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観光地のストーリーに没入。ソニーマーケティングとJTBが目指す地球丸ごとテーマパークの夢

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自治体やDMO(観光地域づくり法人)、観光事業者の方たちが抱える課題の解決と、旅行者の体験価値向上のために、JTBでは地域の観光DX推進に取り組んでいます。なかでも象徴的な取り組みのひとつが、音声ARサービス「Locatone™(ロケトーン)」との連携。現実世界に仮想世界の音が混ざり合う新感覚の音響体験サービスを使い、観光地での新しい体験をご提案しています。今回は、「Locatone」のビジネスプロデューサーを務めるソニーマーケティング株式会社(以下、SMOJ)の青山龍さんと、ともにコンテンツ開発に従事するJTBの田中路子に、そのサービスの中身からコンテンツの楽しみ方、拡がる旅の新たな可能性について話を聞きました。

ソニーマーケティング株式会社 事業開発センター 事業企画部 企画課 青山龍

2003年ソニー株式会社に入社。2013年よりソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社にて、次世代型イヤホン「Xperia Ear」などのウェアラブル商品およびサービス企画に従事。現在は音声ARサービス「Locatone」のビジネスプロデューサーとして音声コンテンツの企画・制作、パートナー企業との連携、プロモーションなどを手掛ける。

JTB ツーリズム事業本部 エリアソリューション事業部 観光DXチーム 田中路子

1992年入社。都内支店にて法人営業、個人店頭営業を務めた後、本社にて個人事業の推進を担う。2022年4月からエリアソリューション事業部着任し、ふるさと納税事業や旅ナカ事業者ソリューション事業推進を担当。現在は流通プラットフォーム領域担当として、Locatone事業に従事している。

音による“地球丸ごとテーマパーク”を地域の課題解決に

———まずは、お二人それぞれのお仕事についてお聞かせください。

田中(JTB):私は地域・エリアをひとつの“テーマパーク”のようにつなげ、価値を高めることを目指すエリアソリューション事業部に所属しています。観光DX、観光地整備・運営支援、エリア開発という3本の柱があるなか、私が在籍する観光DXチームの役割は、観光業に関わる方々が抱える課題に寄り添い、デジタルを積極的に活用しながら解決のお手伝いをすることです。また、エリア開発チームが中心となり、香川県の小豆島では「20年先の小豆島をつくるプロジェクト」なども進行中です。それぞれ地域と正対してさまざまな取り組みを行っています。

青山(SMOJ):私はソニーマーケティング株式会社の事業開発センターに所属し、音声ARサービス「Locatone」のビジネスプロデューサーを担当しています。JTBさんと私たちを結びつけてくれたのも「Locatone」です。というのも、「Locatone」のコンセプトは“地球丸ごとテーマパーク”。田中さんが所属されるエリアソリューション事業部の目指すところも、地域やエリアをひとつの“テーマパーク”のようにつなげ、価値を高めることですよね。つまり、お互いのコンセプトが見事に合致したのです。

———両社を結びつけた「Locatone」とは、どのようなサービスなのでしょうか。

青山(SMOJ):ソニーの技術を活用した、現実世界に仮想世界の音が混ざり合う新感覚の音響体験サービスです。(「Locatone」公式サイト)“地球丸ごとテーマパーク”というコンセプトのもと、音の力であらゆる場所をエンターテイメントに変えることができます。お好みのコンテンツを選び、マップ上に表示されたスポットを訪れると、位置情報に連動して自動的に音声や音楽が聞こえてきます。
一般的にAR(拡張現実)というと、ビジュアルを用いたARサービスを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、映像を主としたARサービスの場合、視線も意識も、仮想世界が映し出されるスマートフォンのほうに向きがちです。せっかく観光に来たのだから、目の前の景色を楽しみたい。その点、音声ARであれば美しい景色に目を向けつつ、耳に装着したイヤホンから流れる音が拡張現実の世界へとシームレスに誘ってくれる。目前に広がる現実世界の体験をより豊かにする。これが「Locatone」です。

土地の世界観に音声ARを重ね、町全体をエンタメ化

———JTBとソニーマーケティングの「Locatone」、共創のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

田中(JTB):2023年に、鳥取県境港市にある「水木しげるロード」の誕生30周年を盛り上げるための特別企画があったんです。それがきっかけですね。「水木しげる記念館」の公式ホームページにもあるように、“境港駅を出たら、そこはもう妖怪の世界”です。境港駅から記念館までの約800mにわたって、水木先生が描かれた『ゲゲゲの鬼太郎』の世界観が存分に再現されています。境港を訪れた方に、より一層その世界観を味わっていただくためのサービスを検討するなかで、注目したのが「Locatone」でした。私の後輩がこのプロジェクトを担当していたのですが、その後輩いわく、「世の中に音声ARサービスは複数あれど、『Locatone』の没入感は別格。お声掛けするなら『Locatone』しかない」と。

青山(SMOJ):それはありがたいお言葉ですね。私たちとしても、願ってもないお声掛けでした。「水木しげるロード」に並ぶ妖怪のブロンズ像は、なんと178体。ブロンズ像たちを主役に重厚なストーリーが築かれていて、その世界観は圧巻です。そこに音声ARを重ねることで、まさに町全体をエンターテイメント化できるのではないか。「水木しげるロード」と「Locatone」に高い親和性を感じました。JTBさんからお声掛けいただいた際は運命のようなものを感じました(笑)。

田中(JTB):実は私も、ある意味運命を感じまして(笑)。というのも、私は無類の2次元キャラクター好き。自宅の棚にはアニメやマンガから飛び出したキャラクターフィギュアがずらりと並んでいるほどなんです。こんなかたちでキャラクター作品に携われるなんて…!と、とてもわくわくしたことを覚えています。
この企画では水木プロダクション監修のもと、青山さん率いるチームの皆さんとともに「目玉おやじと行く 夜の妖怪ぶらり旅」と題した音声ARコンテンツを制作しました。これがもう、本当に素晴らしいんです。

青山(SMOJ):「目玉おやじと行く 夜の妖怪ぶらり旅」の制作は、JTBさんとの共創第1弾。没入感のある現地体験を演出するために、スマートフォンに内蔵されたセンサーを活用して体の動きに合わせて自動的に効果音が再生される、ソニーのモーションサウンドという技術を取り入れています。

例えば、鬼太郎は下駄を履いていますよね。鬼太郎の下駄のブロンズ像の周辺でスマートフォンを片手に歩くと、足を踏み出すごとにカランコロンと下駄を踏み鳴らすサウンドが流れます。音声の収録方法にもこだわりました。ガイド役を務める目玉おやじが、あたかも自分の肩の上から話しかけているような体験を演出するために、バイノーラル録音(※)を採用しています。ご自身の右肩から左肩へ、目玉おやじが移動するような感覚も味わえます。

※ バイノーラル録音・・・人間の耳と同じ位置に2つのマイクを配置して録音する技術。ヘッドホンやイヤホンで音声を聞くと、まるでその場にいるような3D音響が再現される。

田中(JTB):さすが、ソニーグループの技術ですよね。私もこのコンテンツを体験しましたが、まるで自分自身が鬼太郎になったかのような没入感。普段からアニメやマンガの世界に浸っている私ですが、2次元を飛び出してその世界に入り込んだような体験ができるのは、初めての感覚でした。

極論的には人手は不要。生まれたゆとりを触れ合いに

———新たにリリースされた「歴史体感シリーズ 決戦!関ケ原」。こちらについてもお聞かせください。

田中(JTB):私は「歴史体感シリーズ 決戦!関ケ原」の企画から、本格的にご一緒させていただくことになりました。このシリーズの目的は、戦国・城・偉人をはじめとする歴史をエンターテイメント化し、観光地の魅力向上と収益化を同時に実現することです。そのシリーズ第1弾が岐阜県にある関ケ原町を舞台とした「決戦!関ケ原」ですが、これは青山さんの存在なくしては実現しなかったコンテンツです。

青山(SMOJ):田中さんが無類の2次元好きなら、私は無類の歴史好きです。“天下分け目の戦い”とも称されるように、関ケ原の戦いは日本の歴史における重要な転換点。社会科の教科書にも取り上げられ、詳細は知らなくても“関ケ原の戦い”というフレーズは誰もが知っていますよね。その歴史を今に伝えるべく、徳川家康を中心とした東軍最後の陣地跡には「岐阜関ケ原古戦場記念館」が建てられ、町の随所にのぼりの立った陣跡を見ることができます。

ただ、いわゆる天守閣のような“ザ・観光地”といった史跡はなく、観光の目的地としては選ばれにくい。私はひとりの歴史好きとして、そのことに歯がゆさを感じていました。
でも、だからこそ「Locatone」の力を生かせる。「Locatone」が持つ音の力をもってして、両軍合わせて15万人以上がぶつかり合った空間を再現できれば、あちこちに決戦の足跡が残る町全体をエンターテイメント化できるのではないか。そんな想いを原動力に、私からこの企画を提案させていただきました。

田中(JTB):多くの方々に土地に根付いた観光資源を再発見していただき、実際に足を運んでもらうこと。これはまさに私たちJTBが取り組むべきだと感じ、青山さんのご提案を自治体の方々に持ち掛けました。
私自身も関ケ原町を訪れ、地元の皆さんと直接お話をするなかで、地元の皆さんの「我が町を盛り上げたい」という強い想いはひしひしと感じていたんです。一方で、関ケ原町に限らず多くの自治体が「観光地維持の財源確保」と「人手不足」といった課題を抱えている現実もあります。持続的な観光地運営のためには、当然ながらお金も人手も欠かせません。
それが「Locatone」をご活用いただければ、これまで無料だった史跡めぐりを、コンテンツとして有料化できるわけです。JTBの販売サイトから音声ガイドなどのコンテンツを購入し、お客様がご自身のタイミングで現地を訪れていただく。そうすれば、地元のガイドがいなくても、町の誇りである歴史的な戦いを体感できます。そして観光資産を未来に向けて守り伝えることができると同時に、地元の観光事業者の方々はガイド業務以外に観光客の皆さんとの触れ合いにもっと時間を使うことができる。「Locatone」には、こうしたメリットもあるんです。

———「歴史体感シリーズ 決戦!関ケ原」、具体的にはどのようなコンテンツなのでしょうか。

青山(SMOJ):舞台は関ケ原町の古戦場エリア。町のあちこちにある史跡を巡ると、耳に装着したイヤホンから武将たちの話し声や鉄砲の轟き、馬のいななきといったサウンドが臨場感いっぱいに自動再生されます。「歴史体感シリーズ 決戦!関ケ原」にもソニーのモーションサウンド技術を取り入れているので、スマートフォンを持つ人の動きに合わせて、ガチャッ、ガチャッと甲冑のこすれる音が鳴り、スマートフォンを振るとカシャーンカシャーンと刀のぶつかり合う音が流れます。

個人的なこだわりとしては、スマートフォンを振り、敵を斬った後に流れる断末魔の声ですね。関ケ原の戦いでは東西の両軍合わせ、15万人以上もの兵がぶつかり合ったと言われています。この15万という数字は日本史上最大規模です。か細い声とともに散った人もいれば、最期に勇ましい声を上げながら散った人もいたことでしょう。両軍がさまざまなバリエーションで抗戦したであろう想定に基づき、100種類以上の声を収録しています。

田中(JTB):実際に体験した方々にアンケートをとったところ、今青山さんからおすすめいただいた、敵をバッサバッサと斬り倒していくスポットの評価はとても高かったですね。また、本格的なリリース前に実施した自治体関係者向けの体験会でも、参加してくださった皆さんが無邪気にスマートフォンを振り回す様子が印象的でした(笑)。
しかし、評価をいただけたのはエンターテイメントの部分だけではありません。歴史をたどるストーリーの重厚さ、コンテンツの所要時間や価格を含め、「総じて満足」という評価が多く寄せられました。さらに「歴史に詳しくない私でも楽しめました」という嬉しいお声もありました。

青山(SMOJ):そこは意識的に体験設計した点でもあります。歴史に興味のない方からすると、「歴史」という単語を聞いただけでもハードルを感じてしまうと思うんです。しかし、それをエンターテイメント化することで、障壁を感じることなくお楽しみいただける。「Locatone」に“地球丸ごとテーマパーク”という、エンタメに振りきったコンセプトを立てたのも、このようなおのずと生じる障壁を取り除くためです。

そして、実際に関ケ原町に足をお運びいただいたら、町にある史跡スポットをくまなく巡っていただきたい。これは観光客をお迎えになる地元の方の想いとも重なります。「歴史体感シリーズ 決戦!関ケ原」には町の史跡を周遊したくなるようなストーリーはもちろん、スポットごとに異なる武将のARが出現し、町の景色やご自身とともに写真を撮れるARカメラ機能も搭載しています。

田中(JTB):「歴史体感シリーズ 決戦!関ケ原」は旅行中のいわゆるタビナカだけでなく、どこに行こうかと想像を巡らせるタビマエにも、旅を振り返るタビアトにも効果を発揮すると考えています。タビマエであれば「このコンテンツを楽しみたいから関ケ原町に行ってみよう」という気持ちを喚起できますし、武将ARは旅から帰ったタビアトにも出現させられるので、振り返りにもぴったり。私自身、自分のスマートフォンに武将を登場させては会社のデスクに佇ませてみたり、自宅のフィギュアと一緒に撮影したりしています(笑)。

地域の誇りを大事にしながらアトラクションを増やす

———「Locatone」のサービスは、これからの旅行にどのような可能性をもたらすのでしょうか。

田中(JTB):先日開催された「観光DX・マーケティングEXPO」で、JTBとして「Locatone」をご紹介し、あらためてサービスの可能性を実感したところです。先ほどもお話ししたように、「Locatone」は多くの自治体やDMO、観光事業者の方たちが抱える課題解決に貢献できるものと自負しております。

また、「Locatone」は音声ARサービスであるがゆえに、海外からのお客様の対応も容易です。収録する音声を海外の言語にすれば、多言語人材の確保という高いハードルを乗り越える必要なく、さまざまな国の方をお迎えすることができます。「観光DX・マーケティングEXPO」では、そんな「Locatone」の魅力が多くの方に伝わったのではないでしょうか。お問い合わせはもちろん、具体的なご相談をくださる事業者の方も増えてきました。

青山(SMOJ):私も「株式会社JTB」と書かれたネームプレートを胸に展示会に立たせていただきましたが(笑)、多くのご連絡を頂戴していると聞き、本当に嬉しい限りです。田中さんが触れたインバウンド対応の容易さを含め「Locatone」は拡張性に長けたサービスです。

例えば、最近の「NHK紅白歌合戦」では、副音声の実況トークが定番ですよね。映像に重なる音声のストーリーが異なると、同じ映像を見ていても感じ方が変化するんです。これがまさに音の力です。同じ関ケ原町を舞台にしても、重ねるストーリーを変えるとまた違った旅になる。つまりはリピーターの方を呼び寄せる際にも、力を発揮するはずです。
また、「Locatone」であれば、現地に新たに箱物をつくる必要はありません。もし、テーマパークにあるようなジェットコースターや観覧車等の乗り物を一つひとつ増やしていくとしたら、コストも時間もかかりますが、「Locatone」であればそこにある景色をそのまま生かした没入体験を提供できる。これは地域の環境を守ることにもつながります。

田中(JTB):まさに地域環境への配慮と町の活性化を両立できるサービスですよね。それと「Locatone」は青山さんや私のような、いわゆる“オタク”にも優しいサービスと言えるかもしれません(笑)。イヤホンから流れる音声が、ひとり旅にも寄り添ってくれますから。

音声ARというテクノロジーによって、地域の魅力に新たな付加価値が生まれる——これは、ソニーグループの技術があってこそ実現できることです。私たちJTBは、全国47都道府県に拠点を構え、地域の皆さまのお声に常に耳を傾けてきましたが、JTBの力だけですべての課題を解決するには限界があるのも事実。だからこそ、今回の連携が象徴するように、異業種との積極的な共創こそが、より良い未来を築く鍵になると確信しています。
現在、「歴史体感シリーズ」の第2弾・第3弾の構想も進行中です。これからも多様な“好き”に寄り添いながら、バラエティー豊かなコンテンツを開発し、地域やエリアをテーマパークのように魅力あふれる場所へと育てていくために、全力で取り組んでいきます。

文:大谷享子
写真:大童鉄平
編集:花沢亜衣

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