科学への好奇心を、この国の未来のチカラに。最先端をゆく研究者に、アイデアで挑む中高生たち。
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1960年代から開発が進み、「筑波研究学園都市」として半世紀以上を歩んできた茨城県つくば市。この地で「未来の科学者」の芽を発掘して育てる新たな試みとして開催されている国際科学コンテストがあります。その名も「つくばScience Edge(サイエンスエッジ) サイエンスアイデアコンテスト」(以下、つくばScience Edge)。
国内外から中高生が参加して、世界的レベルの研究者や科学者に科学に関するアイデアをプレゼンテーションします。白熱したディスカッションからさまざまな交流が生まれ、その後もつながりが続いているようです。主催者でもあり、会場となっている「つくば国際会議場」を訪ねてみました。
一般財団法人 茨城県科学技術振興財団兼つくば国際会議場 事務局長
坂本 好英
1994年茨城県庁に入庁。さまざまな分野の仕事に携わってきたなか、近年は県の広報・プロモーション業務に携わる。2023年4月より、つくば国際会議場の運営代表団体である茨城県科学技術振興財団に赴任し、同会議場の事務局長に。財団運営における総合調整に取り組む日々。研究者の話を聞ける機会も多く、科学に関する知識の自己研鑽をめざしている。
JTB ツーリズム事業本部 茨城南支店 来栖 圭
2009年に入社。教育旅行の営業を担当し、修学旅行や校外学習の企画から添乗業務までを経験。その後、一年間のインドへの赴任を経て、帰国後は教育プログラムの開発・販売に携わり、産休明けの2022年から現職。長く教育旅行にかかわって得た経験やノウハウが、現在の仕事に役立っている。つくば在住で、たくさんの研究機関や研究者がいる環境で子育てできることによろこびを感じている。
若い、次世代の研究者たちに、「創造」と「本物」の楽しさを。
―― まずは、コンテストの概要や目的などをお聞きできますか。
坂本:年に1度開催している「つくばScience Edge」は、2010年に始まり、次回(2024年)が14回目となります。国内外を問わず中高生を参加対象としており、初年度は参加者30名からスタート。それが2019年には1,600人を超え、コロナ禍で一時、オンラインに変更したものの、2023年は対面での実施に戻り、コロナ禍前を上回る数のご参加をいただけるまで成長しています。
創設当時、日本の若い世代の「理科離れ」が社会問題となっていて、次世代の研究者や技術者が育ちにくく、科学技術の国際競争力が低下すると懸念されていました。そこで、科学に取り組んでいる若い世代を応援しようという目的で、ノーベル物理学賞を受賞され、つくば国際会議場館長やつくばサイエンス・アカデミー会長でもある江崎玲於奈博士の提唱によって、本コンテストが企画されました。
今後のサイエンスの発展には、若者たちの「物事を正しく理解する能力」だけでなく、「豊かな創造力と先見性のもとに、アイデアを創造する能力」が不可欠です。そこで、未来の研究者たちに「創造する楽しさ」と「最先端の研究者たちと議論する楽しさ」を体感してもらうコンテストを開くことで、サイエンス全体の底上げに寄与したいと考えています。名称の「Science Edge」には、「科学に関して尖った(Edgeの効いた)発想を」あるいは「人を刺激する鋭い感覚を」といった意味が込められています。
つくば市で1985年に開催された科学万博は「科学研究の街・つくば」という印象を決定づけた ©茨城県
これは研究学園都市であり、過去に科学万博も開かれた「サイエンスの街・つくば」であるからこそ開催できることであり、意義があるのではないでしょうか。つくば市の人口が25万人ほどに対して、研究者が約2万人いるといわれています。10人に1人が研究者ということになり、事実、街では博士号をもつ方たちをよくお見かけします。そういった土壌が、つくばという街のサイエンスに対する理解を高めていますし、研究者が関わるコンテストの実現を可能にしています。
「研究者」の厳しい評価にもへこたれず、「未来の研究者」に思いを馳せる
来栖:JTBは、つくば国際会議場を管理・運営する団体の構成員メンバーとして、大きな会議の誘致やPRなどの営業・広報活動を担当しており、つくばScience Edgeの運営も支えています。
私たちが、このコンテストに共感しているのは、研究者や科学者と直接的なディスカッションができる点ですね。さまざまな観点から「本物の体験」を提供することに力を入れてきた企業として、旅だけでなく社会のあらゆる場面で交流を促したいという考え方にも通じます。将来を担う若者たちに科学を通して希望を与えられるような活動を継続していきたいと思っています。
―― コンテストの特徴を、もう少し教えてください。発表の様子はいかがでしょう。
坂本:つくばScience Edgeの大きな特徴は、国内最先端の研究者が中高生の研究発表を評価するという点ですね。主につくば市とその周辺の大学や国立研究機関、企業研究所から、コンテストの運営と審査にご協力いただいています。すべての応募研究がポスターとなって掲示され、複数の専門分野の研究者による審査を受けます。海外からの参加者も同じように発表し、審査されます。そして、たくさんの応募の中から数チームが選抜され、つくば国際会議場のメインホールで、口頭でのプレゼンテーションに臨むこととなります。その場では、著名な科学者で構成される審査団による質疑やディスカッションが展開されます。
審査のポイントも特徴的です。サイエンスへの興味の第一歩として、「課題の発見」と「サイエンスの心を育む仮説の構築」というステップが子どもたちにとって非常に重要なのですが、そうしたアイデア段階にあるテーマを発表する機会がなかなかありません。そこで、つくばScience Edgeでは研究の完成度より、子供たち自身の個性を尊重し、豊かな想像力や難題に挑む自発性が発揮されたアイデアを評価しています。また、期待した成果がでない場合であっても、失敗にへこたれないチャレンジ精神や、失敗を糧に次の研究へステップアップする気持ちが大切だと考えています。
つくば国際会議場
坂本:実際、審査される研究者も、コンテストの「研究者目線で評価することで、子供たちのサイエンスに取り組む意欲を高めたい」という考え方に共感され、ご協力くださっています。このためか、評価はかなり辛口です。プロの研究者として目を向け、中高生相手だからといって、遠慮はありません。もちろん取り組み姿勢などに対しては、応援や賞賛される姿勢で接してくださりますが。
そして研究内容を見ても、美しく完成させることだけに終わらず、自分たちの考えたアイデアに自信を持って、将来的に問題を解決させたいという、強い意欲を感じるものが増えています。これは探究学習の目的でもある「テーマの自発的設定」と「解決に向けた過程の重視」という点に照らしても、有効だと実感しています。
来栖:私は運営にかかわる立場ですので、ステージ上で発表する子供たちを近くで見る機会が多くあります。やはり緊張で震えながらですが、研究者の前で一生懸命に発表されています。国際的な研究発表が実際に開催されるステージですので、そのような場所で立派に発表されている姿を見るとジーンときてしまいます。
―― 応募者に、どのような傾向がありますか。
坂本:つくばScience Edgeへの応募は、中学生よりも高校生が多く、海外からの応募はアジアが中心です。最近は特に台湾が多いですね。研究分野としては生物学が多く、それぞれの地域に生息する生き物に着目した研究が目立ちます。前回であれば、イモリやゲンジボタルを研究した発表がありました。また、課題解決型の研究でも、地域における自然災害や自然現象を題材にしたものが多く、身近なことに目を向けた研究が多い印象です。
応募の動機は、学校でのクラブ活動や探究学習課題で参加する生徒と、個人の独創的なアイデアや研究計画案で参加する生徒とに分かれます。特に後者は、国内外のほかのコンテストにはなかなか応募しにくい完成度であったり、クラブ活動や学校教育の場では取り上げにくい分野や課題だったりしますが、必ず専門研究者からの意見がもらえる貴重な機会として、応募者もその価値を感じてくれています。
また、ひと昔前までは男子生徒が多かったのですが、近年は参加者の半数が女子生徒です。「家事支援ロボット」を試作機まで製作し、日本語ポスター賞を受賞したチームもありました。昨年からは子供たちにとって将来の目標や参考としたくなるような女性研究者をお招きし、女性目線からのご意見などもいただいています。
充実した2日間から、未来へとつながり始めている。
―― 参加者からの評価や声は届いていますか。
来栖:全体アンケートを見ますと、「後輩や友人に、つくばScience Edgeの存在を伝えたいと思いますか」という質問に9割近い方たちが「はい」と回答してくださっていて、このイベントが続いている理由の一つになっています。何度も参加くださる学校では、先輩から後輩へ研究内容といったものが受け継がれているのでは、と考えています。
ほかにも、「たくさんの貴重なフィードバックを得られ、知識の深い友人もでき、とても有意義な時間でした。ありがとうございました」、「研究をしている全国の学生たちと議論できたのが、とても楽しく、貴重な経験になったと思います」、「さまざまな人との交流によって、自分の研究を見直すきっかけになりました」、「将来の職業選択の幅がひろがった」などのメッセージが印象的でした。
坂本:事務局でも、ある高校の先生から礼状をいただいたことがあります。その一文ですが、「今回連れて行った生徒たちも、狭い学校を飛び出して、大勢の方に自分たちのやっていることをお話しし、笑顔をいただいたことがなによりの収穫でした。来年もお邪魔できるように、がんばってくれそうな気配です。またお目にかかることを楽しみに、一年間、生徒とともども精進したいと思います」といったことが書かれていました。生徒さんたちにとっても、先生にとっても、有意義なイベントになってくれていると感じています。
―― つくばScience Edgeは、すでに多くの方の「その後」に何か影響を与えていそうですね。
来栖:コンテストに参加した高校生で、ご協力いただいた研究者がおられる大学へ進学され、その研究室に所属しているという方がいます。審査後に開催されるサイエンスワークショップでプラスチックに関する講義に感銘を受けたそうで、つくばScience Edgeでの出会いが、人生を変えるきっかけになった例ですね。
坂本:コンテストで表彰を受けた参加者が、その課題に関連した研究の道に進んだ例や、発表した内容で特許権を取得した演題もあります。本コンテストのレベルの高さが感じられますよね。また支えてくれているボランティアにも、中高生時にコンテストに参加した方たちが大勢います。コンテストのOBやOGとして運営を支援してくれている。うれしい限りです。
真剣な発表、そして打ち解けた歓迎の場で芽生える交流。
―― 「交流」という視点では、どのような成果がありますか。
坂本:日本全国、さらには海外から参加した中高生同士が、同じ教科・分野の発表をする場で隣り合い、相互に評価し合うなかで交流が生まれています。参加校同士が国内だけでなく海外校とも連絡先を交換し、学校単位での交流にも発展しているようです。
来栖:ポスターセッション(※)では、参加した中高生同士が他校の発表を評価する機会もあり、どのような調査や研究をしたのかを質問し合うコミュニケーションが生まれていますよね。先にご紹介したアンケートで「知識の深い友人ができた」という回答を見たときは、私もすごくうれしかったのを覚えています。自分たちの研究発表を専門家に評価された経験だけでなく、交流が芽生えて持ち帰るものができる。そんな魅力が、つくばScience Edgeにはあると思います。
※ ステージに登壇して口頭で発表するのではなく、研究内容を掲示して発表する場。
また、海外からの参加者とは、国際交流の場も設けられています。研究の話は抜きに、英語で楽しく交流しましょうという時間になっていて、前回も国内外からの中高生200名がゲームなどで盛り上がりました。海外研修を取り扱うことも多い私たちとしては、そのノウハウを活用して交流会の実施・運営を担っています。高校生による高校生のための会として、地元の県立高校にご協力いただいて企画したもので、「茨城へ来てくれて、ありがとう」という気持ちを込め、もてなす側としても運営に協力していただきました。ここから個人的な交流が芽生え、続いていってくれることを期待しています。
ポスターセッションの様子
英語でゲームをし楽しく交流もはかった
もっと多くの参加者を世界中から。そして、つくばを知ってもらうことも。
―― 今後、どのようなことに、特に力を入れていきたいと思いますか。
坂本:現在、参加者が1,600人を超えるまでに成長しましたが、つくばScience Edgeは本当に素晴らしいコンテストだと思っていますので、もっと多くの方に参加してもらえるよう、PRしていきたいです。まだ認知度が高いとは言えず、まだまだイベントの存在そのものを知ってもらうことが大事だと考えています。個人的には、これまで県の広報やPR活動に携わってきた経験やノウハウを活かしていきたいですね。
来栖:JTBとしては、さらに多くの方たちや学校の、新たな参加を促していきたいですね。意外と茨城県内からの応募が少ないので、もっと地元の方たちにも知っていただき、地域で育んでいけるコンテストになったらいいなと。そして海外からの参加は東アジアが中心ですので、インドさらには遠く欧米などからも参加者を集められたらと思っています。
―― そして、どんな未来を思い描いておられますか。
坂本:つくばScience Edgeをきっかけに、サイエンスの道に進んでくれる学生が増え、問題になっている理科離れの歯止めになってくれればうれしいです。心からサイエンスに興味があって、将来も取り組んでいきたいという中高生にぜひ参加していただき、最先端の研究機関で活躍できるような研究者の育成につながってくれることを期待しています。
来栖:私個人の思いとしては、いろいろな国や地域から多くの方がお越しくださっていますので、その方たちをこの会議場の中だけでなく、周辺の研究所にお連れできる企画をつくってみたい。つくばを訪れてくださったことに、さらなる価値を見出せるようなプログラムにしたいです。そして、子供たちにはもっと教室を飛び出し、世界の広さを実感してほしいと思っています。そのお手伝いを私たちにさせていただきたい。新しい世界へ飛び込むために、少しでも背中を押せたらと思っています。
坂本:つくばScience Edgeに参加・挑戦された中高生の中には、アイデア中心で、研究があまり進んでいないまま参加される方・チームもいます。このコンテストのコンセプトとしては、それでも問題ありません。
研究発表・ポスターセッションでの質疑やディスカッションから刺激を受けることから生まれる「次なる研究・実験へのつながり」、また国際交流会やワークショップを通じ、研究者や参加した国内外の中高生との交流から始まる「人とのつながり」という2つの「つながり」を持ち帰ってもらえればと思います。
そして、この取り組みが未来の研究者への「つながり」となるよう、江崎館長をはじめ私たちが応援しますので、ぜひご参加ください。
来栖 圭、新井 英輔(JTB茨城南支店 営業課長)、坂本 好英、森 弘安(つくば国際会議場 営業課 課長)
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