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ゴールは地域貢献。フィールドを超えてつながるJリーグとJTB

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2025年4月1日、JTBと公益社団法人日本プロサッカーリーグ(以下、Jリーグ)は、サッカーや地域を起点とした交流事業の促進を目的に、サポーティングカンパニー契約を締結しました。
では、JリーグとJTBの共創はサッカーの盛り上がりに、地域の活性化に、どのような変化をもたらすのでしょうか。Jリーグのパートナーシップダイレクターを務める叶屋宏一さん、JTBスポーツ・エンタテイメント共創部の嶋津伸二郎の対談から迫ります。

公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)パートナー事業部 パートナーシップダイレクター 叶屋宏一

株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行。その後、外資系金融会社を経て、2004年にヴィッセル神戸に入社。専務、社長を歴任し2012年退社後、ヴィッセル神戸のスポンサーであったアンファー株式会社の外部コンサルティングに携わり、2016年に常務として同社入社。2020年に同社の代表取締役社長に就任。その経験と知見を生かし、2024年7月から現職。

JTB ツーリズム事業本部 スポーツ・エンタテイメント共創部 嶋津 伸二郎

1999年入社。配属された釧路支店でアイスホッケー実業団チームを担当したことをきっかけに、スポーツ事業に関わるように。その後、法人営業札幌支店ではプロ野球チーム担当、スポーツマーケティング事業部ではラグビーワールドカップなどメガスポーツイベントにも従事。2021年からは、北海道事業部にて北海道ボールパークとの連携事業を担当し、2024年から現職。

JリーグとJTBがサポーティングカンパニー契約を締結

———2025年4月、サポーティングカンパニー契約を結んだJリーグとJTB。その経緯をお聞かせください。

叶屋(Jリーグ):Jリーグは「百年構想」というスローガンのもとに成り立つ組織です。その背景には、初代チェアマンを務めた川淵さんの「あなたの町に、緑の芝生に覆われた広場やスポーツ施設をつくりたい」という想いがあります。つまりはサッカーという競技の隆盛にとどまらない、地域貢献と地域密着を目指していいます。そういう意味で、全国47都道府県に拠点を持ち、各地で地域や自治体と連携した取り組みを行っているJTBに深く共感しましたし、JTBは複数のJリーグクラブのスポンサーもされ、サッカーとの親和性も高い。これはもう、お声掛けするしかないぞ、ということで私からお声掛けさせていただきました。

嶋津(JTB):個人的にとてもわくわくしましたし、JTBとしても光栄なお話でした。僕は北海道の札幌出身。今の部署に異動になる前はJTBの北海道事業部の一員として、北海道コンサドーレ札幌のスポンサードにも携わっていました。ただ、クラブ単位のスポンサー契約では、どうしてもできることが限られてしまいます。より大きな事業規模で、もっとスポーツとの共創ができるのではないか。この想いは自分のなかでもくすぶっていたので、願ってもない巡り合わせというか、ご縁を感じましたね。

叶屋(Jリーグ):そう、本当にご縁です。何しろ、現・チェアマンの野々村さんもコンサドーレの選手でしたし、現役引退後にはコンサドーレの会長も務めた人物ですから。

———すると、とんとん拍子に契約締結に至ったのでしょうか。

叶屋(Jリーグ):正直なところ、なかなか大変でした(苦笑)。サポーティングカンパニー契約をより一般的な言葉に置き換えるなら、“協賛契約”です。地域貢献を共通項に、事業フィールドのまるで異なるJTBとJリーグが手を組む。嶋津さんも僕も、顔を合わせるたびに「こんなこともできる、あんなこともできる」とアイデアが湯水のように湧いてきます。しかし、これがビジネスの契約である以上、そのアイデアが絵空事では通用しないんですよね。

嶋津(JTB):お互いのフィールドは全く異なっていても、Jリーグさんとは本当に親和性が高くて、アイデアはいくらでも出てくるんですよね。Jリーグには、より深くリーグを楽しむための「JリーグID」を保有される方が約480万人いらっしゃって(2025年7月時点)、今期のJ1クラブ数は41都道府県に60。大勢のサポーターの皆さんがスタジアムに足を運び、熱狂的な応援されるわけです。この数字だけでもどうしても夢が膨らんでしまう。

しかし、契約締結を実現するには、双方にビジネス上のメリットがなくてはなりません。当社としての事業性を担保するために叶屋さんには色々な提案をいただきながら、埋めていく作業をしました。恐らく終盤は週4回くらい打ち合わせしていました(笑)。

叶屋(Jリーグ):無事に契約締結に至れたのは、嶋津さんの熱意の賜です。JTBもJリーグも、どちらも大きな組織。私自身、かつてはヴィッセル神戸の運営に携わっていましたが、クラブ単位のスポンサードは地域貢献へのロードマップも理解されやすく、費用対効果もわかりやすい。一方、今回のような大規模な契約を締結させるのは、本当に大変です。嶋津さんの熱意がなければ、絶対に成立しなかった。感謝しています。

過去最高の入場者数にも無関係でない、継続的な地域貢献

———両社を結びつけた「地域貢献」。Jリーグでは、どのような取り組みをされているのですか。

叶屋(Jリーグ):冒頭にもお話ししたとおり、Jリーグは各クラブが地域に密着しています。地域の皆さんの応援があってこそ、クラブに所属する選手は奮起できますし、各クラブは地域に愛される存在でなくてはいけません。そのための取り組みのひとつが「ホームタウン活動」です。例えば、地元の小学校にサッカーボールを寄贈したり、地元の農家さんのアドバイスを受けながら田植えのお手伝いをしたり、地域のゴミ拾いをすることもあります。各クラブがそれぞれに活動し、この「ホームタウン活動」は年間3万2,000回超。1クラブにならすと年間約500回になります。

嶋津(JTB):Jリーグは「シャレン!」と称した、社会連携活動もされていますよね。以前、私たちJTBも川崎フロンターレの取り組みに参加させていただきました。(※) そのときは「発達障害児向けサッカー×ユニバーサルツーリズム」をテーマに、発達障害のあるお子さんをフロンターレのホームスタジアムにお招きして、感覚過敏のお子さんでも安心して過ごせるセンサリールームを設置して。当時は元日本代表の中村憲剛さんも現役。参加した子どもたちにとっては、本当に貴重な体験だったのではないでしょうか。

叶屋(Jリーグ):「シャレン!」の取り組みは2020年に始まり、特に「ホームタウン活動」に関してはJリーグが発足した1993年から続く取り組みです。クラブは目先のスポンサーやチケット売上などの短期的な収益を追うだけでなく、地道で泥臭い取り組みをくじけることなく続けることに意味があり、だからこそ、各クラブが地域の皆さんに愛される。Jリーグは2024シーズンに過去最高となる入場者数1200万人を突破しましたが、この大きな数字にも、地域密着の地道な活動が無関係ではないはずです。

観光と観戦をセットにした、アウェイツーリズムの確立

——— 過去最高の観客動員数を記録した一方、Jリーグが抱える課題をお聞かせください。

叶屋(Jリーグ)::1200万人という数字に満足することなく、今後もさらに観客動員数を増やしていく。これは私たちが常に考えなければならない、永遠の課題です。そして、この課題解決には間違いなく、JTBとの共創が生きるはず。地域創生はもちろん、JTBは人流を創るプロでもある。私たちJリーグはJTBと手を携え、「アウェイツーリズム」という旅のスタイルを確立させたい。そう考えています。

———「アウェイツーリズム」、どんなものなのでしょうか。

叶屋(Jリーグ)::読んで字のごとくではありますが、自分が応援するクラブとは敵対するクラブのスタジアムに足を運び、サッカー観戦を楽しむことです。Jリーグの試合はおおよそ1週間ごとに開催されますが、各クラブはホームスタジアムと敵地のスタジアムを行き来するため、ホームでの試合は2週間に1回。すると年間19試合しかなく、サポーターの皆さんにより多くの試合を観戦いただくには、アウェイの地にも足を運んでいただく必要があります。単純なことではありますが、これが意外と難しい。各クラブとしては率直に、自分のチームを長く熱く応援してくれる、地元のファンを大切にしたい想いがある。ここにリソースの問題も重なり、アウェイサポーターの集客に注力するのは簡単ではありません。

嶋津(JTB):そこで、私たちJTBの核である旅行が生きます。アウェイの試合に足を運ぶことは、まだ見ぬ土地を訪ねることができる絶好の機会。特にJリーグは土日を中心とした週1開催です。夏場ともなるとナイトゲームも増えるので、観戦と観光をセットにしやすい。例えば、JTBには、旅先を存分に楽しめる「満喫クーポン」というサービスがあります。これは観光も体験も食事も、地域の魅力がいっぱいに詰まった施設やお店をお得に利用できるクーポンで域内周遊を訴求する仕組みです。例えば、このクーポンにJリーグの自由席観戦をセットにしたなら、旅先で「ちょっと行ってみようかな?」という気持ちを喚起して、”旅ナカ観戦“という新たな観戦スタイルを作れるかもしれません。

叶屋(Jリーグ):観光とJリーグ観戦をセットにした旅行を楽しまれている方は、すでに大勢いるはずです。実際、ものすごく楽しいんですよ。ただ、最初の一歩を踏み出してもらうのが意外と難しい。実際に体験したらやめられなくなるんですけどね。私自身も妻と一緒に、観戦と観光を一度に楽しむのが定番です。もう、長崎なんて最高でしたよ。軍艦島に行って、ちゃんぽんを食べて、旅行の締めくくりにV・ファーレン長崎の試合を観戦。当時は今の新スタジアムが完成する前でしたけど、歴史も文化もグルメも移動も楽しめましたから。

ミクニワールドスタジアム北九州のバックスタンドのすぐ後ろには、海が広がっている。

あとはギラヴァンツ北九州のホーム、福岡の北九州もおすすめです。門司港を楽しんで、うまいラーメンに舌鼓を打って、ミクニワールドスタジアム北九州へ。このスタジアムは小倉駅から徒歩5分の好立地で、しかもコンパクトかつ臨場感があって、本当に素晴らしいんですよね。

嶋津(JTB):叶屋さんのお話を聞いているだけでも「行ってみたい!」という気持ちになりますよね(笑)。ただ、叶屋さんがおっしゃるとおり、最初の一歩を踏み出すのは簡単ではありません。特にお一人で参戦する場合は、敵地に踏み込む勇気も必要かもしれない。それなら、私たちJTBがアウェイサポーターの皆さんが集える場所を用意し、おもてなしをすればいいではないか。アイデア段階ではありますが、そんなことも考えています。まさに交流創造事業ではないかと。

嶋津(JTB):このアイデアの原点は、当時、北海道日本ハムファイターズからメジャーリーグに移籍したダルビッシュ選手の、初登板にあります。記念すべき初登板に向けツアーを組みまして、試合は大盛り上がりでしたが、試合終了後には開いているお店も少なかったため、添乗していた私のほうで、ツアー参加者の皆さんに、缶ビールとちょっとしたおつまみを用意して交流会を開きました。ほんの気持ち程度だったのですが、それが大変喜んでいただけた。ツアーのお客様同士も意気投合され、今も一緒にファイターズの試合を観戦されている方もいるようです。そういった交流を創出するような仕掛けを実施していきたいと考えています。

意義ある共創に向け、膨らむ夢とアイデアを着実に実現

———お話を聞いているだけでもわくわくするようなアイデア、ほかにもあるはずです。今後の展望をお聞かせください。

叶屋(Jリーグ):夢が膨らみすぎて、困ってしまうくらいですよ(笑)。しかし、その夢を単なるアイデアで終わりにせず、しっかりと具現化していくことがサポーティングカンパニー契約を結んだ意義です。その意義のひとつとして、Jリーグではパートナー契約をしているパートナーさまが一堂に会し、意見を交わし合う、年に4回のパートナーミーティングを実施しています。JTBも、Jリーグのトップパートナー社の担当者の方々とひざを突き合わせなら今後のビジョンを語る。これはJリーグの未来を拓くのはもちろん、他社と交流することで、JTBの事業にも良い影響があればいいなと、勝手ながら願っています。

嶋津(JTB):まさに、今回の契約がもたらしてくれた出会いですね。パートナー各社さんとも、すでに共創の可能性を感じています。例えば、JリーグとNTTさんが共同開催されている「サステナカップ」。これは環境に良い取り組みをしたクラブが表彰される、サポーター参加型の気候アクションへの取り組みです。スマホのアプリ上に出題される気候変動を食い止めるためのクエストに参加したり、クイズに回答したりするとポイントが溜まり、そのポイントが、自分が登録している応援クラブに加算されてく仕組みです。つまりは、サポーター自身のアクションがクラブの評価につながる。Jリーグと共創するからこその取り組みです。これに全国47都道府県に拠点を持つJTBと連携することで、規模をより広げられるのではないか、なんてことも検討していきたいです。

叶屋(Jリーグ):そしてJTBは、旅行のみならず、交流創造力という点において、さまざまなソリューションとリソースをお持ちです。それらを借りれば、サッカーだけではない、地域に密着したJリーグの取り組みをより知っていただけるはずです。今は嶋津さんと二人でひざを突き合わせる機会が多いのですが、今後さまざまな方に関わっていただくことでまた違った観点からの共創も進めていけたなら、さらに可能性が広がります。

嶋津(JTB):おっしゃるとおり、JTBのリソースを有効活用することができれば、サッカーにあまり関心のない方々に対しても、大きな力を発揮できるはずです。Jリーグはヨーロッパリーグの開催時期に合わせることを目的に、来たる2026/27シーズンから開催時期を今の2月開幕から8月開幕に移行する予定です。その過渡期にあたる半年間には、特別大会の開催が予定されています。この大会を広く周知し、集客や盛り上げを図るための施策が求められるなか、JTBとしてはどんなことができるだろう……と、本当に次々とアイデアが浮かんできますね(笑)。
しかし、叶屋さんのおっしゃるとおり、重要なのはアイデアを具現化すること。そのためにもJTBグループ内にも仲間を増やし、Jリーグとの意義ある共創を実現させたいですね!

文:大谷享子
写真:鍵岡龍門
編集:花沢亜衣

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