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誰もが、いつでも自由に旅を楽しめる社会へ。JTBが取り組むユニバーサルツーリズム

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JTBは創立100周年を迎えた2012年を皮切りに、「すべての人が安心して楽しめる旅行」のかたちとしてユニバーサルツーリズムの推進をスタートしました。その取り組みを立ち上げ当初から牽引してきたのが関裕之です。何をきっかけにユニバーサルツーリズムの重要性に気づき、どのような取り組みをし、その先にどんな未来を描いているのか。関へのインタビューを通じて、JTBが考えるユニバーサルツーリズムをご紹介します。

仕入商品事業部 マーケティング部 マーケティング担当課長
全社ユニバーサルツーリズム推進担当 関 裕之

1991年にJTB入社。海外個人旅行、業務渡航の営業を経て、法人営業で障害のある方の団体や施設の旅行企画や添乗を経験。その後、日本で初めてバリアフリー旅行を専門に取り扱っていた 「JTBバリアフリープラザ」にてバリアフリー旅行の企画造成・販売および添乗に従事。2012年より本社にて全社のユニバーサルツーリズムの推進を担当し、現在は仕入商品事業部にてこの推進を牽引している。

カルチャーショックから芽生えた“旅のお手伝い”

——ユニバーサルツーリズムとは、どのような旅行なのでしょうか。

関:ユニバーサルツーリズムとは、「すべての人が安心して楽しめる旅行」のことを指します。これは「ユニバーサルデザイン」と「ツーリズム」を合わせた日本語の造語で、海外では同様の意味を持つ言葉として、「アクセシブル・ツーリズム」や「Tourism for All」といったフレーズが用いられています。

観光庁では「高齢や障害などの有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行」を指す、としていますが、JTBが目指すのはより広く、「年齢、性別、国籍、障害の有無などにかかわらず、お客様が安心してご利用いただける旅行会社」になること、つまりは「Tourism for All」です。

——関さんがユニバーサルツーリズムに携わることになったのは、何がきっかけだったのでしょうか。

関が当時滞在していた施設

関:かれこれ、30年以上前のことです。大学3年生のときに1年間休学をして、イギリスにある重度障害者施設の介護スタッフとして、住み込みでボランティアを経験しました。当初は何かしらの志があったわけでもなく、いわゆる“自分探しの旅”です(笑)。しかし、その経験が大きなきっかけになりました。

私が働いていた施設では重度の障害のある方でも毎日ベッドから起きて、車椅子に乗って生活しながら、ショッピングやパブ、観劇やサッカー観戦、時にはイギリス国外への旅行にも出掛けていらっしゃいました。重い障害があっても生き生きと外出や旅行を楽しまれている姿に、カルチャーショックを受けました。

それと同時に“旅の力”を感じたんです。行きたい場所に行き、人々との交流を楽しむことが、こんなにも人を生き生きさせるのか、と。ただ、休学を終えて帰国してみると、街中で障害のある方にほとんど出会わないことに気づきました。最初は、日本には障害のある人が少ないのだろうと思っていたのですが、調べてみると障害のある人が少ないのではなく、社会にさまざまなバリアがあって外出が難しく、出掛けたくても出掛けられないということを知りました。

これでは、障害のある人は日常の外出すらままならず、旅行なんて夢のまた夢ではないか…。
その衝撃がそのままJTBへの志望動機になりました。それならイギリスでの経験を生かし、障害のある人の“旅の夢”の実現のお手伝いをしたい、と。

何よりも大切なことは“旅の目的”を知ること

——JTBに入社後、どのようにユニバーサルツーリズムと向き合ってきたのですか。

関:私がJTBに入社した10年後、2001年にバリアフリー旅行を専門に取り扱う「JTBバリアフリープラザ」が開設され、翌2002年にバリアフリー対応のパッケージ旅行「ソレイユ」が誕生しました。私はその両方に携わりましたが、試行錯誤の連続でしたね。当時は介助の知識を持った添乗員さんも少なかったため、私自身が添乗員としてツアーに同行することも多く、お客様と世界各地を訪れていました。

バリアフリー対応のパッケージ旅行「ソレイユ」のパンフレット

さまざまなことが手探りでしたが、当時の経験が今では財産になっています。お客様の旅に同行させていただくことで、国ごとに異なるバリアフリーの実情も、障害に応じた配慮や対応も、身をもって多くのことを学びました。そして、あらためて“旅の力”を痛感したんです。「ソレイユ」はリピーターのお客様も多く、「また旅行に行きたくて、体力を付けたんだよ」というお声を頂戴したこともあります。

お客様からいただいたお言葉の数々に背中を押されたのはもちろん、急速な超少子高齢社会、グローバル化が進むなかで、JTBの取り組みは拡大していきます。「JTBバリアフリープラザ」と「ソレイユ」を終了し、2013年に全社一丸となったユニバーサルツーリズムの推進をスタート。それに伴い、私もユニバーサルツーリズムを推進するために本社へ異動になりました。

——JTBはなぜ、「JTBバリアフリープラザ」と「ソレイユ」を終了したのでしょうか。

関:繰り返しになりますが、JTBの考えるユニバーサルツーリズムとは、年齢、性別、国籍、障害の有無などにかかわらず、すべてのお客様が安心して楽しめる旅行です。しかし、バリアフリー専用商品では、どうしても日程やコースが限られてしまいます。

そこでバリアフリー専門の店舗や商品ではなく、JTBの主力である「エースJTB」や「ルックJTB」をベースに、特定の障害などに限らず、多様なお客様のニーズ合わせてアレンジやサービスを加えていくことにしました。そうすれば、全国にある各店舗でお客様のご相談を受けることができますし、日程やコースの選択肢も一気に増えます。これまでの限られた店舗と商品のみでの対応では、私たちの考えるユニバーサルツーリズムは実現できない。そんな想いからでした。

——お客様のご相談窓口や選択肢を増やすことから始めたのですね。現在はユニバーサルツーリズム推進のため、どんな取り組みをしているのですか。

関:お客様が旅行をされる際に何を障壁(バリア)と感じられるかは十人十色です。例えば、一口に障害といっても、お客様のお困りごとやご要望はお一人おひとり異なります。ですので、社員が多様なお客様のニーズに合わせて基本的な対応ができるよう、ユニバーサルツーリズムの取り組みの趣旨や主な障害の特性、基本的な対応のポイントなどをまとめた社内向けのガイドブックを作成しています。現状が変わるごとに改訂を重ね、2024年時点では第9版になりました。

また、お客様お一人おひとりのご要望を知るため、JTBでは「ハートフルシート」と名付けたヒアリングシートを導入しています。お客様の障害の状況や必要な配慮、ご要望に関することはもちろん、「ハートフルシート」の核は、お客様の“旅の目的”を知ること。実は、これが何よりも大切です。

昔、私が担当させていただいたお客様に、母娘3世代でモンサンミッシェルに行きたい、というご家族がいらっしゃいました。おばあさまは車椅子に乗られていたため、最初にそのお話を伺ったときは、坂道や階段の多いモンサンミッシェルを一緒に楽しむことは難しいと思いました。しかし、詳しくお話を伺うと、おばあさまは「私は若いころに訪れているからいいの。今回は娘と孫に見てもらって、現地で感動を共有したいだけ。それが旅の目的だから」とお話してくださいました。

結果として、おばあさまはモンサンミッシェルの入口にあるカフェで待機され、皆さまで旅を楽しまれました。きちんと旅の目的を伺えていなければ、「それは難しいです」と後ろ向きな回答をしていたかもしれません。しかし、お客様の旅の本当の目的や想いを知ることができれば、柔軟な提案をすることができます。

地域や企業との連携から“心のバリアフリー”へ

——JTBはさまざまな事業において「共創」をしていますが、ユニバーサルツーリズムでも他の組織と手を携えることがあるのですか。

関:はい。官民連携の一例として、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて企画・実施した「心のバリアフリー」シンポジウムがあります。「心のバリアフリー」とは、さまざまな心身の特性や考え方を持つすべての人々が相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことを意味し、これは私たちJTBが考えるユニバーサルツーリズムの在り方とも重なります。

そこで、全国の自治体や企業、地域の皆さまと連携して「心のバリアフリー」とは何なのか、実現するにはどのような取り組みが必要なのか、JTBが主催となって講演や事例紹介、パネルディスカッションを行いました。その際、私はシンポジウムの企画や進行などを担当させていただきましたが、「心のバリアフリー」について多くの方と一緒に考えることができる、とてもよい機会になりました。

「心のバリアフリー」シンポジウムは2016年から2020年までテーマを変えながら毎年開催しましたが、そのうち、発達障害をテーマにした回をきっかけに始まったのが「えがお共創プロジェクト」(発達障害児向けサッカー×ユニバーサルツーリズム)です。シンポジウムにご協力いただいた川崎市、ANA、富士通の皆さんと「何か具体的なアクションを起こそう!」という話になり、Jリーグの川崎フロンターレにも参画いただき、2019年にスタートした取り組みです。

ピッチ全体を見渡せる6階スカイテラスの観戦シートに子どもたちも大興奮。

発達障害は、その特性として感覚過敏の症状を伴うことがあります。そのため、スタジアムの強い光や大きな音が刺激となり、スタジアム観戦が難しいお子さまが多くいらっしゃるんですね。それならば、その障壁をできる限り解消したうえで、スタジアムで川崎フロンターレの試合を楽しんでいただこう。これが取り組みの概要です。

——発達障害のある子どもたちをサッカー観戦に招待したとのことですが、具体的にはどのような内容だったのでしょうか。

関:川崎市の後援のもと、感覚過敏などによって外出やスタジアムなどでのサッカー観戦が困難な市内の小学生のお子さまとそのご家族のため、川崎フロンターレのホームスタジアム(Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu)の個室観戦ルームに特設のセンサリールームを設置しました。ここなら強い光や大きな音が苦手なお子さまも安心して観戦できます。センサリールームの一角には、コス・インターナショナルの協力で障害があっても受容しやすい視覚・聴覚・触覚・嗅覚などの感覚刺激を与える機器やおもちゃが配置された「スヌーズレンルーム」を設けました。

また、富士通の協力により、感覚過敏をリアルに体験できるVRゴーグルのブースを設置して体感していただきました。感覚過敏は傍目にはわかりづらく、周囲の理解を得られずに苦しむご家族が多くいらっしゃいます。この活動を通して、多くの方に障害について理解をいただくことができ、本当の「心のバリアフリー」につながっていると感じています。

音や光など五感の刺激を抑え、感覚過敏の特性がある人に配慮した「センサリールーム」の様子

そして、ANAの皆さんはアテンドのプロフェッショナル。発達障害の症状により、長時間の外出に不慣れなお子さまへの声掛けやサポートも熟知されています。もちろん、私たちJTBもユニバーサルツーリズムのプロとしてお子さまたちをご案内し、川崎フロンターレの選手の皆さんやサポーターの皆さんも子どもたちをめいっぱいの笑顔で迎えてくださいました。当初は元日本代表の中村憲剛さんも積極的に協力くださり、お子さまたちも大喜びでした。
参加者からは、「これをきっかけに、それまで苦手だった外出やスポーツ観戦ができるようになった」という声もいただいています。

公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)では、社会課題や共通のテーマ(教育、ダイバーシティ、まちづくりなど)に地域の人・企業や団体・自治体・学校などと連携して取り組む「シャレン!」という活動をされていますが、私たちの取り組みが「2020Jリーグシャレン!アウォーズ」のJリーグチェアマン特別賞を受賞したんです。立派な盾までいただき、うれしい限りでした。でも、何よりの喜びは、やはりお子さまたちとご家族の笑顔を見られたこと。私たちJTBは今後もさまざまな組織と連携し、ユニバーサルツーリズムを推進していきます。

“旅は最高のリハビリ”、あらゆる人に障壁のない社会づくりを目指して

——ユニバーサルツーリズム推進の先に、どんな旅行が実現するのでしょうか。

関:私には障害があるから、私は高齢だから…。さまざまなことを理由に旅行を諦めてしまう方は少なくありません。多くの人は70歳の半ばごろに健康寿命を迎え、健康上の問題で日常生活が制限されます。そうすると、旅をすることにもためらいが生まれ、なかにはご自身が旅行に行きたくとも「介助をしてくれる家族に迷惑をかけてしまうから」と断念される方もいらっしゃいます。

しかし、私は“旅は最高のリハビリ”ではないかと思うんです。私はご高齢の方や障害のある方の旅行に数多く添乗させていただきました。初めは「大丈夫かな?」と心配されていた方も、実際に旅が始まると生き生きと楽しまれ、「また旅に出たい」とおっしゃる。そして、次なる旅をモチベーションにリハビリや体力の回復に励まれる方を多く見てきました。

——JTBとして今後どのようにユニバーサルツーリズムを推進していくのでしょうか。

関:引き続き、さまざまな企業、地域や事業パートナーの皆さまと連携して各方面から推進していくと同時に、お客様にも取り組みを知っていただき、旅をお楽しみいただければと考えています。先ほどもお話ししたように、JTBでは全店舗においてご相談を受け付けています。また、ご来店いただかなくてもパソコンやスマホなどからインターネット経由で相談できる「JTBリモートコンシェルジュ」を設け、2023年11月からは聴覚障害のあるお客様向けに、手話通訳を加えたリモート旅行相談・予約専門デスク「JTBリモートコンシェルジュ手話通訳付専門デスク」もご利用いただけるようにもなりました。

そして、旅行中のご移動、お手洗いやご入浴などをお手伝いする介護旅行のプロ「トラベルヘルパー」のご紹介もしています。

こうしたサービスをご利用いただければ、旅へのためらいが和らぐのではないでしょうか。介助が必要な方はもちろん、一緒に旅行をされる方のご負担も軽減され、心からリフレッシュできるはずです。せっかくの旅が気の使い合いに終始してしまっては、もったいないと思います。ぜひ、JTBにご相談いただけたらと思います。

——最後に今後の展望をお聞かせください。

関:今後の日本ではさらなる超少子高齢化が進み、団塊世代の方全員が75歳以上を迎える“2025年問題”も間近。高齢化は日本だけでなく、アジア全域に共通する傾向です。しかし、多くの方が旅行を断念されては、ツーリズム業界の衰退のみならず、人々の往来やにぎわいから生まれる地域の交流や発展も失われかねません。持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)を実現するためにも、ユニバーサルツーリズムの取り組みは重要になっています。

年齢、性別、国籍、障害などにかかわらず、すべての人々が安心して旅を楽しむことができたなら、平和で心豊かな社会が実現できるのではないでしょうか。しかし、そのためには私たちJTBの取り組みにとどまらず、地域の皆さんや事業パートナーの皆さんと連携した受け入れ環境の整備との両輪で進めていくことが不可欠です。

ユニバーサルツーリズムは、赤ちゃんからご高齢になるまで、お客様のさまざまなライフステージに寄り添う取り組みです。この取り組みがJTBのブランドスローガン「感動のそばに、いつも。」を体現する一助になれば幸いです。そして、近い将来、入社時に夢見ていた「誰もが、いつでも自由に旅を楽しめる」ようになり、「ユニバーサルツーリズム」という言葉が必要なくなる社会の実現に貢献していきたいと思っています。

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