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絶景プロデューサー・詩歩さんとともに「新たな目的地」を創出。JTBが挑む訪日インバウンド戦略

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2025年、訪日外客者数は過去最多の4,200万人を突破しました。その一方で、特定エリアへの集中や、地方の魅力が十分に伝わりきっていないという課題も抱えています。

こうしたなか、JTBは絶景プロデューサーの詩歩さんとの共同プロジェクトを始動。「日本の絶景は地域にこそ眠っている」。――そう語る詩歩さんの“旅人視点”とJTBのネットワークを掛け合わせ、まだ訪日旅行者へ知られていない「新たな目的地」を創出していきます。

今回は、JTBの担当者と詩歩さんに、コラボレーションに至った経緯やこのプロジェクトに込める思いを聞きました。

詩歩

「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」プロデューサー。静岡県出身。累計66万部を突破した書籍「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」著者で、SNSのフォロワー数は100万人以上。昨今の”絶景”ブームを牽引し、流行語大賞にもノミネートされた。
現在はフリーランスで活動し、旅行商品のプロデュースや自治体等の地域振興のアドバイザーなどを行っている。静岡県・浜松市観光大使。

ツーリズム事業本部 訪日インバウンド共創部
松野 友哉

2004年入社。地域の観光戦略支援、クライアントの訪日プロモーション施策支援、インバウンド領域での新規事業開発を経て、グループ全体の訪日インバウンド事業に従事。

ツーリズム事業本部 訪日インバウンド共創部
石野 真菜

2009年入社。国内商品の企画を担当後、JTBニュージーランドでアウトバウンドレジャーの業務に携わる。2015年から訪日インバウンド事業へ。現在はグループ全体の訪日インバウンド事業をけん引する「訪日インバウンド共創部」にて、主にBtoC領域、提携販売領域、PR関連業務を担う。

「地域が推したいもの」と「旅行者が見たいもの」のズレを埋める

――昨年12月、日本各地の魅力を発掘・発信する「JTB JAPAN Inbound」の専属マイスターに詩歩さんをお招きしました。今回のコラボレーションに至った経緯を教えてください。

石野:JTBは昨年9月に「訪日インバウンドビジョン2030」という新たな戦略を発表しました。そのなかで特に重視しているのが、訪日外国人旅行者が「訪れたい」と思うような、今まであまり注目されていなかった「新たな目的地の創出」です。
この目標に一緒に取り組んでいただける外部パートナーを探すなかで、出会ったのが詩歩さんでした。

詩歩さんの作品は、言葉だけでは伝えきれない地域の空気感や四季の魅力にあふれています。それは、私たちには到底できない「切り取り方」であり「伝え方」でした。ぜひ詩歩さんの“旅人目線”を生かしていただけたらと思い、お声がけしたんです。

愛媛県 奥道後の紅葉

松野:地域を持続可能な観光地にしていくためには、詩歩さんのような「第三者の目線」が欠かせないと思っています。

新しい目的地を作ろうとする際、どうしても「地域の方が発信したいこと」と「海外の方が魅力に感じること」の間にズレが生じてしまうケースが多くあるんです。地域の方々が誇るその土地の魅力は、私たちとしてももちろん大切にしたい。
一方で、その想いをそのまま発信するだけでは、海外の方に届きにくいのが現実です。
そこで、詩歩さんがもたらしてくださる「第三者の目線」で、その地域の魅力を再発見できるのではないかと思っています。

――詩歩さんは、JTBからのオファーを受けてどのような印象を受けましたか?

秋田県 鵜ノ崎海岸の星空

詩歩:私のフォロワーさんは日本人が多いため、最初は「本当に私でいいのかな?」という不安がありました。でも、今まさに松野さんがおっしゃった課題は、私自身も地方自治体とお仕事をするなかで日々感じてきたことだったんです。

私から見れば絶景だらけの地域なのに、地元の方はその場所を知らない、ということは珍しくありません。それくらい内側と外側で見えているものにギャップがある。
地域の本質的な魅力を伝えるためには、その両方の視点が不可欠だと思っています。

JTBさんからも、私の発信力そのものではなく、培ってきた“旅人目線”や“魅力を発掘する視点”を求めていると言っていただき、それなら私の経験が力になれるのではないかと思いました。

「絶景」を入り口に、地域に根ざした「深い体験」をデザインする

――今回の取り組みは、具体的にはどのような展開を想定しているのでしょうか?

松野:主にアジア圏の日本ファンに向けて情報を発信している自社グループのメディア「FUN!JAPAN」を活用します。140万人以上の日本好きの会員様を抱えるこのプラットフォームで、詩歩さんとロケを行い、撮り下ろした絶景写真を順次掲載していく予定です。

まずは「絶景」を入り口にして興味を持っていただき、その周辺の食事処や観光スポットもセットでご紹介することで、実際に足を運んで周遊いただけるような導線を作ります。

それと同時に、宿泊先や交通手段の確保、さらには多言語で歴史を伝えられるガイドの育成など、旅行者を迎え入れるための「土台作り」も並行して進めます。
これらを同時に解決してこそ持続可能な観光地になりますし、お客様にとっても「絶景を見て終わり」ではない、心に深く残る体験になると考えています。

――単に人を呼ぶだけでなく、その「先」にある地域への配慮も重視しているのですね。詩歩さんは、近年の観光における課題をどのように感じていらっしゃいますか?

詩歩:誰もが発信者になれる今、観光地ではない住宅街や私有地がSNSで話題になり、受け入れ準備が整わないまま人が殺到してしまうケースを多く見てきました。通学路や私有地に突然多くの人が押し寄せれば、住んでいる方々は当然困ってしまいます。

地域の魅力を発信することには「いい影響」と「悪い影響」の両面がある。
私は長年、その「悪い影響」をなるべく最小限にするために旅人として何ができるかを考えてきましたが、やはり一人の力でできることには限界がありました。
例えば、地元の方から「困っている」という声を聞くことがあっても、私は何か具体的な策を講じられる立場ではありません。そのもどかしさをずっと抱えてきました。

その点、JTBさんは日本全国に地域支店があり、現場の課題に対する豊富な知見と、解決に向けたアプローチをお持ちです。
「この場所を発信することが本当に地域のためになるのか」「もしそうなら、どのような体制を整えて発信すべきか」。そうした一歩踏み込んだ議論を重ねることで、旅行者はもちろん、地域の方々からも喜んでもらえるような取り組みにしていきたいですね。

第一弾は、幻想的な雪景色が広がる「冬の富山」へ

――第一弾の舞台は「冬の富山」とのことですが、なぜ富山を選ばれたのでしょうか?

松野:まずは、富山県が置かれている現状に着目しました。
2024年の訪日客数は日本全体で約3,700万人でしたが、そのなかで富山県を訪れた方の割合は、わずか0.6%(約22万人)ほどにとどまっています。
一方で、すぐ隣の石川県には10倍以上の約250万人、岐阜県にも100万人以上が訪れており、多くの旅行者がすぐ近くまで来ているにもかかわらず、富山まで足を延ばしていない。これは大きな課題の1つだと考えています。

また、富山のなかでも「場所と時期の偏り」が顕著です。人気の「立山黒部アルペンルート」はとても賑わいますが、景色だけ見て帰ってしまう方も多く、地域内格差が広がっています。さらに、春から夏に人気が集中する一方、冬は客足が遠のいてしまう。
そこで、あえて「冬の絶景」を発信することで、場所だけでなく「時期の分散」にも挑戦したいと考えました。

詩歩:今回のロケでは、世界遺産にも登録されている南西端の「五箇山(ごかやま)」の一棟貸しのコテージに宿泊しました。私も何度か足を運んでいますが、日本の原風景が今なお残り、合掌造りの集落に雪が積もる景色が本当に美しくて。
普段雪が降らない地域にお住まいの方にとっては、稀有な体験になるはずです。

相倉集落で撮影した1枚

特におすすめなのが集落内に宿泊すること。昔ながらの日本の営みをじっくり体験することができますし、観光客が少ない夜や早朝の時間帯に、ゆったり散策できるのも大きな魅力です。

今回宿泊した「五箇山合掌の里」にある一棟貸しコテージ

夜になると集落にライトアップが灯ります。日の入り後の「ブルーアワー」と呼ばれる時間帯は、遠くの山々まではっきりと見えて本当に美しかったです。
東京から新幹線とバスで簡単にアクセスできる場所に、こんな幻想的な景色を堪能できる場所があることを、ぜひもっと多くの方に知っていただきたいです。

菅沼合掌造り集落のライトアップは日没後〜夜21時まで

また、富山は本当にご飯がおいしいんですよね。今回は縄で縛っても崩れないと言われるほど硬い「五箇山豆腐」を使った「揚げとうふそば」と「五箇山豆腐刺」をいただきました。
富山に来ると食べたいものが多すぎて、いつもどのタイミングで何を食べるか迷ってしまうほどですが(笑)、やっぱりその土地ならではの名物を味わうのが一番の楽しみです。

五箇山豆腐を使った「揚げとうふそば」と「五箇山豆腐刺」

松野:富山は東京からのアクセスも良く、2024年春の北陸新幹線延伸によって広域からの周遊もさらにしやすくなりました。バスや電車などの二次交通も充実していて、レンタカーがなくても主要スポットへ足を運びやすい。
コンパクトな県ですが、その分、自然・歴史・食の魅力がギュッと詰まっていて、非常に可能性を秘めた地域だと思っています。

枠を超えた「共創」で、地域に眠る絶景を届ける

――今回のプロジェクトは、単に集客するだけでなく、地域の受け入れ体制も同時に整えていくというお話でした。JTBがそこまで「連携」を重視する理由を改めて教えてください。

石野:私たちが掲げる「訪日インバウンドVISION2030」では、持続可能な世界トップレベルの観光立国の実現を目標としています。ニーズが多様化し、地域課題も複雑になっている今、JTBには社内外の垣根を越えて「共創」を生み出す力が求められています。

これを私たちは「6領域+1」と定義しました。JTBの既存事業である6つの領域に加え、新たな価値を創造する「+1」という領域に挑む。
今回のケースで言えば、詩歩さんという外部パートナーの視点で新たな目的地を見出し、全国の地域支店やパートナー企業と連携して受け入れ体制を構築していく。この「枠を超えた共創」こそが、私たちだけでは到達し得ないビジョンを達成するための鍵になると考えています。

――石野さんと松野さんが所属する「訪日インバウンド共創部」という名の通り、まさに「共創」を体現するお仕事なのですね。

石野:そうですね。関わるすべての人の想いや利害を一致させるのは簡単ではありませんし、成果が出るまでには時間もかかります。
ですが、お互いの強みを融合させることでしか辿り着けない場所が必ずあります。さまざまな方のお力を借りながら、ともに大きな目標を成し遂げていく。そこに、この仕事の大きな面白さを感じています。

――最後に今回の取り組みへの期待をお聞かせください。

詩歩:これまで数々の風景を撮影してきて感じるのは「絶景は、日本の地域にこそ眠っている」ということ。「こんなに美しいのに、なぜ私1人の貸し切り状態なんだろう……もったいない!」と思う場所が、日本にはまだたくさんあります。

私が仕事をするなかで一番嬉しいのは、地元の方に感謝される瞬間なんです。「ずっと住んでいるのに、こんなにいい場所があるなんて知らなかった。紹介してくれてありがとう」と言っていただけると「やってて良かった!」と心から思いますね。

日本は「うちの地元には何もない」と言う人が多くて、海外の人たちと比較するとローカル愛のようなものがやや薄い印象を受けるんです。
だからこそ、私のような「外からの視点」が入ることで、「自分の地元ってこんなに素敵だったんだ!」と捉え直すきっかけになったら嬉しいです。

松野:ありがたいことに、すでに複数の自治体の方からお問い合わせをいただいています。寄せられた候補地のなかから、詩歩さんとともに「新たな観光地となり得る絶景」を吟味し、発信による影響もしっかり考慮した上でロケ地を選定していく予定です。
これからも私たちの思いに共感してくださる地域の方々と、ぜひ一緒に新しい旅の形を創っていきたいと思っています。

写真:大童 鉄平
文:佐藤 伶
編集:花沢 亜衣

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