週末、宇宙行く?JTBが共創する「OPEN UNIVERSE PROJECT」で広がる新たな旅の可能性
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「週末、宇宙行く?」——そんな会話が当たり前になる日は、そう遠くないかもしれません。 株式会社岩谷技研が主催する「OPEN UNIVERSE PROJECT」では、気球を使って成層圏まで上昇し、宇宙と地球を眺める「宇宙遊覧」の実現に向けて、着実な歩みを進めています。
JTBは旅のプロとして、このプロジェクトに参画し、宇宙という特別な空間の体験をより多くの人に届けるための挑戦を続けています。 今回は、プロジェクトを主催する岩谷技研の担当者と、JTBから岩谷技研に出向している社員に、宇宙の民主化に向けた取り組みと、その先に描く未来についてお話を伺いました。

株式会社岩谷技研 プロジェクト推進部 清野 亮太郎(JTBから出向中)
1992年東京都生まれ。2015年、株式会社JTB北海道入社。約1年間の店頭業務を経て、2016年から札幌で4年間地域交流事業に従事。2020年に函館に赴任。行政、法人、教育、クルーズ船受入、ツアー造成などの業務に従事。2024年4月より、「OPEN UNIVERSE PROJECT」の事業推進を目的として株式会社岩谷技研に出向。趣味は、サウナと大衆酒場を巡る旅、柴犬と触れ合うこと。

株式会社岩谷技研 執行役員 プロジェクト推進部部長 田中 克
1992年福岡県生まれ。2017年株式会社電通に入社後、クリエイティブ部門に所属しながらスタートアップのブランド開発や調達、協業支援に従事。在職中の2022年に、「OPEN UNIVERSE PROJECT」の立ち上げに携わり、有人宇宙遊覧事業の開発支援を開始。2024年10月、岩谷技研に参画。当該プロジェクトを中心とした事業推進全般を担う。学生時代はバックパッカーで20カ国ほどに滞在。
新たな旅の創造へ。気球で広がる宇宙体験の新時代

高度20,816m到達時の窓外風景(出典:岩谷技研)
——まずは、「OPEN UNIVERSE PROJECT」について教えていただけますか?

清野:このプロジェクトは「宇宙をより身近なものにしていきたい」という思いからスタートしました。JTBを含め、さまざまな分野の企業が共創し、それぞれの強みを生かしながら進めているのが特徴です。技術を有する岩谷技研が中心となり、気球を使って成層圏まで上昇し、地球を眺める「宇宙遊覧」の実現を目指しています。
——プロジェクトはどのようにして始まったのでしょうか?

清野:現在岩谷技研で代表を務める岩谷圭介さんが、学生の頃、個人の活動としてガスを入れた風船を空に飛ばして、地球の映像を撮影したことが原点です。失敗と成功とを繰り返しながら徐々に技術が進歩し、次第に仲間が集まり、規模が大きくなるなかで、いよいよ人を乗せて成層圏まで到達できるというところまで来ました。そのサービスをより良い形にしていくため、さまざまな企業との連携を始めたと聞いています。
技術と情熱が織りなす、未来への一歩

ともに、2024年から岩谷技研に加わった清野と田中さん。同い年で何かと縁のある二人は「宇宙への旅」という共通の目標を有し、日々切磋琢磨しているそう。
——お二人がプロジェクトに関わることになったきっかけを教えていただけますか?

田中:前職の広告代理店に勤務していた頃から、岩谷技研の事業支援に関わり、技術開発への真摯な姿勢に強く惹かれていました。宇宙遊覧の構想を聞いたときも、すぐに北海道の工場を訪問させていただいたほどです。当時はまだ一人がやっと入れるような小さな試作品のキャビンでしたが、実際にこの中でフライト時間を過ごしたらどうなるのだろうという興味から、実際のフライト時間と同じ4〜5時間をキャビンの中で過ごさせてもらいました。
そのようななかで体験価値の重要性を痛感したんです。安全性はもちろん大切ですが、それ以上に「感動できる体験」にしていくことが必要だと。その後も技術者の皆さんの熱意や、実現に向けた着実な歩みを目の当たりにするなかで、私自身もこのプロジェクトに深く関わりたいという思いが強くなり、2024年10月に正式に入社を決意しました。

気球工場内に置かれているキャビン実機。こちらは10号機目にあたる「T-10 EARTHER 」で、7月の有人飛行試験で実際に空を飛んだことも。
清野:私は東京出身ですが、観光業への興味と北海道への憧れから、JTBに入社しました。分社化されていた当時のJTB北海道では、従来の旅行業務だけでなく、地域創生やインバウンド需要の開拓、イベント企画など、新しい取り組みに積極的でした。そういった環境で、法人営業、地域交流事業、クルーズ船の受け入れなど、さまざまな経験を重ねてきました。
JTBが本プロジェクトに参画したのは2023年2月のこと。私は翌年の2024年4月から岩谷技研へ出向しています。常に新しいことへのチャレンジを求めていた私にとって、まさに理想的な機会でした。確かに宇宙という分野は未知の領域でしたが、これまでの経験を生かしながら、新しい価値を創造できる可能性に魅力を感じています。
——岩谷技研の宇宙事業には、どのような特徴があるのでしょうか?

岩谷技研江別研究所の様子
田中:岩谷技研は純然たる技術開発を基盤とする会社です。私が前職時代に初めて岩谷技研のメンバーにお会いした際、最も印象的だったのが先ほどもお伝えしたとおり、彼らの技術開発への真摯な姿勢でした。初めて岩谷技研を訪れた際に、プロモーション用の素材をどうするかという議論のなかで、技術者たちが「CGは使わない。それは嘘になるから」と言っていたことが忘れられません。その言葉に象徴されるように、実際の技術と成果で勝負する。そんな科学者としての誠実さを持った会社なんです。
異業種の強みが結ぶ、新たな挑戦の形
——技術を追求する岩谷技研と、交流創造事業を掲げる旅行サービスのJTBが、共創することになった経緯を教えていただけますか?

清野:宇宙遊覧を実際のサービスとして展開していく上で、いくつもの課題があります。販売網の構築や、機内での飲食物の検討など、サービス面でさまざまな要素を検討する必要があったんです。特に、商品化した際の販路開拓や販売方法といった部分で、旅行に知見のある会社との連携が不可欠でした。そうした検討の中でJTBが共創パートナーとして参画するに至ったと聞いています。
田中:通常は、技術会社であっても、ビジネス面の人材を社内で育成していくものです。ですが、宇宙遊覧というサービスの場合、非常に大きな販売網やサービスのノウハウが必要不可欠です。岩谷技研単体では、せっかくの技術力がありながら、その普及や展開に時間がかかってしまう。そこで発想を転換し、企業と垣根を越えて共創する形でプロジェクトを立ち上げることにしました。その構想のなかで、最初の共創パートナー企業としてJTBに参画していただくことになりました。

清野:JTBとしても、宇宙は非常に注目している領域ですが、気球による"誰もがいける宇宙遊覧"によって、「宇宙の民主化」を実現したいというビジョンに共感したことが、タッグを組んだ最大の理由でした。単独での技術開発はできませんが、私たちの強みを生かせる形で参画できることに、大きな可能性を感じたのです。
——技術とサービス、異なる強みを持つ企業の連携というのは興味深いですね。現在、JTBはどのような形で関わっているのでしょうか?

ツーリズムEXPOジャパン2023でのJTBブースに展示されたキャビンの模型
清野:JTBとしては、プロジェクトに参画して以来、さまざまな形で関わってきました。例えば、2023年9月に実施したツーリズムEXPOジャパンでのJTBブースに、宇宙遊覧に用いる2名乗り“キャビン”を展示したり、2024年3月につくば市で開催された中高生向けのサイエンスイベントでは、代表の岩谷さんに講演していただくなど、広く関心を集める活動を行っています。また、現在東京品川にあるJTB本社のエントランスには、“キャビン”の模型が展示されています。そのほか、PRのためのリーフレットやポスターの制作といったことも連携しておこなっています。
——プロジェクトはどのような段階にあるのでしょうか?

清野:2024年は大きな進展がありました。7月には実際のサービスで目指す高度20kmまでパイロットが到達する試験に成功したんです。これまで500回に及ぶ飛行試験を重ね、安全性と快適性を徹底的に追求してきました。そしてついに2025年春以降の商業運行開始を目指すまでに至りました。
田中:技術面の進展に加えて、お客様に提供する価値の向上にも注力しているんですよね。例えば、宇宙遊覧は4時間から6時間の体験になりますが、その時間をいかに特別なものにできるか。JTBの旅行業としての知見を活かしながら、新しい体験価値の創造に取り組んでいます。

岩谷技研のプラスチック製の気球とキャビン。気球にはヘリウムガスが充填され、ガスの浮力で上昇する。
——パイロット経験者からは「世界で一番静かな乗り物」との声も聞かれると伺いましたが、気球での宇宙遊覧の特徴や魅力を教えていただけますか?

2024年7月17日、国内初となる有人気球での高度20km超のフライトに成功。地球の輪郭が青く見え、背後には漆黒の宇宙空間の広がりが感じられる。
田中:最大の特徴は、特別な訓練なしでも搭乗できることです。ロケットでは宇宙飛行士として求められる身体基準や長期にわたる特別な訓練が必要ですが、気球はゆっくりと穏やかに上昇していくため、体への負荷が非常に小さいんです。一般の方でも特別な準備なく搭乗できる、それが気球による宇宙遊覧の大きな利点です。
清野:静寂の中でゆっくりと地球を見下ろす。そんな特別な時間を過ごせることが魅力です。また、打ち上げ場所も現在は北海道ですが、条件が揃っていれば比較的自由に選べるため、将来的には国内外での展開も考えています。
——新しい挑戦には必ず課題もあるかと思います。プロジェクトを進めるなかで、どのような課題を感じていますか?

飛行試験は現在本社がある北海道を中心に実施している。無人・有人を合わせた試験回数は、のべ500回にも及ぶ。
清野:最も大きな課題は天候です。気球は風に乗って飛ぶので、気象条件が飛行の可否を左右します。そのため、お客様にはおよそ1週間ほど余裕をもって滞在していただく予定です。
田中:技術面では、完成度を常に追求し続けています。例えば飛行試験で80点や70点の結果が出たとしても、私たちはそこで満足せず、すぐに改善点を洗い出し、翌日から対策を講じています。パイロットの養成や運航体制の整備など、商業運行に向けてクリアしなければならない課題はまだまだありますが、一つ一つ着実に解決していきたいと考えています。
清野:JTBとしての課題もあります。このプロジェクトにJTBが参画していることや、なぜ参画しているのかということを、社内外でもっと周知していかなくてはいけないと感じています。特に、今後JTBがより強い連携や協力をするタイミングが必要になったとき、スムーズに進められるよう、社内での理解を深めていくことも私の役割です。

キャビンは、宇宙船としては極めて大きな直径150cmのドーム型窓を備え、壮大な宇宙の姿を眺めることが可能。足元にも窓があり、眼下を見下ろせるようになっている。
宇宙からの景色が変える、人々の心
——新しい価値を作り出すことの難しさや、やりがいを感じる部分はどのようなところでしょうか?

清野:この半年あまり、多くの技術者の皆さんと接しながら働いていますが、JTBにいた時とは全く異なる新鮮な経験ができています。特に印象的なのは、先ほど田中さんも言っていたとおり技術開発に向き合う姿勢です。目の前の課題に真摯に取り組み、一つ一つ丁寧に解決していく。そんな姿に日々刺激を受けています。私は技術面での貢献はできませんが、自分も岩谷技研の一員として、またJTBからきている人間として寄与できることを常に考えています。
田中:清野さんは非常に真摯に取り組んでくださっていて、私たちとしても頼もしい限りです。どんな場面でも目配りをしながら、JTBならではの視点で提案をしてくださる。そういった異なる視点が入ることで、プロジェクト自体も進化していると感じています。
——宇宙遊覧の魅力や価値をどのように感じていますか?
田中:宇宙飛行士の多くが、地球を見ることで大きな感銘を受けたと報告しています。私たちの提供する宇宙遊覧でも、その静寂のなかで地球を眺める体験は、必ず見る人の価値観に何かしらの変化をもたらすはずです。特に興味深いのは、これが当たり前になった世代が将来どんな価値観を持つようになるのか。そこに大きな可能性を感じています。
清野:実際に空を飛んだパイロットの話を間接的に聞くだけでも心が揺さぶられます。キャビンという乗り物の中にいながら、手の届くところにそれが見えてくる。その体験は、実際に搭乗するお客様に、これまでの旅行とは全く異なる価値もたらすと確信しています。

——JTBが宇宙事業に関わる意義について、どのようにお考えですか?

清野:JTBは110年以上にわたり、常に時代に合った新しい旅の形を提案し続けてきました。その延長線上に宇宙という新たな目的地が見えてきたとき、私たちとしてもその価値をお客様にお届けしたい。宇宙遊覧に関わることは、単にJTBの新規事業というだけでなく、「旅の究極の形」に挑戦するという意味があると考えています。より多くの人に感動を届けるという、JTBのDNAそのものなんです。
夢の実現へ。広がる可能性と挑戦
——実際に商業運行が近づいてきていることを実感しますね。最後に、今後の展望について教えてください。

清野:JTBとしては将来的に、旅行のパートナーとして販路を広げていく役割を担っていきたいと考えています。ただ、それだけではなく、あらゆる共創の形を模索しています。例えば、現在、気球の第一号機のネーミング募集キャンペーンを実施しているのですが、そこでも連携しています。これは、今春以降に実現する第一号の機体の「ネーミング」を広く募集するという取り組みです。なので、JTBが持つネットワークを生かしながら、このプロジェクトをより多くの方に知っていただき、世界初の宇宙遊覧への関心を高めていければと思います。
田中:私たちも、この取り組みが広がっていくことを期待しています。宇宙遊覧事業の普及は、岩谷技研一社の成長だけでなく、宇宙産業全体の発展につながるはずです。過去のアンケート調査では、1000万円以上を払ってでも宇宙旅行に行きたいという方が約3%、日本全体の人口に換算すると約400万人もいるという結果が出ました。それぞれの企業が垣根を越えて共創することで、宇宙への旅がより身近なものになっていく。そんな未来を目指して、これからも挑戦を続けていきます。

写真:大童鉄平
文:大西マリコ
編集:花沢亜衣
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