JTB

兄弟姉妹のような距離から生まれる、ガイドブックにはないリアルな旅体験。「大阪B&Sプログラム」でつくる新しい教育旅行

  • インタビュー
  • ソリューション
  • 国内旅行
  • 地域交流
  • 旅行

JTB大阪教育事業部が運営する「大阪B&Sプログラム」。修学旅行生と学生や留学生が、兄弟姉妹(Brothers & Sisters)のように交流しながら大阪の街を歩くこのプログラムは、新たな教育旅行の形として注目を集めています。教育的価値と地域活性化、そして国際交流の可能性を秘めた取り組みについて、大阪観光局で留学生支援・教育旅行推進担当コーディネーターを務める山口さんとJTB大阪教育事業部の平山に話を聞きました。また、実際の修学旅行に同行し、「ナビゲーター」と呼ばれるガイド役の大学生や、参加する高校生たちの生の声をお届けします。

JTB 大阪教育事業部 営業5課 平山 佳美

仕入商品事業部で海外旅行商品「ルックJTB」の商品企画に従事したのち、2022年に大阪教育事業部へ。大阪B&Sプログラム事務局にて、申込の受付から当日の斡旋まですべてを担当。海外旅行、国際交流が好き。

大阪観光局 留学生支援・教育旅行推進担当コーディネーター 山口 智子

大阪府立高等学校にて校長を務めたのち2018年4月より現職。大阪・関西で学ぶ留学生のための「留学生支援コンソーシアム大阪」(大阪観光局事務局)にて、留学生支援・活用部門を担当。海外の学校が来日した際の、大阪の学校との生徒交流や視察のコーディネートを行っている。

学生同士の交流から生まれる、新しい観光のカタチ

——「大阪B&Sプログラム」とは、どのようなプログラムなのでしょうか?

山口:B&Sとはブラザーズ&シスターズの頭文字を取った言葉で、修学旅行や校外学習などで大阪を訪れる国内外からの教育旅行団体に対して、大学生や専門学生、留学生、よしもとの若手芸人が一緒に大阪の街歩きをしながら、大阪の魅力を体験いただくプログラムです。中高生6~8名に対し学生・留学生・若手芸人のいずれか1名がナビゲーターとなります。公共交通機関を利用して、大阪城や通天閣・道頓堀などの観光地や街をめぐり、ガイドブックでは描けない大阪の魅力を体感していただけます。

平山:このプログラムのポイントは単なる観光地巡りではなく、公共交通機関を使って実際に歩くこと。修学旅行でバスに乗ってどこに行ったかわからないままではなく、6~8人の小グループで実際に街を歩くことで、より深く大阪を体験できるんです。たとえば、小さなラーメン店に入ったり、たこ焼きなどを食べ歩きしたり、ナビゲーターと相談しながら食事をとることなどは、このプログラムならですよね。ナビゲーターには、大阪の魅力を紹介するだけではなく、自身の体験談などのコミュニケーションも交えながら進めていただくこともお願いしています。

——「大阪B&Sプログラム」が生まれた背景を教えてください。

山口:実は、「B&Sプログラム」自体は2005年頃から世界各国で実施されており、特にアジア諸国では活発に行われていました。私自身、以前学校現場にいたときに台湾への修学旅行で現地の大学生に案内してもらい、日本でもできないかと考えていました。ちょうど京都でも「B&S」の取り組みが始まっていたので、大阪でも実施できないかと大阪観光局とJTBさんで相談を始めたのがきっかけです。

平山:コロナ禍により来阪する外国人観光客も激減し、大阪経済の根幹を揺るがす状況が続いていました。そんななか、国内旅行を喚起しつつ、中高生にとっては一生の思い出となる修学旅行、特に中止になりがちだった海外旅行の代わりとして、国内で「国際交流」「街歩き(フィールドワーク)」ができないかと模索し、このプログラムが開発されました。

——なぜブラザーズ&シスターズという形式を選ばれたのでしょうか?

山口:年齢が近い学生や留学生と中高生が交流することで、より自然なコミュニケーションが生まれると考えました。大人のプロ添乗員とは違い、お兄さん・お姉さんの感覚で接することで、中高生も緊張せずに質問したり会話を楽しんだりできます。最初はぎこちなくても、活動を終える頃には皆すごく仲良くなって帰ってくるんです。

平山:学生や留学生にとっても、コミュニケーション力や時間管理能力を養う貴重な経験になりますし、就職活動に役立ったという声もよく聞きます。また、コースの出発地点と到着地点は決まっていますが、その間のルートや時間配分は学生たちが中高生と相談しながら決めていくので、調整能力も身につきます。現在約200人の大学生、専門学生と多くの留学生に登録いただいており、リピーターも増えています。

三者三様の魅力。日本人学生・留学生・若手芸人の役割

——日本人学生と留学生、そしてよしもと若手芸人という3つのナビゲーターを設定されていますが、それぞれにどのような役割や効果を期待されていますか?

山口:日本人学生は中高生との距離が近く、今流行っているスポットやお店の情報を教えてくれます。留学生の場合は、国際交流の機会を提供できるのが大きな魅力です。「みんな優しい」と言われることが多く、中高生にとって外国の人との交流のハードルを下げる効果があります。若手芸人については、JTBさんからの提案で、大阪ならではのオリジナル要素として取り入れました。

平山:若手芸人さんは、まだ「なんばグランド花月」の舞台に上がれていない駆け出しの方々ですが、なかには「M-1グランプリ」で3回戦まで進んだ方もいらっしゃいます。それぞれのナビゲーターが持つ特性が、中高生の思い出づくりに一役買っています。

コロナ禍から始まり、国際交流へと広がるプログラム

——プログラムの実施状況はいかがですか?

山口:開始以来、大阪・京都・兵庫で約30,000名の修学旅行生に参加いただいています。2022年度から2023年度にかけては2倍以上と着実に増えており、最近では海外からの利用も増えていて、韓国・メキシコ・オーストラリア・香港などからの参加もありました。
国内では特に「with留学生」のプログラムが人気で、さまざまな文化に触れながら大阪の魅力を満喫できる機会としてご好評いただいています。

平山:訪日インバウンドの受け入れも始まり、韓国の中学校・高校などからの参加が増えています。言葉の壁はありますが、韓国語を学ぶ日本の大学生や専門学生にとっても貴重な学びの機会となり、双方にとって有意義な交流になっています。また、メキシコからの団体など、文化の違いから予想外のハプニングもありますが、最後は「良い交流だった」と喜んでいただけることが多いです。これこそが本当の国際交流だと実感しています。

1番の人気コースは通天閣と大阪城で、最近は鶴橋のコリアタウンも注目を集めているそう。「通天閣下の新世界エリアは最近訪日インバウンド向けに変わってきていて、射的やゲームなど明るい雰囲気になっています。一方で、一本入ったところにある新世界広場は昔ながらの串カツ店などもあり、レトロな雰囲気も楽しめます」(平山)。「コリアタウンは元々韓国の方々の生活の場として発展した商店街で、今は観光地化されつつありますが、独特の魅力がありますよ」(山口)

——JTBが参画した理由や意義について教えてください。

平山:私たちJTB大阪教育事業部は中学生、高校生の修学旅行が主なお仕事で、教育旅行に携わっている部署です。「大阪B&Sプログラム」は教育旅行の一環として位置づけており、ただの観光ではなく、生徒さんが街歩きをしながら自主的に行動する教育的な側面も重視しています。出発前にある程度の行程は決めていただきますが、交通事情や混雑状況に応じてナビゲーターと相談しながら進めてもらうというのも、そういった考えからです。

全国にあるJTBの支店からも修学旅行で大阪に来る際に申し込みをもらっていますし、他の旅行会社さんからの依頼も受け付けています。

山口:JTBさんは大手の旅行会社で豊富な経験があるため、留学生の募集やプログラム運営を安心してお願いできます。特に大規模な受け入れが必要な場合でも、ノウハウを持っているJTBさんと協力することで円滑に進められるのはとても心強いです。

地域活性化と人材育成、広がる可能性

——学校や参加高校生、ナビゲーターの学生からの反応はいかがですか?

山口:学校からは「近い年代の学生とコミュニケーションを取ることで、思い出に残る印象度合いが数倍になっている」「大学生や留学生の母国の文化などに触れることができ、ただ街を歩くだけではない発見がある」といった声をいただいています。高校生からも「普通なら知らない、通らない商店街を見て回るのが楽しかった」「大阪の歴史に触れることができた」といった感想が寄せられています。

平山:私も毎回スタート地点とゴール地点に行くのですが、スタート時とゴール時では皆さんの表情が全然違うんです。5時間ほど一緒に過ごすだけですが、ゴール地点で別れを惜しんでいる様子などを見ると、本当に良い交流ができているんだなと毎回実感させられます。

——今後の展開について教えてください。

山口:現在はエリアが大阪市内に偏っていますので、堺市や北摂など大阪府内の他エリアにも広げていきたいと考えています。また、教育的要素をさらに強化するため、大学のキャンパスツアーも取り入れていければと思っています。

平山:「Go Green プロジェクト」と「中之島教育プログラム」という2つの新しいプログラムもスタートします。前者は環境に配慮した取り組みで、後者は企業訪問を通じたキャリア教育につなげるものです。また、2025年大阪・関西万博が始まりますので、より多くの海外からの教育旅行団体との交流機会を増やしていきたいと考えています。

大学生ナビゲーターの目線で見る大阪

「大阪B&Sプログラム」を通じて特別な体験を提供する学生たち。彼らはどのような思いでナビゲーターを務めているのでしょうか?実際にナビゲーターを行う大学生にお話を聞いてみました。

——「大阪B&Sプログラム」に参加したきっかけは何ですか?

大学2年生の時から「大阪B&Sプログラム」にナビゲーターとして参加しているという阪南大学4年生 寺川空汰さん。

寺川さん:もともと、人とコミュニケーションを取るのが好きだったのですが、大学の先生からの紹介で「大阪B&Sプログラム」を知り、「これは自分に合っている」と思い参加しました。中高生の頃って大人の人が怖い印象があったので、「優しいお兄ちゃん」として接することで、より良いコミュニケーションができるんじゃないかと思ったのがきっかけです。

——ガイドする上で意識している点はありますか?

寺川さん:実際にやってみると、コミュニケーションを取りながら道案内するのは想像以上に難しかったです。特に最初は緊張している高校生も多いので、自分から積極的に話しかけるようにしています。また、単なる観光案内だけでなく、自分の経験や失敗談も交えることで距離を縮められるかなと思っています。

有名スポットで写真撮影を促す寺川さん。少し恥じらう高校生に、「せっかく来たんやからグリコポーズで撮らな!」と盛り上げます。この距離感が「大阪B&Sプログラム」の魅力です。

電車での移動中、しっかりと引率を務める寺川さん。友達のように笑い話をしながらも、「はぐれんように、列つめて歩いてな〜」と声をかけて安全への配慮も欠かしません。

——外国からの学生を案内することもあるそうですね?

寺川さん:韓国からの学生を案内したときは、言葉の壁が心配でした。でも、お互いに理解しようとする気持ちがあれば大丈夫でした。言葉が完璧でなくても、「一緒に大阪を楽しむ!」という経験を共有できるのがこのプログラムの良さだと思います。

——この経験は将来にどう生かせそうですか?

寺川さん:来年からはインフラ関係の仕事に就きますが、ここで培ったコミュニケーション能力や時間管理能力は必ず役立つと思います。さまざまな人と接する中で臨機応変に対応する力も身についたと感じています。

高校生からリクエストされた「アメリカ村」にて、たこ焼きで一息。たくさんのたこ焼き屋がある中、「ここが俺のおすすめや!」と店に案内。大阪人イチオシのたこ焼きに、高校生も「めっちゃウマい!」と大絶賛です。

実際に交流した高校生たちに感想を尋ねると、「大人の添乗員さんよりも話しやすい」「大阪の知らない場所を教えてもらえて楽しい」という声が聞かれました。また、ある高校生は「最初は恥ずかしくて質問できなかったけど、寺川さんが気さくに話しかけてくれて、だんだん話せるようになりました」と話します。
大人の添乗員では味わえない親近感と、観光パンフレットには載っていない「リアルな大阪」を体験できる特別な時間は、高校生たちの一生の思い出に残ることでしょう。

大阪の魅力を体感する、特別な旅行体験

——最後に、これから「大阪B&Sプログラム」を検討される方へメッセージをお願いします。

平山:「大阪B&Sプログラム」は出会いを創造するプログラムです。また、大型バスではなく公共交通機関を使って少人数で動くことは、SDGsの観点からも価値があります。修学旅行や校外学習を計画される際は、ぜひ一度検討していただければと思います。

山口:このプログラムは単なる観光ではなく、国際交流や人材育成の側面も持っています。参加する中高生にとっても、ナビゲーターを務める日本人学生や留学生にとっても貴重な経験となります。JTBさんとの協働で生まれたこの取り組みが、今後も大阪の観光と教育旅行の新たな形として広がっていくことを願っています。

写真:斉藤菜々子
文:大西マリコ
編集:花沢亜衣
取材場所:Pivot BASE Cafe & Bar @Dotonbori

関連記事

JTBeingトップへ戻る

Service Site