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歴史的ルートが、いま悲願の観光資源へ。
地域の夢と歩む観光開発プロデューサー(富山編)

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ときどき飛び込んでくる「悲願の優勝」「悲願の完成」「悲願の受賞」といった、社会を明るくしてくれるニュース。ただ、悲願というだけあって、その裏には長い時間や大変な努力が費やされてきたことでしょう。

旅行業界にもいろいろな悲願があるなか、北陸新幹線の延伸と同じ年に、富山県でも一つの悲願が達成されようとしています。それが「黒部宇奈月キャニオンルート」の一般開放・旅行商品化です。これにたどり着いた歳月は、実におよそ60年!富山はもちろん、北陸観光の大きな目玉となりそうです。今回は、富山県地方創生局のご協力のもと、富山の魅力と、ルートの企画・整備に取り組んできた社員を取り上げます。

富山県地方創生局 観光振興室課長 高田 敏暁

「立山黒部・広域観光戦略担当」として、立山黒部エリアの観光振興と、北陸新幹線の敦賀延伸に絡み、北陸3県やその近隣県と広域観光連携に携わっている。休日には、旅行者の気持ちをつかもうと、県内のイベントや新しい施設などを自分の目で見に。その際の移動にはもっぱら公共交通を利用し、各地で富山の地酒を楽しんでいる。

富山支店 観光開発プロデューサー 甲田 憲幸

長野や岐阜の支店で、教育旅行や法人営業、イベント運営などに20年ほど携わり、現職として富山に単身赴任して6年目。自ら現場へ行くことを大切にしていて、お客様と実際に顔を合わせながらさまざまな調整をしてきた経験が、現在の仕事にも活きている。自身が旅行でよく訪れるのは「祭り」と「滝」。とくに、どこか癒される滝が好きで、妻との初デートや家族を富山に呼んでの観光でも滝を訪問したほど。

海と山が織りなす美しい風景。住みやすさも全国トップクラス。

―― まずは富山県の特徴を簡単にご紹介いただけますか。

高田:日本列島の中央付近で、日本海側に位置し、富山・石川・福井の北陸3県のなかで、もっとも東に位置するのが富山県です。北に日本海、東・南・西の三方は山に囲まれ、豊かな自然に恵まれています。県庁所在地の富山市を中心に半径50km内というまとまりの良い地形のため、県の端から端までの移動に時間や手間がそうかかりません

甲田:多様な鉄道や路面電車などが県内をつないで走り、黒部峡谷にはトロッコ列車もあるなど、鉄道をスムーズに乗り継いで県内のいろいろなところへ行くことができます。それを目当てに富山へ来られる鉄道好きも多いですよね。高田さんは、ずっと富山にお住まいなんですか。

高田:私は富山県の立山町で生まれ、大学4年間以外はずっと富山で暮らしています。富山人として、富山の魅力をひと言で表現するなら「住みやすい県」だと思います。指標として、持ち家率のが高さや居住面積の広さがよく用いられます、そして月並みかもしれませんが「ゆたかな自然と、おいしい食べもの」があることです。甲田さんは外から富山を見ていたとき、どう思われていましたか。

甲田:私は長野県の出身ですが、富山県について以前は「上にある県」という程度の認識でした。よく「北信越」といったくくり方をされますが、北陸新幹線が開業するまでは行き来が不便で、交流が活発とはいえなかったからだと思います。私が長野県の上田支店で勤務していたときに支店長だった者が福井支店へ異動になったときも、当時は直江津経由で福井まで5~6時間かかったと聞きました。福井の人たちにも、上田市はあまり知られていなかったそうです。

高田:確かに、富山と長野は県境が接していますが、以前は行きにくい印象が強く、あまり近い感覚がありませんでしたね。いまは新幹線ができて近く感じられるようになり、富山から長野へ行く人も増えたのではないでしょうか。富山は東京から1時間の飛行機に加え、新幹線ができて乗り換えなしの2時間ちょっとで来られるようになったことは大きいです。

甲田:正直なところ、有名なイベントである「おわら風の盆」は知っていたものの、ほかに富山のことはあまり知りませんでした。

それでも以前に北陸を旅行したときに富山でお寿司を食べたり、岐阜支店に勤務していたときも立山黒部アルペンルート(以下、アルペンルート)や黒部峡谷へ来る機会があったなかで、富山が素晴らしいところだと少しずつわかっていきました。富山へ赴任することになった際は、海がある街に住めることもうれしかったです。最初に新幹線で富山へ入ったときのことは、いまも強く覚えています。長野方面から北陸新幹線で入って、車窓から左側には立山連峰の雪を抱いた美しい景色、右側には輝く富山湾が広がる光景が見えたときは感動しました。「海と山しかないです。」というポスターを魚津市が制作されていますが、これだけ海と山が近くにある場所はそうないでしょう。

雄大な自然に、歴史・文化もある。海の幸は、ぜひ富山県内で。

―― 観光をする上では、どのような魅力がありますか。

宇奈月駅を出発したトロッコ電車が最初に渡るのがこの赤い鉄橋「新山彦橋」。手前の「旧山彦橋」は現在遊歩道となっている。

高田:富山県は、富山市にある呉羽山を境に、西の「呉西」と東の「呉東」に分けられます。呉西には高岡市・射水市・氷見市・砺波市・小矢部市・南砺市の6市があり、連携して取り組みをおこなっています。呉東でも自治体同士が連携して観光圏を形成しています。呉西は加賀藩の文化などから影響を受けたエリアで、「高岡御車山祭」や世界遺産にもなっている「五箇山の合掌造り集落」など、歴史的・文化的な特色をもちます。一方の呉東は、自然豊かなエリアです。海側には滑川や魚津といった漁港などがあり、山側の立山黒部アルペンルートや黒部峡谷トロッコ列車は富山県を代表する観光地です。

立山黒部で雄大な山々を見ていただき、短い時間で海側へ移動してシロエビやホタルイカ、ブリといった海の幸を楽しんでいただけるのも山と海が近い富山県ならではの魅力です。

甲田:3,000mの山頂から海底 1,000m まで、標高差 4,000m の急こう配を雪解け水が流れ、土地を潤しながら富山湾に注ぎ込む。おいしい水は、おいしい米、おいしい酒を生み出していますし、富山湾も「天然の生けす」といわれ、豊富な種類の海産物が獲れる。富山ならではの食の魅力も生みだしていますよね。

高田:その後は、ぜひ呉西まで足を伸ばしていただき、世界遺産の五箇山や高岡の国宝・瑞龍寺と勝興寺などで歴史・文化を堪能していただきたいです。「おわら風の盆」など特色あるお祭りも季節ごとにあります。甲田さんが富山に来られて、特に気に入ったものってありますか。

甲田:新鮮な海の幸、さらにその旨みを増す「昆布締め」です。まず、昆布自体は富山の特産でないようですが、消費量は日本一なんですよね。昆布のおにぎりや、おでんに乗ったとろろ昆布などをよく目にします。昆布締めは、北前船が北海道から上方へ海産物を輸送する際に富山へ寄港したことがルーツにあるとか、北海道へ開拓に行った人の関係で伝わったとか。さす(カジキマグロ)やホタルイカ、白エビなどは昆布締めにすることで旨味が増しますよね。それが本当においしいです。

私がおすすめしたいのは、昆布締めの「鶏から揚げ」です。ある昆布締めメニュー専門店へ家族と行った際に娘向けに注文したランチに入っていたのですが、それを私の定食の刺身と交換したときに、そのおいしさを知ってしまいました(笑)ほかにも、山菜や熊などのジビエと昆布締めを組み合わせた料理などもあることを知り驚きました。

ただ、そんなたくさんの素晴らしい観光資源が、全国にあまり知られていないと感じます。「住みやすさ」といった指標で富山県は上位にきますが、観光関連の指標ではいつも隣の石川県に及びませんよね。その理由の一つに、富山の方たちの控えめな県民性にあるのではないかと思っています。

高田:そうですね、富山県民は謙遜してあまり積極的に物事を自慢したり、自分をアピールすることが苦手かもしれません。それが良いところである一方、観光客をお迎えする姿勢としては悩みどころです。以前は、たとえば観光客がタクシーで「富山のおすすめのところは?」と質問しても「何も無いちゃ(富山弁)」と答えてしまう、というお話もありました。そう聞いたら、観光客をがっかりさせてしまいますよね。9年前に北陸新幹線が富山に開業するときに、みんなでおもてなしをしっかりしましょう!、ということで、観光業に携わる事業者の皆様に呼びかけてきて、いまは、ホスピタリティを感じる県としての評価も受けるようになりました。ただ、資源としてはまだまだ知られていない、いいものもたくさんあると思っています。

甲田:言い換えれば、かなり伸びしろがあると思っています。たとえば、北陸の冬といえばカニで石川県や福井県が有名ですが、海がつながっている富山県でも当然獲れます。これがあまり知られていないのですから、情報発信で改善の余地があるということです。実際、金沢の市場に出回っている海産物には富山産のものが多くあります。北陸新幹線が敦賀まで延伸しましたし、カニを目的に福井まで来られていた関西圏の方たちが、今後は富山まで足を伸ばしてくださることを期待したいです。

黒部に誕生した新たな観光ルートは、現代日本のレガシー。

―― 立山にあたらしい観光の目玉が誕生したとお聞きしました。

高田:黒部川での電源開発は、大正時代に始まり、現在の宇奈月温泉の場所から黒部川の上流に向かって発電所を建設していった歴史があります。戦後、第三発電所のさらに上流に黒部ダムと第四発電所を建設するため整備されたルートも含め、欅平(けやきだいら)から黒部ダムまでの工事用ルートを「黒部宇奈月キャニオンルート(以下、当ルート)」として2024年に一般開放・旅行商品化する予定です。人跡未踏の険しい黒部峡谷において先人が成し遂げた電源開発の歴史や軌跡を、非日常の乗り物に乗って体感していただけます。

甲田:富山県の立山黒部エリアといえば、アルペンルートとトロッコ列車が有名ですが、実はこの2つ、つながっていません。トロッコ列車は宇奈月から欅平までの折り返しで、黒部ダムまでは線路がないからです。しかし、当ルートの一般開放・旅行商品化により、欅平から黒部ダム(逆も可能)へ工事軌道を利用してアルペンルートにアクセスできるようになります。このため、富山県内でぐるりと回って観光できることとなり、観光資源として立山黒部エリアの魅力がさらに大きくふくらみます。

高田:黒部ルートの開放は、長年の悲願ではありました。一方で現役の工事用ルートであり、現在も発電事業がおこなわれているため事業が優先です。そこへ観光客を入れるのは大変困難なことであり、さらに高い安全性も求められます。このため、公募見学会というかたちでの受入れという状況が続いていました。きっかけは当時、立山黒部エリアにおける観光資源に、より付加価値をもたせてブランド化し、世界へ向けて発信しようという大きな流れが生まれたことでした。

今回のルートのなかでは、竪坑エレベーターを欅平上部で降車後、歩いて竪坑展望台へ向かう場面も。

そこで当ルートの開放も大きなプロジェクトの一つとされました。関西電力さんにご理解をいただき、2018年10月に富山県と関西電力さんとで協定を結び、夢の実現に向けて本格的に動き出すことになりました。一般開放・旅行商品化に向けては、まずは落盤などが無いよう安全対策工事を関西電力さんで担っていただき、蓄電池機関車など、設備関係も更新していただけることになりました。県としては、旅行商品としてどれだけ魅力的なプランをつくれるか。2020年にプロポーザルを経て、当ルートの旅行商品化業務をJTBさんにお願いすることとなり、造成を進めてきました。

―― 黒部宇奈月キャニオンルートの、独自の魅力はどこに。

この高熱隧道は、掘削当時、岩盤の温度が160℃を超え工事が難航した場所。現在も約40℃あり、列車内からも硫黄臭や熱気が感じられる。

高田:過去の遺構でなく、現在そして未来も感じられることが、いちばんの魅力ではないかと考えています。ここでは現在も発電事業がおこなわれています。水力発電という再生可能エネルギーでもあり、未来に受け継いでいかなければなりません。また、当ルート上で私が一番感銘を受けたのは、昭和10年代に第三発電所を建設したときの難工事の跡、「高熱隧(ずい)道」です。掘削している際、岩盤温度が160℃にもなったとか。現在は坑内は40℃くらいなのですが、その熱気や硫黄の臭いなどは客車に乗っていても感じられます。ダイナマイトが自然発火するほどの過酷な場所を掘り進めていったことに思いを馳せながら進んでいく道のりは、きっと貴重な体験になるでしょう。

甲田:当ルートをどのように訴求していくかは、さまざまな方々の意見を参考にし、検討に検討を重ねました。このルートについてお話を聞き、開発における苦闘の歴史を知るほどに、生半可な気持ちで商品化してはいけないなと。レガシーとして後世に受け継いでいくような観光商品にしていくべきだと感じたためです。

そこで大事なのは、成り立ちから現在までをストーリー性をもって伝えることだと考えました。トンネルの中をひたすら進みますので「地下空間を乗り物に乗って進んだだけ」といった感想にならないよう、まずはルートヘ入る前に十分な歴史説明をします。人命にかかわる環境で作業をしなければならないほど電気が必要だったという事実。なぜ途中にエレベーターがあるのか、あるいは黒部川第四発電所があるから黒四ダムなどとも呼ばれているといった豆知識なども頭に入れて観光していただくことで、訪れる価値がさらに増すと思います。また、当ルートの商品化にあたっては、欅平よりも麓にある宇奈月温泉の方たちのお話を聞き、その思いも込めたつもりです。電源開発に絡んで生まれた温泉地ですので。

高田:当ルートの開放により、ルート自体だけでなく、その前後での観光にも好影響が生まれることを期待しています。地元の宇奈月温泉の皆様も大変期待され、ガイドの会がつくられるなど、観光客の受け入れ準備をしていただいています。観光客の皆様には、立山黒部エリアだけでなく、県内全体を楽しんでいただきたいと思っています。

インバウンドも見据えつつ、観光で富山にさらなる活性化を。

―― 当ルートの、今後の計画や方向性などを教えてください。

甲田:まずは国内のアクティブシニアをメインターゲットに展開していく予定ですが、インバウンドも視野に入れています。このような歴史的な遺産を持続可能な観光資源として維持していくには、海外のターゲットに対するPRも重要です。受け入れ可能な旅行者数が限られた枠ではあるものの、情報発信と受け入れ態勢の整備に取り組む考えです。

高田:富山県としてもインバウンドを見据えつつ、当ルートを観光コンテンツとして定着させ、将来にわたって長く支持されるものにしたい。そのためには、お客様の声を聞き、今後いただくご意見を参考にしながら、より魅力あるものへと磨き上げていく必要があると考えています。

―― 富山の観光開発プロデューサーとして、どのような役割を果たしていくべきでしょうか。

甲田:観光客数や宿泊者数を他県と比べても、まだまだ富山県には可能性があると思っています。ですから観光客を呼び込み、滞在していただいて、観光業が地域経済に資するような産業になるようお役に立ちたい。たとえば、富山には魅力的なお祭りやイベントが確かにあり、他県からも人が集まります。そういった方たちに、より長く滞在・宿泊していただく。そうすると関係人口が増え、富山に愛着を持ってくださる方が増え、イベントのない時期にも訪れてもらえるようになるはずです。

高田:甲田さんには、今後の開発でも関係者の理解を得るため、一緒に動いていただきたいと考えています。これからも観光開発プロデューサーとして、我々や地元と並走していただけると幸いです。そしてJTBさんには、旅行に関する豊富なノウハウや組織力があります。いろいろな情報やアドバイスをいただきながら、富山のさらなる観光振興にご協力いただければと期待しております。

宇奈月温泉駅のホームには足湯があり、改札の中からも外からもアクセスすることができる。

地元の方や観光客から人気の、「カフェモーツァルト」は宇奈月温泉駅すぐ。おいしいコーヒーやケーキをいただける。

関西電力 黒部川電気記念館。2023年3月にリニューアルオープンした館内では、黒部峡谷の自然や電源開発の歴史、水力発電のしくみを学べるコンテンツが多数。

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