知られざる魅力を掘り起こせ!
地域の未来に向けて伴走する、観光開発プロデューサー(千葉編)
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確かに戻ってきた「旅行」の活気!特にインバウンドの回復はすさまじく、外国人観光客の姿を見かけるたびに、日本がもつ魅力を再認識させられている方も多いのではないでしょうか。
一方で、実は日本人も気づいていない魅力が、各地にたくさんあるのかもしれません。JTBではそんな日本各地の埋もれた魅力を掘り起こすべく、「観光開発プロデューサー™」という職を設け、その活動を推進しています。今回はその一人として、千葉県で活躍する社員に、どのような思いで活動しているのか。そして、着任間もないなかでも心に残る「人や場所、体験」などを聞いてみました。
千葉支店 観光開発プロデューサー 今中 慎也
入社後、水戸支店に配属となり、個人や団体の観光客を送り出す営業職に従事。その後、国内外の仕入に関わりながら、国内着地型コンテンツの開発も担当。「その場所ならでは、そのときならでは、JTBならでは」という観点で、観光地やコンテンツを磨き上げてきた経験が、現職でも活きている。着任したばかりのため、いまは家族とともに千葉県内を精力的に旅行中。海釣りにもはまりそうとのこと。
こんなにも魅力ある千葉県。もっと、もっと観光で注目してほしい。
―― 担当されている千葉県の魅力から教えてください。
今中:日本を代表する国際空港やテーマパークのイメージが先行しがちな千葉県ですが、それ以外にもたくさんのレジャースポットや観光資源があります。「都道府県の魅力度ランキング2023(※)」では12位となっていますが、もっと上位でもいいような、観光地としての高いポテンシャルがあると思います。特に2023年は千葉県誕生150周年にあたり、記念事業やイベントも活発に行われています。
※ ブランド総合研究所調べ
まず千葉県の地図を見ると、3方が海に囲まれていますので、海の恵みがゆたかなことはイメージしてもらいやすいかもしれません。年間水揚げ量で日本一を誇る銚子港をはじめ、外房から南房総エリアにかけて多くの漁港があり、太平洋と東京湾それぞれの多彩な海の幸が楽しめます。千葉県としていま推しているのは、水揚げ量でトップを争っているキンメダイですね。
農産物も豊富です。落花生はもちろんですが、実は梨が有名で、栽培面積・収穫量・産出額ともに日本一(令和3年)になっています。比較的新しい品種の秋満月(あきみつき)、最も人気のある品種の幸水(こうすい)など7月下旬から10月上旬まで時期によって発売される梨の品種が替わるので、さまざまな味を長いあいだ楽しめるのが魅力ですね。さらに最近は、お米の新ブランド「粒すけ」も売り出していて、この名前には、大粒であること、そして「自分の子どものように愛着をもってもらいたい」という想いが込められています。
また、農業や漁業だけでなく、「食べ方提案」にも力を入れています。しょうゆをかけた「黒アヒージョ」という料理をご存知ですか?江戸時代、しょうゆの生産で関東の中心となったのが、千葉県北部(旧下総国)の野田市と銚子市だったことから、積極的にPRをおこなっています。
さらに、突き出た半島の形状は海の影響を受けやすく、南房総エリアを中心に一年を通して過ごしやすい気候であることが魅力です。特に猛暑だった今夏は、海流で冷やされた海風の影響で、勝浦市が日本一涼しい街として注目を集めました。過去100年以上、一度も「猛暑日」がないのだとか。同じ理由で冬は温暖だそうです。このため陸のアウトドアレジャーも活発で、最近はグランピング施設なども各地にできています。市原市の高滝湖には、廃校になった小学校を活用し、グラウンドにテントを設置して運営されているところがあり、注目されています。
梨 ©Chiba Prefectural Tourism & Local Products Association
勝浦市・守谷海岸海水浴場 ©Chiba Prefectural Tourism & Local Products Association
成田空港第1ターミナル ©Chiba Prefectural Tourism & Local Products Association
そんな自然ゆたかな千葉ですが、新しいことにも積極的です。近代的な施設やスポットの開発が目立ち、大型の展示会やイベント、国際会議などができる施設や、地域特性を演出しながら会議やレセプションを開催できる施設、いわゆるユニークべニューも増えています。都心から近くて交通の便が良く、羽田空港からも1時間ほどで千葉市内や木更津へもアクセスできる点はまさに「千葉ならでは」だと思っています。その反面、交通の便がいいからこそ、成田空港から都心へ素通りされてしまうというジレンマもあります。具体的な目的がなければ、千葉県内で「泊まらない、観光しない」といった傾向が見られています。
観光開発で創り出す「地域の魅力」が、「地域の経済力」へ。
―― 千葉だけでも、そんなにたくさんの魅力があるんですね。日本中に眠っている魅力をJTBが掘り起こそうとしている、その理由は何でしょう。
今中:日本では少子高齢化や人口減少によって、将来的な地域経済の衰退が懸念されています。その対策として、地域の観光開発が効果的だと考えているからです。観光によって交流人口を生み出すことで、地域の経済をまわす仕組みを作りたい。その根本にはJTBの「観光の力で、社会課題を解決する」という想いがあります。
大切なことは、地域の方たちとの「信頼関係」です。これを築くためには、自社の利益だけではなく、各自治体や地域住民の皆様、訪れる観光客といった、すべての人たちのメリットを考えて事業を推進しなければいけないでしょう。
また、地域ごとに課題も異なります。すでに観光客がたくさん来ているところもあれば、観光コンテンツ自体がないというところもあります。各地域の現状を分析し、個々の課題を発見した上で、地元の方たちと一緒に地域の魅力を創っていくことが大事だと考えています。
―― その、JTB側におけるキープレイヤーが「観光開発プロデューサー」という職なのですね。
今中:社内で提唱しているスローガンに「地域のタカラを、日本のチカラに。」というものがあります。私たち観光開発プロデューサーが担うべき役割は、まさにそれに凝縮されています。地域とJTB双方のメリットを考え、地域に寄り添う伴走者のような存在であることが、観光開発プロデューサーの役割だと考えています。そして「会社と地域」という関係ではなく、もっと個人として踏み込んで「人と人」との関係性や交流などを大事にしようと意識しています。
具体的な動きとしては、千葉県内の観光スポットやコンテンツを運営される事業者を訪問し、それぞれが抱えるさまざまな課題をお聞きして、JTBができることを提案しています。ただ、社会課題のような大きな事案に対しては、JTBだけではできないことも多くありますので、そのときには、社外のパートナーとも連携しています。
―― そのような観光開発プロデューサーになられた理由は。
今中:もともと地方創生に興味があったので、この職に自分から応募しました。長年にわたって地域と関係を築いてきたベテランの社員が就くことが多く、こう見えて観光開発プロデューサーのなかでは比較的若手です(笑)。まだ着任して日も浅いことから、学ぶ姿勢や、現場へ足を運ぶことを心掛けていますが、いま特に大事だと感じているのは、相手の立場に立った「ヒアリング力」です。多くの方たちの意見を踏まえて落としどころをどう決めるか。日々悩みながらも、やりがいがあり充実していると感じます。
―― 着任して半年ほどですが、すでにたくさんの方たちに会われ、交流されているのでしょうね。
今中:業務で千葉県内を回るだけでなく、各地域の観光協会が主催する会議や勉強会などにも積極的に参加させていただいています。いろいろな出会いと交流があるなか、事業者や自治体には本気で地域を良くしたいという方たちがたくさんいることを肌で感じました。コロナ禍を経て旅行者の意識が変わったことを受け、自分たちも変わらなければ、という思いを、地域の皆さんから強く感じます。
そして観光庁では、既存のものを高付加価値なものへ、もっと磨き上げていきましょうという指針を出していて、県もその指針に沿って動いていることから、「とにかく新しいことを」というよりも、今ある資産をどう変えられるか考えている方が多いようです。
その代表的な例として、酒々井町で300年以上前から日本酒造りをされている「飯沼本家」があります。母屋を中心に古い建物や庭などを活かした改装をされ、すばらしい観光スポットへと生まれ変わらせています。ここでは、観光庁の事業に協力して、酒蔵を活用した「酒フェス」なども開催されています。
江戸時代から続く酒蔵・飯沼家の母屋を改装したレストラン「きのえねomoya」
出会いは、地元の観光物産協会が主催された、飯沼本家を業界関係者に紹介するイベントでした。JTBも参加させていただいた際に、この飯沼本家の専務からいろいろな話をお聞きし、酒蔵も見せていただいて大変感銘を受けました。すぐに商品開発に着手して、JTBとして「ならではプラン(※)」を一緒につくらせていただいています。
今日はぜひ、その飯沼専務をご紹介したいと思います。
※ 地域に眠る観光資源を、地域の方と共にJTB担当者が発掘。その時、その場所でしか見られない感動体験や、地域の方々と交流するプログラムなど、ならではの付加価値を加えたプラン。
JTBへ求める「プロの提言」。独自の魅力を、一緒に創ってほしい。
今中:飯沼本家を初めて見たときは、本当に驚きました。訪れる前は、普通の酒蔵をイメージしていましたので、こんなにも素敵な造りになっているとは思っていませんでしたし、サービスも含めてすべてのレベルが高い。何より、飯沼専務の熱い想いにも感銘を受けました。
株式会社 飯沼本家 専務取締役 飯沼 一喜さん
飯沼:まず考え方は本当にシンプルで、観光スポットとしての吸引力で酒蔵への来客数を増やし、弊社のお酒に触れていただくことで、本業の日本酒販売を伸ばそうというものです。基本戦略は「おいしいお酒をつくる」ことと、「楽しい場をつくる」こと。いろいろと人の興味・関心を生みだす仕掛けをつくっていくことが必要だと考えています。
今中:観光客の目線で言えば、実際の作り手が見学案内をしてくれますので、その生の声が聞けるのは魅力ですよね。全体としては酒蔵を中心に、飯沼家の母屋を改装されたレストラン、直営ショップ、ギャラリー、宿泊施設、農園などがあり、ここでしか味わえない日本酒もあるなど、特別な時間を楽しめますよね。実は社内行事の会場にも使わせていただいたことがあるのですが、訪れた弊社の役員らも素晴らしい造りや料理に驚いていました。
酒蔵内部
飯沼:まず、酒蔵を訪れること自体に、高い体験価値があると考えています。そして、築約300年の古民家を改装したレストランで、伝統的な懐石料理を楽しんでいただく。さらには日本酒の試飲や購入ができることも含め、充実した時間を過ごしていただけると考えています。宿泊施設も、酒蔵が運営していますので、泊まってゆっくりとお酒を楽しんでいただくというのがコンセプトです。
春慶箱もり膳
甲子(きのえね) 純米大吟醸 山田錦50
今中:このように魅力的な観光スポットがあることは、千葉県の観光開発に関わる者として、私も大変意義のあることだと考えていますし、大きな期待もしています。きっと他の事業者にとっても、参考になるところが大きいでしょう。とはいえ、全国の自治体がインバウンドをにらみながら観光開発やPRに取り組んでいますが、簡単には成果を上げられずにいます。専務が重視しているポイントは何ですか。
飯沼:日本各地にはいろいろなコンテンツがあり、その魅力を計る指標もさまざまです。しかし何であっても上位の数%に入っていなければ、そのコンテンツは埋もれてしまうと個人的には感じています。磨き上げることで観光客に満足していただける既存コンテンツがたくさんあるはずだと思っています。
弊社の場合は、「日本酒」を軸にして外国人観光客を呼び込みたいと考えています。しかし日本酒というコンテンツは、輸出ベースでは非常に伸びて人気が高まっているようですが、海外からここを訪れる観光客はまだまだ少ないのが実情です。来られているのは、かなり日本酒に興味を持っていて能動的に情報収集をされるような方で、普通の外国人観光客には認知されていません。
今中:こんなに素晴らしい施設ですから、インバウンドに限らず多くの方に知っていただきたいです。
飯沼:魅力的なコンテンツ開発や運営自体はできていると思いますが、集客プロモーションという点は私たち観光事業者がもっとも不得意な部分ですので、JTBさんには私たちからの要望を叶えていただくほかに、プロの視点からいろいろな提言もいただきたいと思っています。先日JTBさんの社内行事でここをご利用いただいた際、三味線を上演したところすごく好評でしたよね。これもJTBさんのご提案から試してみたことです。実は最近、一般観光客へのイベントでも実施してみたところ、とても好評でした。
また、明治半ばに建てられた飯沼本家に現存する唯一の木造蔵の活用もご提案いただいており、私どもとしては貴重な気づきがありました。ほかにはない価値や魅力を、一緒に創り上げていってくださるパートナーとして、今後もJTBさんや今中さんに期待しております。
「地域の伴走者」として、観光客も含めた皆の利益を。そして将来を。
―― これからの展望や抱負を聞かせていただけますか。
今中:観光開発プロデューサーは、やはり「地域の伴走者」。千葉に限らず日本の各地域に必要な存在になりたいですね。そのためにやはり大事なのは、JTBの利益だけでなく、地方創生という観点です。飯沼本家のような地域の隠れた魅力を掘り起こし、しっかりとアピールしていきたいと思っています。
そして、今はまだ世の中にない仕組みやサービスを、JTBとして1つでも多く創り出したいと思っています。そのなかで、お客様と地域とをつなぎ、真の「交流創造」を実践したいと考えています。
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