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捨てられてしまう野菜に、旅する機会を。
シェフの手による缶詰で、食品ロス削減へ。

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傷んでしまったり、食べきれなかったりして、どうしても食材や食品を捨てなければならないことはあるもの。しかし、本来なら食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」を世界規模で見てみると、その量は決して見過ごせるものではありません。人が消費するために生産された食料の3分の1ほどに当たる年間約13億トン!(※1)という推計値が発表されているのです。

この削減にJTBが取り組もうと生まれたのが「ロス旅缶」。農家から出荷されず、廃棄処分になっていた規格外野菜(※2)を利用した缶詰です。しかし「JTBが、なぜ缶詰?」なのでしょう。この事業を先頭に立って進める社員と、事業をご支援いただいているお二人をお招きし、詳しく聞いてみました。

※ 1 FAO(国連食糧農業機関)「世界の食料ロスと食料廃棄」(2011年)

※ 2 農産物の出荷には、個々の色・形・品質などを定めた規格があり、それに適合しない野菜。

東京都 生活文化スポーツ局 戦略広報担当課長 西口 彩乃

住宅メーカーで広報を担当していたころから環境問題と向き合い、「木のストロー」の開発などに携わる。いまは東京都の広報として、都民の生活の安心安全に関わることから、文化・スポーツ振興などまで幅広く担当。JTBの小糸さんとは以前より親交があり、本件の相談相手に。2022年より奈良県生駒市のSDGsアンバサダーを務める。

株式会社office 3.11 代表取締役 井出 留美

食品会社の広報室長時代、東日本大震災における食料支援を現場で経験。理不尽な食料廃棄を目にし、食品ロス問題を軸とした活動を開始。2011年に独立・起業し、食品ロス問題のジャーナリストとして活躍。インスタは、仲良しのスズメの写真。寝台列車「サンライズ出雲/瀬戸」に乗るのが楽しみ。最近は服の世界でも廃棄が多いと知り、受注生産で廃棄がなく、400年の歴史を誇る会津木綿の手縫いの服YAMMA(ヤンマ)を愛用中。

ビジネスソリューション事業本部 第三事業部 小糸 美鈴

2016年JTB入社。今回のロス旅缶の発案者。法人営業担当としてオリンピックなどのスポーツ大会におけるホスピタリティツアーなどを中心に担当。企業のイベントやプロモーションに関連する事業を幅広く取り扱う。休日は、チアダンスの社会人チームでの活動や、実家の農業を手伝い、採れたての野菜を料理することを楽しみとしている。

食べものを捨てれば、環境負荷になる。旅行業への影響も。

―― まずは、あまりに膨大な量の食料が廃棄されていることに驚きました。

小糸:そうですね、世界で年間13億トン、日本では年間523万トンの食料の廃棄があると推計されています。それとは別に、収穫したのに出荷されず廃棄となる規格外野菜なども、年間177万トンあるそうです。びっくりですよね。今回お越しいただいた井出さんには、食品ロスに関するデータの提供を中心に、「ロス旅缶」の企画開発においてもアドバイザーとしてかかわっていただきました。

井出:私は2008年からグローバル食品企業の広報室長として、2011年からは日本最大のフードバンクで広報責任者として、そして2014年からは株式会社office 3.11の代表取締役として、食品ロス問題の啓発に努めてきました。これまでに得た知見や情報などから食品ロスに関するプロジェクトに監修として携わることが多く、今回もそのような立ち位置で協力させていただいた次第です。

まず、農林水産省には、規格外農産物に関するオフィシャルなデータがないんですね。そこで、収穫量と出荷量の差から、日本で廃棄される野菜の量を導き出しています。実はその観点からいえば、世界の廃棄量も実は25億トン(※3)あるといわれています。農場で廃棄されている分の12億トンが、見過ごされているのではないかと。廃棄になる主な理由としては、先ほど出た規格外野菜であることや、農作物の需要に対して流通量が過剰にならないよう出荷を抑制する措置「生産調整」によるものです。

※ 3 WWF(世界自然保護基金)と英国の小売り大手テスコ「Driven to Waste」(2021年7月)

また漁業でも、港で廃棄される魚介類が年間100万トンほどあります。そして、企業や家庭で備蓄する災害用の食料も、賞味期限の問題などから入れ替えられ、廃棄されたものがカウントされていないという指摘があります。ですので、各機関が発表するデータよりも、実際の食品ロスはもっと多いのではないでしょうか。

JTBが、どうして食品ロスにかかわることとなったのですか。

小糸:まずツーリズム産業は、自然災害の影響をダイレクトに受ける業界です。そしてJTBグループの企業理念は、「地球を舞台に人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する」ことであり、サステナビリティそのものです。そのためJTBでは、サステナブルな社会を実現するためにさまざまな活動をおこなっており、今回の取り組みは「旅行」ではないものの、そういった社の方向性に合致していたのだと思います。
さらにJTB内には次世代の事業創出に取り組む「未来創造部会」と呼ばれる社内活動があり、2023年5月には持続可能な食の循環モデルをめざす「Sustainable Voyage Project(サステナブル ボヤージュ プロジェクト)」をスタート。その第一弾として今回事業化されたのが、「ロス旅缶」でした。

出荷されない野菜を農家が廃棄するときって、どのようにしているかご存知ですか?主に焼却されたり埋め立てられたりしているんです。そうするとCO2やメタンガスを排出するので、単にもったいないだけではなく地球温暖化の要因などにもつながるんですね。私は実家が農家なので、廃棄の光景を幼いころから目の当たりしていて、これは見過ごせない社会課題であると常々感じていました。実際、市場に出回る前に農家側では約2~3割もの野菜が規格外などの理由で破棄されているんです。

西口:「ロス旅缶」については、プロジェクト開始前から小糸さんに構想を聞いていました。大きな組織にも関わらず、社員の考えたことを積極的に採用しているJTBさんの懐の深さに感銘を受けた記憶があります。
一方で東京都では「人や社会、環境に配慮した消費行動」である「エシカル(倫理的)消費」を社会的なムーブメントにするため、『TOKYOエシカルアクションプロジェクト(以下、TOKYOエシカル)』を2022年秋にスタートしています。各分野の専門的な技術やノウハウが必要なので、さまざまな民間企業・団体とパートナーシップを構築しているのですが、そこにJTBさんにもご参加いただいていますよね。今回の「ロス旅缶」に限らず、今後もさまざまなコラボレーションが生まれることを期待しています。

パートナーの技術や知識で、缶詰とは思えない本格的な料理に。

―― 「ロス旅缶」について、もう少しくわしく教えてください。

小糸:まず規格外野菜についてもう少し詳しく説明すると、形がいびつであったり、色が通常よりも薄いなどの理由にて流通規格から外れただけの野菜なんです。味や鮮度は正規品とまったく変わりません。しかし、もったいないからといって商品そのものを価格を下げて販売をしてしまうと、正規品が売れなくなってしまう。つまり逆転現象が起こってしまうんですね。そのため、何か別の形で、かつJTBらしい付加価値をつけて販売したいと考えていました。

販売方法も、当初は缶詰に限らず、瓶詰、冷凍保存、キッチンカー、ミールキットなどさまざまな方法を検討していたんです。でも最終的には、賞味期限が長くよりロスを減らせること。常温保存が可能であり保存にかかる消費電力を減らすことができること。さらに、合わせるモノによってさまざまな味のバリエーションが出せることや、実生活のなかでの調理の簡単さなどから、缶詰にしました。

小糸:ただ実際にそう決めてからも、商品を生産するためには、やはりJTBだけの力では難しい。規格外野菜の回収から、調理、販売までの各行程でご協力いただけるパートナーが必要でした。調理や販売におけるパートナーはJTBが以前から事業パートナーとしてお付き合いさせていただいている企業にお声がけしており、井出さんにもさまざまなパートナーさんをご紹介いただいています。各企業の皆さまには、Sustainable Voyage Projectの趣旨に共感くださって大変ありがたく思っています。

規格外野菜は、「道の駅」などの運営をされている株式会社ファーマーズ・フォレストさん経由で提供いただいています。これを大阪府に拠点を構えるエイチアンドダブリュー株式会社さんへ納品して缶詰に加工。その後、JTBの企業ネットワークを活かして、協賛企業にインセンティブ商品や備蓄品として購入・利用いただいています。この規格外野菜の移動の流れを「旅」に見立て、ネーミングは「ロス旅缶」としました。
購入いただく動機はさまざまですが、「食品ロスの削減に貢献したい」「持続可能な社会を実現したい」「社員へSDGs訴求・啓蒙を強化したい」「サステナブルな企業姿勢をPRしたい」など、企業の皆様からの関心は高いと感じています。

現在のところ、商品は「鰤と蛤、夏野菜のギリシャ風マリネ」と「イノシシ肩肉のヴィネガー煮込みラズベリー風味」の2種類。最大で内容量の28%ほどに規格外野菜を使用しています。保存期間を最大化しつつ、環境負荷を減らすため、冷蔵の電力がかからない缶詰にしています(常温保存にて賞味期限約2年)。

井出:真空調理している缶詰って、もっとも長期保存にすぐれた形態なんですよね。コロナ禍の経験も踏まえると、備蓄の観点からも缶詰という形態は最適なご判断だと思いました。そして、味の観点からも缶詰はすぐれていますよね。『缶熟』なんて言葉がありますが、缶の中で味が染みておいしくなるのが缶詰のよさです。ツナ缶の工場でも、社員はわざわざ賞味期限が迫ったものを選んで買うとお聞きしたことがあります。この「ロス旅缶」は試作段階から食べさせていただいていますが、その時点でもう味がよく染み込んでいて、とてもおいしかったです。

鰤と蛤、夏野菜のギリシャ風マリネ

イノシシ肩肉のヴィネガー煮込みラズベリー風味

―― 本格的なコース料理の名称のようですが、開発は大変だったのでは。

小糸:そうですね。ホテルのシェフと連携し魅力的なレシピにしたいと考えていたので、SDGsの取り組みも強化されている株式会社東京ドームホテルさんにご協力いただきました。缶を開けて温めたら、すぐにコース料理の一品のように楽しめる、そんなこだわりをもって企画しています。見た目にもこだわり、ズッキーニやパプリカなどの野菜をカラフルに見栄えよく入れました。キャンプなど屋外で、本格的な味を楽しむこともできます。

そしてその後の商品化にも、実はかなり苦労しました。農家から出る規格外野菜は時期によって種類や量が異なるので、その規格外野菜が缶詰に向くかという問題があるんです。シェフが使いたい野菜とのバランスも難しい。でもシェフが思う味をちゃんと再現するために何度も試作を繰り返し、基本的には規格外野菜に合わせてシェフがレシピを考えてくださいました。

この実現にはシェフたちが前向きにご協力くださったことが大きかったです。シェフも日頃から、自分たちが調理したものを捨てることがよくあるそうで、農家と同じくこの状況に課題感をもっておられたようです。無事に2商品が完成し、「食品ロス問題の、解決の一助となる商品に携われた」と感謝の言葉までいただくことができました。この2品は夏野菜を使っていますが、これからは時期に合わせたレシピで、種類を増やしていきたいと話しているところです。

西口:先日、東京都では子供から大人まで多くの方に、楽しみながらエシカル消費を体感・体験していただくイベント「エシカルマルシェ」を開催しました。TOKYOエシカルのパートナー企業・団体が提供するエシカルな商品やフードが集まるイベントで、JTBさんには「ロス旅缶」を出展していただきましたよね。

エシカルマルシェ出展の様子

小糸:このマルシェでは試食を実施し、一般の方の感想を初めて直接お聞きすることができました。皆さん本当においしいと言ってくださり、「言われなかったら、缶詰だとは分からなかった」という声もありました。嬉しかったですね。規格外野菜を使っている主旨にも、多くの方が賛同してくださいました。会場でのアンケートでは購入を希望される声が多く、さらにこれまでの試験販売でも反響があったため、今後は小数で一般販売できるような体制を整えたいと準備を進めているところです。

食品ロス問題から伝える、紹介絵本も作成した。

構成から絵本の文章まで小糸が手掛けた。

業種を問わず、関心が高まっている食品ロス問題。企業間の交流へ。

―― 食品ロスという分野へ活動を広げたことで、新たな交流が芽生えていそうですが。

小糸:同じく食品ロス削減に取り組む企業・団体様と、一緒に考えるきっかけになっています。JTBが食品ロスに取り組んでいることを知ったさまざまな企業から、連携やコラボレーションのお話をいただくことも増えました。例えば、鉄道会社ですと沿線の農家とつながりがあり、そこの野菜を使えないかというご相談が。また、教育施設でSDGs教育を一緒にしてもらえないかといったお話も進んでいるところです。東京都のTOKYOエシカルも、そのような交流ができる場になっています。

西口:TOKYOエシカルでは、まさにそういったつながりや交流を創り出すことにも力を入れているんです。第一期にJTBさんを含め90社ほどが加盟してくださり、第二期の募集が終わって現在は170社を超えるくらいに増えました。先日、皆さまにお集まりいただいて交流会も開催したところです。

小糸:交流会のなかでは多くの企業と意見交換をさせていただくことができました。先ほどの連携の話も、交流会で「ロス旅缶」を紹介した後に、その場で声をかけていただいたのがきっかけです。エシカルな取り組みに積極的な企業とのつながりや、野菜の収穫に関する貴重な情報などをお持ちの方もいらっしゃって、それらを活用して取り組みを広げていける期待が高まりました。これからもこのような連携を強化し、食品の過剰在庫や大量廃棄の削減となる商品やサービスを、私たちSustainable Voyage Projectの趣旨に賛同いただいた企業や団体と生み出していきたいと考えています。

井出:私も自分の活動のなかで、「ロス旅缶」やそのプロジェクトのことを紹介させてもらっています。やっぱり、食品ロスとJTBさんという組み合わせは、一般の方たちから見ると意外なようで、興味を持たれる方が多い印象です。でも実は結構、意外な会社が食品ロスに関心をもたれているんですよね。生命保険会社、デジタル家電メーカー、製薬会社などさまざまな分野の企業から、講演依頼をいただくようになりました。食品ロスへの関心の裾野が広がっていると感じています。

もっと多くの人へ、「ロス旅缶」を。そして、食品ロス削減の意識を。

―― 最後に、今後の展望や期待をお聞きできますか。

小糸:まずは、「ロス旅缶」の生産・販売体制を強化して、広く一般のお客様にも購入いただけるようにし、たくさん食べてもらいたい。そしてさらなる食品ロス削減につなげたいと考えています。JTBでは修学旅行に関連して教育団体とのつながりもありますので、SDGs教育などの方面からも支援していきたいです。その場で、「ロス旅缶」を食べていただけたら嬉しいですね。そして、TOKYOエシカルを通じて多くの企業と連携し、さらに新しいものを生み出せたらと思っています。今後も第二弾・第三弾と新規事業を開発・展開していくなかで、井出さんには引き続きアドバイザーとしてかかわっていただけたらと考えています。

井出:JTBさんが、食品ロスという世界的な課題に取り組んでくださっていることに、大変感謝しています。一般の方たちの、食品ロスへの興味・関心の拡大に貢献されているのではないでしょうか。「旅行と食べ物」「旅行と食品ロス」の結びつきは深いと思います。ですので、ツーリズム産業として先陣を切っていただき、これからも食品ロス削減への取り組みを一歩ずつ着実に進めていただくことと期待しています。

西口:現在、あらゆる業界で環境への取り組みが求められていますが、重要なのは「取り組みを持続していくこと」だと考えています。民間企業では費用対効果などの視点がより求められると思いますが、JTBさんのなかで「ロス旅缶」が持続可能なビジネスモデルになるよう、東京都としても取り組みを多岐にわたり支援し、一緒になって進めていけたらと考えています。また、この「ロス旅缶」に関しては、「商品としてのよさ」だけでなく「作り手のストーリー」も伝えることで、消費者の共感を得ることも大切だと思います。「ロス旅缶」にかかわられた皆さんの想いや、なぜJTBが始めたのかなど、裏側のストーリーをさらに発信していってほしい。そして、小糸さんには「ロス旅缶」を成功させ、エシカルの実践者としてどんどん表に出て発信していってもらいたいです!

井出:「食」は、すべての人にとって「命の綱」です。そして「食」は、動物や植物など、さまざまな命をいただいてこそ受け取ることができるものです。食に対して感謝と敬意の気持ちを抱くことで、食品ロスは今よりも格段に少なくできるはずです。そのことに、多くの方が気づいてほしいと願っています。

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