広いと考えています。
海外の日本人学校とつないだり、不登校の生徒がいつでも社会にアクセスできる機会として活用してもらったり。大企業だけではなく、スタートアップ企業や農林水産業、自治体などの参加も視野に入れ、さまざまな活用方法を検討しながら、今後もたくさんの生徒たちに、多くの可能性を届けていきたいです。
文:佐藤有香
写真:大童鉄平
編集:花沢亜衣
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