東海道新幹線が、イベント空間に!貸切車両で移動しながら、深めるコミュニケーション。
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速くて正確、しかも快適で安全な、日本が世界に誇る「新幹線」。その車両1台を丸ごと「貸切」にできるってご存知でしたか? JR東海とJTBとが共同企画し、「貸切車両パッケージ」として今、ぐっと注目度が高まってきています。
注目される理由は貸切にできることだけでなく、車内を装飾したり、機材を載せたりすることで、独自のイベントなどにも利用できること。つまり、移動時間がコミュニケーションの機会になるわけです。そんな東海道新幹線の使い方が、より深い「交流」や「つながり」を生みだしていると聞き、どんなイベントやコミュニケーションがあったのか、サービスの開発や運用を先頭に立って進めてきたお二人に話を聞いてみました。
東海旅客鉄道株式会社(JR東海)営業本部 商品企画グループ 副長 山口 陽平
個人向け/ビジネス向けを問わず、新幹線の利用拡大を図る商品企画グループの中で、主に旅行会社の窓口を担当。全国をまわる機会が多く、おいしいものを堪能するのが好き。無類のタルタルソース好き、タルタリスト。
JTB ツーリズム事業本部 事業推進部 国内海外政策チーム 担当マネージャー(JR担当) 猪腰 亮
JRグループ6社に対するJTBの窓口を担い、会社間で協力して進める施策に関わっている。教育旅行の営業現場で約20年の経歴があり、修学旅行列車には100回以上添乗。プライベートでもよく出かける旅行では、スポーツアクティビティで体を動かしている。学生時代から社会人にかけてはラグビーの経験も。
貸し切るだけでなく、車内でイベントができるように。
―― このサービスが生まれたきっかけを教えてください。
山口:貸切車両パッケージの販売がスタートする1年以上前、コロナ禍で東海道新幹線の利用が大きく落ち込んでいた時期に、これを回復させるために何かできないかと両社で話をしていました。
猪腰:そうですね。ビジネス利用を喚起できる今までにないサービスを、両社で一緒につくれないかといった話から、この貸切車両パッケージは始まりましたよね。最初は雑談レベルでJR東海さんから「車両を貸し切りにして、イベント空間にしてはどうか」とアイデアがあがった。そこから、主にJR東海さんがサービスをカタチにしてくださり、JTBでは企業にさまざまな提案を行っている営業社員を通じてどのように販売するかを考え、私たち2人で実務を進めていったという感じでした。
最初に、このアイデアをどう思うか社内でヒアリングしてまわったところ、「新幹線の車両貸切なんて、できると思ってない」「相当ハードルが高そう」といった反応が多く、だから「やろうと思ったこともない」と言われました。本当に最初は、夢物語のような話でしたよね。
山口:JR東海としても、新幹線車内をもっといろんなことができる空間にできるのでは、という考えを持っていました。そんななか、2022年3月に30周年を迎えたのぞみ号の企画で、お客様への感謝を伝える目的で新幹線を貸し切って「あなたの“のぞみ”をかなえます」企画を実施したのです。SNSなどでアイデアを募集したところ、たいへん多くの応募をいただき、あらためてお客様の多様なニーズがあることを実感しました。この企画で実現に至ったのが「コロナ禍でできなかった修学旅行」「退職するご両親への感謝」「新婦“のぞみ”さんの結婚式」でした。これらを実施・運営する中で社内でも「もしかしたら商機があるかも」と、ポジティブな反応が広がっていきました。
とはいえ、車両を移動手段として貸し切るだけなら、修学旅行をはじめとした団体臨時列車と変わりません。お客様にとって本当に魅力あるサービスにするためには、何らかの付加価値をもたせる必要がある。たとえば、車内にモニターを置くことで、移動中に映像を楽しむことができる。あるいは、音響設備を使ったり、車内装飾を施すことで、思い思いの演出もできる。そんな自由な空間を提供することで、新幹線のビジネス利用回復につながるのではないかと考えました。
また商品化するためには、どういったオプションを用意すべきなのか、それを車内でしっかりと運用できるのか、そもそも本当にサービスとして成り立つのか。さらには、鉄道会社として安全・安心を確保することも重要です。事故などが絶対に起きないよう、万全の運用を図らなければならない。そして、このサービスは通常のダイヤの中で運行している営業列車の、一部車両を貸し切りにするものです。前後の車両には他のお客様が乗られていますので、その方々にご迷惑がかからないよう、音響設備の音量や列車選定などにも細心の注意を払っています。
猪腰:JR東海さんでかなり尽力してくださったという感じでした。JTB社内でも「貸し切るだけでは魅力が足りないのでは」といった声が現場から上がっていたので、これらのオプションがなければ、このサービスは実現できなかったでしょう。
希薄になった人のつながりを、移動しながら車内で強める。
―― 車内で研修やイベントを開くことに、どういった意義やメリットがあるのでしょうか。
猪腰:コロナ禍によって勤務スタイルが変化したことで、企業内で社員の交流が希薄になったという話を聞いています。そのためか新型コロナが落ち着いた今、企業のイベントが復活する兆しがあり、よりコミュニケーションの量や質にこだわるお客様が増えてきたと感じています。そのような方々には、移動自体を自由に演出できるプランは魅力に感じていただけるのではないでしょうか。実際、数百人単位で検討されている企業もあります。
山口:そうですね。そのようなニーズにも新幹線はぴったりです。東海道新幹線には、東京~大阪間を2時間半で結ぶ速達性や、運行本数の多さによる輸送力の高さがあります。のぞみ号なら、1時間に最大12本を走らせています。これによって、お客様の一つひとつの要望に応えることができています。
猪腰:この「貸切車両パッケージ」を販売する側としては、サービスが始まったばかりの2022年冬あたりは、コロナ禍で、まだ企業が積極的に利用できる状況ではありませんでした。しかしお客様に紹介すると、「こんなことできるの?!」という感心の声が当時から多く、手応えは感じていました。今は具体的に「こんなことや、あんなことができないか」といった問い合わせをいただくようになりました。
山口:そして、同時並行で、JTB社員の方に研修の機会も設けましたね。資料だけでは、サービスの魅力をイメージしにくいのではないかと。それなら一度乗車してもらおうという話になりましたよね。
猪腰:貸切車両パッケージを使って、パッケージ自体のプレゼンテーションをしました。社内研修としてJTBの社員140人ほどが参加した、いわば社内向け試乗会ですね。私が車掌の制服を着て、添乗もしました。(笑)
私は、この貸切車両パッケージを社内啓蒙するときに「宿も、バスも、そして新幹線も貸し切れば、数日の旅行期間中、ずっとお客様だけの空間がつくれる」「全部貸し切って、お客様たちだけの旅を楽しんでもらってください」と言っています。そのコミュニティ内だけにフォーカスして、コミュニケーションを深められる。移動中にも参加者どうしが活発に触れ合えることで、旅先における交流に、さらなる深みを生みだせると考えています。
試乗してもらってからは、全然違いましたよね。研修後のアンケートでは、ほぼ100%近くの参加者が「理解が深まった」と回答しました。
山口:JR東海としても、このアンケートから運用上で見直すべき点や、どのようなオプションが求められているかなどがわかりました。サービスをよりブラッシュアップしたり、さらに新しい企画を検討したりする材料にしています。
お客様の数だけアイデアがあり、それは私たちにとって刺激になっています。私たちの発想を超える使い方をされるお客様もいらっしゃいました。実際に、貸切車両パッケージを利用して、ある企業の社長の誕生日パーティーをサプライズで開催したこともあります。
オリジナルの装飾やイベントなら、車内も、外への発信も、大きく盛り上がる。
―― 印象深い事例はありますか。
山口:「ジャパンラグビーリーグワン」のあるチームに、ファンクラブ会員向けの、公式戦応援ツアーでご利用いただきました。ひとつの車両を貸し切りにして、車内をチームカラーで装飾。特にチームロゴが印刷されたオリジナルヘッドカバーは、ファンの皆様も大変感動され、一緒に記念撮影し、お土産に持って帰られました。また、チームOBで元日本代表の選手が同乗され、試合に向かう新幹線の中でトークショーやクイズ大会をされていました。そこでマイクやスピーカーなど、通常なら新幹線にはない音響設備が活躍したわけです。参加されたファンからは「普段なら聞けない、おもしろい話がいろいろあった」「試合観戦に向けて、気持ちを高めていくことができた」といった感想がありました。
猪腰:そう、そのチームのファンだからこそわかる「あるあるエピソード」なども出てきて、ラグビー経験者やファンにはしびれる内容だったんですよね。現地で観戦予定の試合に向けては、見どころや展開予想、選手情報に裏側のネタなども交えるからファンにはたまらない。そして、OBとファンが質疑応答でも交流したり、有名選手が重要な試合で着ていた貴重なジャージなどを景品にしたクイズ大会も開催され、本当に盛り上がっていましたね。もともと知り合いどうしというわけではなかったのに、参加したファンたちに一体感や絆といったものが芽生え、交流が深まった約2時間だったと思います。
チーム側のご担当者も、「ファンクラブに対して、新しいことを提供できた」「ファンに、より楽しんでいただけた」とおっしゃっていました。そして、このイベントをSNSで発信することにより、良いプロモーションにも繋がったと評価いただきました。
山口:たしかに「映える」イベントでしたね。なにより、ラガーマン猪腰さんの熱量をみると、どれだけファンに刺さったかよくわかります!
猪腰:似た事例には、ある地方のアイドルグループが、東京からファンと同じ車両に乗ってコンサートへ行く企画もありましたよね。車内をグループのロゴマークで装飾して、アイドル本人との3分間のトークタイムを特典としたジャンケン大会で盛り上がっていました。これもSNSでイベントの様子を発信してバズり、プロモーション効果は大きかったようです。
―― どちらも楽しそうですね。一般の企業や団体のご利用ではいかがでしょう?
猪腰:コロナ禍で控えていた職場旅行を、数年ぶりに貸切車両パッケージで実施した事例があります。他の方との接触を避け、自分たちだけの空間で楽しみたいという要望からでしたが、実際に一つの車両を貸し切って、車内空間をオプションなどで演出し、その企業様だけの独占車両空間を作りました。
久しぶりの旅行ということで気分も高まっているなか、さらに新幹線の一つの車両を自分たちだけの空間にしたことで、お客様どうしのコミュニケーションは密にしつつ、空間は密を避けることができました。
実際にお客様からも「本当に楽しかった」とお声がけいただき、満足いただけたようです。
山口:楽しんでいただけことは何よりでした。もうひとつ、思い出に残っているのは、コロナ禍にもかかわらず「貸切車両パッケージ」の最初のお客様になってくださった、JR東海と取引のある鉄道保線関連のグローバル企業様の事例です。それもお付き合いで利用してくださったのではなく、JTBさんのセールスに共感いただき、ニーズがあってお申し込みいただいた案件でした。本当です。(笑)
猪腰:世界から各拠点の要人が日本へ集まって、関西で会議をする際の移動手段にご利用いただきましたよね。東京から乗車されただけで、車内で特別なイベントなどをしたわけではありませんが、他の旅行者との接触を避けるために関係者だけで移動したいとのご要望でした。
山口:同じようなニーズで、ある医療法人(病院)の職場旅行にもご利用いただきました。人とあまり接触することなく、身内だけで楽しむことができることに興味をもたれたようです。新型コロナ前は海外へ旅行されていたそうなので、本来なら接点が生まれず、新幹線を利用する機会がないお客様であり、新規開拓にもつながったことは大きいと考えています。
新幹線サービスの、さらなるチャレンジへ。新しいアイデアを。
―― 今後、どのような展開をお考えですか。やってみたいことは。
猪腰:すでにいくつかの実績はありますが、今後は企業や商品のプロモーションでも積極的にご利用いただきたいと考えています。
山口:私たちも当初、貸切車両パッケージをプロモーションに使うことをあまり考えていませんでした。しかし、実際にフタを開けたらプロモーションで利用したいという声をたくさんいただいています。メディアやインフルエンサーを集めて新幹線の中で商品発表をし、特別な装飾を施した車内で飲食をしている様子をSNSに掲載されたりしていますが、そんな光景は何より目を引きます。話題にされることで企業や商品への興味・関心を広げられています。
猪腰:1車両を貸し切ったイベントだけでなく、たとえば1編成16号車を丸ごと1本貸し切って、車両ごとに違う商品や演出のプロモーションをしてみてもおもしろそうですよね。
(JR東海提供)
山口:MICE(※)にも力を入れていきたいです。学会の集まりなどがある際に、参加されるみなさんで一緒に移動され、その途中で飲食をしながらコミュニティのつながりを強くしていただく。ほかにもインセンティブ旅行での利用メリットもあると考えています。とくに海外のお客様だと、一度は東海道新幹線に乗ってみたいというニーズも強いと思いますので、貸し切って特別な使い方をしていただければうれしいです。門戸を広く開けているつもりですので、私たちの想像を上回るアイデアと出会いたいですね。
※ Meeting(会議・研修)、Incentive(研修旅行)、Convention(国際会議・学術会議)、ExhibitionまたはEvent(展示会、イベント)の頭文字をとった造語。多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称
―― JTBへはどのような期待をされていますか。
山口:我々がまず期待しているのは、JTBさんの圧倒的な営業力です。行政や企業とのつながりをたくさんもっておられるので、さまざまなお客様のニーズと貸切車両パッケージをうまく融合していただければと思っており、JTBさんとタッグを組んでこの取り組みをスタートさせていただきました。またJTB社員の方々にも、たとえば東海道新幹線に乗車されている最中に「新幹線でこんなことをやったらいいかも」といったアイデアが浮かびましたら、我々へドンドンぶつけてください。多少のむちゃぶりも大歓迎です。(笑)JR東海社員が一丸となって実現していければと思います。
猪腰:JR東海さんからの期待はヒシヒシと感じていますし、実際に販売することでもお応えしていくつもりです。それと同時に、きっと今後も環境やニーズの変化はあり、突拍子もない課題や要望がいろいろ出てくるでしょうから、そのときはその都度相談させてください。そうして、また別の魅力や味のある商品づくりにも、タッグを組んでチャレンジしていければと考えています。
(貸切車両パッケージのオプション「乗務員制服レンタル」を使って撮影)
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