アメニティグッズのプラスチック廃棄をゼロに。宿泊施設のおもてなしを、リサイクルで支える。
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ホテル・旅館で、快適に滞在するのに欠かせない歯ブラシやヘアブラシなどのアメニティグッズ。使い心地やデザイン性など、年々進化していますね。しかし、それらの多くのものがプラスチックでできており、使い捨てとなっている現状があります。
宿泊業界としてもこうした「使い捨て」の状況に危機感を持ち、根本的な問題解決のためには、業界全体で助け合う必要があると考えました。こうして2022年11月に設立されたのが「一般社団法人アメニティ・リサイクル協会」です。持続可能なアメニティグッズの提供を実現する取り組みが、今、始まっています。
異なるプラ素材では、まとめて再資源化が困難
アメニティグッズを使い捨てにせず、プラスチック資源を有効に使うためには、「3R+Renewable」が基本になります。Reduce(リデュース:ゴミを減らす)、Reuse(リユース:繰り返し使う)、Recycle(リサイクル:再資源化する)の3Rは皆さんにもおなじみだと思いますが、そこにRenewable(リニューアブル:資源再生が可能な素材に替える)が加えられ、「資源を循環させること」をめざす考え方です。
アメニティグッズにおける3Rと言えば、「必要なグッズを、必要な分だけ受けとる」アメニティバイキング方式や、シャンプーのボトルを詰め替え可能なものにするなど、主にリデュース(ゴミを減らし)/リユース(繰り返し使う)による取り組みが先行しています。しかし肝心なリサイクルがなかなか進んでいませんでした。その理由は、アメニティを製造している各社が、特性の異なるプラスチック素材を使用しているからで、それらをまとめて再資源化する仕組みができていなかったのです。
そこに、業界にとってはインパクトのある出来事が起きます。2022年4月1日に施行された通称「プラスチック新法(※)」です。この法律により、宿泊事業者は今まで使用後は使い捨てる一方だったプラスチックの「提供量」と「排出量」の双方を減らさなければならなくなったのです。
※ プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律
2022年11月に誕生したアメニティ・リサイクル協会のパンフレット。
「プラスチック新法」では、数あるリサイクル方法のなかでも、プラスチックを再びプラスチック製品の原料として使用する「マテリアルリサイクル」方法(※)が推奨されています。これにより、いよいよ3R+Renewableのリサイクルにも本腰で取り組まなければならないということになりました。
※ マテリアル:素材・原料・材料の意味
関係事業者が手を組み、スケールメリットで課題を克服
そこで企業の垣根を越えてアメニティグッズの販売会社4社とメーカー4社(※)が手を組み、「一般社団法人アメニティ・リサイクル協会」(以下「本協会」)が設立されました。
本協会の主な役割は5つあります。①宿泊施設から再生原料化工場へアメニティグッズを回収すること ②アメニティグッズメーカーへの原料販売と原料の品質管理をすること ③製品ガイドラインをつくること ④リサイクル証明書を発行すること ⑤マテリアルリサイクルという取り組み自体を広く世の中に知らせることです。
※ 2023年3月時点
本協会では「マテリアルリサイクル・スキーム」、つまりアメニティグッズの原材料が製品となった後、また戻ってきて次の製品の材料として、きちんとリサイクルされる仕組みを作り上げました。材料が製品となって使用され、回収される一連のサイクルにおいては、原料を統一し、法律に則った資源回収方法を作り上げ、安心・安全なアメニティグッズを製品化し、さらには、宿泊施設の手間を減らした回収手順を設定すること、などを実現しました。この手間を減らすことは、この仕組みが継続するための大事な要素になります。
実は、本協会のアメニティグッズ販売会社4社の事業規模を合計すると、日本の宿泊施設で使用されているアメニティグッズのおよそ過半数にも及ぶのです。そのスケールを、コストや作業効率の削減に活かさない手はありません。今現在は、使用済みの歯ブラシとヘアブラシを回収し、順次新しい製品へ再生することを開始しています。
アメニティグッズのマテリアルリサイクルスキーム
ところで、この協会には、JTBグループの「JTB商事」も参画しています。今回はこのJTB商事の担当者に、本協会の設立や参画の経緯について、話を聞いてみました。
※ JTB商事:旅館やホテルなどをお客様とし、アメニティグッズから什器、備品、家具、内装工事、事業コンサルティングなど宿泊施設のニーズにトータルで応える「旅の総合商社」
JTB商事 取締役執行役員 和田 信 (アメニティ・リサイクル協会 理事)
入社後、旅館ホテル商事事業を中心に従事、その後ホテル営業を主担務として現在に至る。趣味はゴルフ。
JTB商事 営業企画部企画課 企画担当課長 櫻井 佑亮
入社後、旅館やホテル運営に関わるあらゆるアイテムの卸営業に従事、近年ホテル中心の事業開発等に担務し、現在に至る。趣味はキャンプ。
日本の観光業、そして宿泊施設の未来のためにリサイクルを。
―― なぜアメニティ・リサイクル協会の設立に関わったのでしょう。
櫻井:宿泊業界ではコストや作業効率の問題もあり、アメニティグッズのリサイクルが、なかなか進まずにきました。しかし、プラスチック新法にどう対応すればよいか戸惑う宿泊事業者の声を聞き、その事業パートナーとしての立場からも、協会設立の必要性を強く感じたのがきっかけです。
和田:本協会は、アメニティグッズの製造・販売の8社が参画して設立されました。日頃は互いに切磋琢磨する競合企業なのですが、設立に至るまでの調整はとてもスムーズでした。業界の価値を上げていきたいという気持ちもありますが、何よりも地球環境の未来を思う強い気持ちが一致したのだと思います。これにより、グッズの販売においては、これまで通りのライバルでありつつも、どの企業も公正公平に利用できる「マテリアルリサイクルの場」が生まれました。これからもあらたな事業者の皆さんに参加してもらえるよう、広く門戸を開いてお待ちしています。
アメニティ・リサイクル協会によるマテリアルリサイクルの紹介動画(YouTube)
―― 観光業界におけるサステナビリティの現状は。
和田:まず、ツーリズム業界全体としては、「SDGsに取り組む」流れについて、特に海外からの影響を強く感じています。例えば、MICE(※)で日本にいらっしゃる企業の需要を獲得するには、環境に配慮する姿勢が求められるでしょう。こういった観点において、海外のホテルは日本のホテルより進んでいると思います。私たちがお取引する中でも、外資系の大手ホテルチェーンなどからは、サステナビリティや社会貢献といった視点を強く求められます。国内の宿泊施設側にも、SDGs要素を取り入れなければ、訪日のお客様を獲得できないのではないかという危機感があります。
※ Meeting(会議・研修)、Incentive(研修旅行)、Convention(国際会議・学術会議)、ExhibitionまたはEvent(展示会、イベント)の頭文字をとった造語。多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称。
櫻井:私たちは製品の設計を見直し、石油という枯渇性資源からバイオマスプラスチック(※)への変更や、パッケージの簡素化、製品重量の軽量化(素材の使用量削減)に取り組んできました。これらリユース・リデュース商品は実際にはコストがかさみ、従来品の価格と大きく乖離してしまうことが課題でした。
しかし、本協会のマテリアルリサイクル対応製品は、原料を統一することで、そのコスト差を縮めることに成功しました。リサイクルしたアメニティの使用により、各宿泊施設にとってプラスチックの「提供量」と「排出量」の目標達成が明確になる点もメリットとなり、多くの引き合いにつながっています。
※ バイオマスプラスチックとは、植物などの再生可能な有機資源を原料としたプラスチックのこと(写真は、JTB商事で扱っている植物由来のプラスチック製品「むぎから」シリーズ。ムギ由来)。
櫻井:例えばリサイクル対応ではない歯ブラシを使っていたホテルがあるとします。これを、リサイクル素材51%を使用したリサイクル対応のものに替えるだけで、ホテルとしてはバージンプラスチック(※)の提供量51%を抑制したことになるのです。プラスチック使用の合理化として評価されるだけでなく、プラスチックごみの排出量削減ゼロにもつながります。利用するお客様にとっても分かりやすい仕組みであり、何より気兼ねなくアメニティグッズを使ってもらえます。このような取り組みは、快適に宿泊していただくためには大事なことです。
※ バージンプラスチックとは、新規化石由来プラスチックで作られた未使用のプラスチックのこと。
マテリアルリサイクルで、生まれたもの、これから見据えていくこと。
―― この取り組みにより、どのような交流やつながりが生まれていますか。
櫻井:やはり協会設立にあたり、競合各社が垣根を越えてつながり、協力する体制が生まれたことは、宿泊業界の発展のためにも、非常に意義のあることだと思います。複数の自治体から、マテリアルリサイクル・スキームに関する協定のお話もいただいており、行政エリア単位での取り組みや交流の創造につながりそうです。
和田:海外のホテル関係者からの関心も高いです。来日の際にリサイクル・スキームの見学を希望される方もいるので、日本のアメニティ・リサイクルの状況をご説明しています。サーキュラーエコノミー(循環型経済)の先駆けとして注目されれば、そこで新たなつながりや交流も生まれることでしょう。SDGsやサステナビリティへの関心の高まりとともに、旅行者の皆さんが目的地や宿泊施設を選ぶ上で「環境保護に貢献できること」が魅力であり、判断基準となる日も近いのではないでしょうか。
―― 今後はどのような展開を考えていますか。
和田:まずは品質管理を徹底し、安心・安全な製品をお届けすることをめざしています。本協会では「アメニティグッズの2030年ビジョン」を掲げており、2030年までにすべての製品を100%サステナブル素材へ切り替え、「新規化石由来プラスチックゼロ」をめざします。そのためにも、私たちのできることを広げていき、社会の認知や理解向上にも努めていく考えです。
櫻井: JTB商事は「環境に配慮した街づくり」という観点で貢献したいと思っています。観光地を盛り上げていきたい思いは強く、ゴミ問題やサステナビリティへの対応は重要課題だと考えています。マテリアルリサイクルのような適正な対応によって観光資源を保全し、サステナブルな旅の魅力を発信していきたいと思っています。
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