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旅先で、農作業をして、生まれる人との出会い。 農業支援の先に浮かぶ、地方の元気な未来像。

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ゆたかな暮らしのために必要な「食」の安定。日本ではたびたび食料自給率がクローズアップされ、あわせて農業生産者の高齢化や後継者不足が社会問題となっています。その対策を先頭に立って進めてきたJA全農。さらに各地でいろいろな事業者や団体がさまざまな施策や技術をもって、この問題解決に取り組んでいます。

JTBも、そんな事業者のひとつ。2021年にJA全農と連携協定を結び、「JTBアグリワーケーション®」事業をスタートさせています。ワーケーション(※1)で地方を訪れる人を一時的に雇用して、人手不足を補おうという農業支援策です。そして、そこには農家だけでなく、参加者や地域にとってのメリットもあり、さらには「交流」にも発展しています。

※ 1 ワーケーション:「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語で、観光地などで休暇の前後に働くスタイルのこと。

全国農業協同組合連合会(JA全農) 耕種総合対策部
TAC・営農支援課 課長 早見 隆志

主にTAC(タック※2)の活動支援、農業支援の具体的施策の企画運営を担当。栃木県の専業農家に生まれ、農業は生活そのものだった。農業に貢献できる仕事に就きたいとJA全農に入会。休日は子どものサッカー応援を楽しんでいる。

JTBビジネスソリューション事業本部 第四事業部 担当課長 満永 浩

長く旅行営業に従事。コロナ禍で旅行業が停滞したことをきっかけにJTBアグリワーケーション®を考案。この事業を始めてから、日常の買い物では農産物の産地が気になるように。もっぱら体を動かすのが好きで、休日は野球・スイミング・サウナのローテーション。

※ 2 タック: 5年後、10年後と地域農業を担っていく「担い手農家」に出向く、JA担当者の全国統一愛称。JA・連合会が一体(チーム)となって地域農業をコーディネートするという意味を持つ「Team for Agricultural Coordination」の頭文字をとって「TAC」(タック)と呼んでいる。https://www.zennoh.or.jp/tac/tac_01.html

農業に、いろいろな人が、触れてもらいやすい仕組みを。

―― JA全農では大きくどのような方向性をお持ちでしょうか。

早見:生産者の高齢化や後継者不足への対策として、JA全農の大きな取り組みのひとつに「91農業」というものがあります。普段農業に従事されていない一般の方たちに対して、「生活の9割を本来の仕事や、家事・育児、あるいは趣味や旅行の時間などに使い、残りの1割で農業に携わってみませんか」という新しいライフスタイルを提唱するものです。これにより、広く一般の方たちが農業へ触れるハードルを下げ、農業に興味をもつ人材を一人でも多く生み出すことで、地域の活性化や地方創生へつなげたいと考えています。

「91農業」ロゴ

その具体的な施策のひとつとして、JA全農が大きな期待を寄せ、いまJTBさんと一緒に全国で進めているのが「JTBアグリワーケーション®」です。

これまで人手を必要とした生産者は、自分で雇用するか派遣会社に依頼するしか方法がありませんでした。また作業者にとっても、常時雇用となるためフレキシブルな働き方が難しく、それが農業の現場で働くハードルにもなっていました。目の前にある現実的な問題として、高齢で農業をやめてしまう方たちは年々増えている。その状況に早急な対策をとるには、やはりどうしても人手が必要でした。JTBアグリワーケーション®は、これができる有効な解決策でした。

―― JTBとして、なぜ農業に関わることになったのですか。

満永:きっかけは、新型コロナの影響で観光需要が落ち込んでいた時期に、新聞記事を読んだことです。入国制限で外国人技能実習生も来日できない状況となり、農家では人手不足の窮地に立たされている。それを、宿泊客が来ないため人手が余っていたペンションがお手伝いした、という記事でした。これを見て私も「旅館さんなどのパートナーがたくさんいるJTBにも、何か協力できることがあるのではないか」と思い立ったわけです。

そこから発展し、カタチとなったのがJTBアグリワーケーション®です。宿泊事業者に限らず、広く一般の方たちを対象にし、JTBが別途推進しているワーケーション事業と組み合わせました。旅先で仕事をしながら観光を楽しまれた方たちに、もう一泊していただき、農業をお手伝いいただく。宿泊が増えることで宿泊事業者にも恩恵が生まれるため、「旅行」を本業としているJTBとしても観光業界の支援になる。そのような発想のもとにスタートしました。

農家を助けるだけじゃない、参加者にとっての魅力も。

―― 具体的には、どのような動きや実績がありますか。

満永:2022年度より本格稼働したJTBアグリワーケーション®は、まずJAグループで農業生産者からの依頼を取りまとめ、就業先と作業内容を調整。それを受けて、JTBとしてはツアーの企画、参加者の募集、運営支援、就労確認などをおこなっています。

主な実績として、高知県と福島県の2 事例があります。高知では秋から冬にかけ、ゆずとポンカンの収穫に携わるツアーを企画し、延べ230人ほどの参加を、また福島でもブロッコリーやリンゴの収穫に、延べ135人の参加をいただきました。JTBアグリワーケーション®を立ち上げたばかりでしたので、正直、これほど多くの参加をいただけたことに、私自身も驚きましたね。参加された方たちからは「農作業の賃金を、旅行費の一部に充てられる」「賃金で現地のおいしいものを食べたり、お土産を買ったりできる」など、ポジティブな感想をいただいています。

早見:自治体とのつながりも生まれています。山形県では県庁・JTB・JA全農山形県本部が連携してJTBアグリワーケーション®を推進しており、今年度は県の補助金も利用させていただいています。お隣の福島県でも同じような動きがありますし、取り組みが始まって間もない他の地域でも、県行政の理解とバックアップが生まれつつあります。

―― 作業内容はどのようなものでしょう?初心者でもできるものですか?

作業前にレクチャーをおこなうので、経験したことのない方でも安心して参加できる。

満永:JTBアグリワーケーション®は、プロとして本格的な農業をやっていただくものではありません。ホテルの従業員や、バスの運転手、そして主婦の方など、農業をほとんど経験したことのない方たちにもできる作業をお願いしています。ケガなどのリスクも極力避けなければいけません。そのため多くは、ハサミの入れ方や実のもぎ方といった比較的簡単な指導でやっていただける、収穫作業が中心となっています。参加者としても、収穫の方がより楽しく参加していただけるのではないでしょうか。

「自分の仕事ではあまりない、いい汗がかけた」といった好意的な感想も多い。

作業日数や時間は、まちまちです。たとえばサクランボは、早朝5時から午前10時ごろまで、気温が高くならないうちに収穫するんですね。そして、夕方5時までは、収穫したサクランボの選別をします。参加者からは「普段と違うことができ、とても新鮮です」「農家さんと触れ合うことで、食の尊さを学んだ」「自分の仕事ではあまりない、いい汗がかけた」といった好意的なご感想が目立ちます。

最近では新型コロナが落ち着き、皆さん本来のお仕事がまた忙しくなっていますよね。観光事業も回復してきています。そのような状況を踏まえ、いまは「柔軟な働き方ができます、ご自身の空き時間を利用してください」といった募集をすることもあります。具体的にはたとえば「小さなお子さんがいる方なら、15時上がりで構いません」といった受け入れ方をすることで、他にそういった融通の利く仕事がなく困っている方たちからもたくさん参加いただけています。

収穫したサクランボ。食の大切さを実感する。

作業の内容はさまざまだが、時間の融通が効く働き方も。

「交流」が、「また来たい」「ここに住みたい」を生み、将来へつなぐ。

―― 農家と参加者のあいだで、何か交流も生まれていそうですね。

満永:コミュニケーションの中で、自然と「どちらからお越しですか」といった話になっていますね。旅館の従業員やバスの運転手といった観光事業者が農作業に参加されたときなどには、「あそこの旅館の人なんだね」と会話が広がります。すると、一生懸命に作業してくれたことへ感謝して、今度は農家さんが「泊まりに行くよ」といった話に発展することもあるようです。農作業を支援するだけでなく、交流が生まれて親しくなり、観光業への好影響につながった例と言えるでしょう。

また山形のサクランボ農家では、収穫に参加された方から、後日その農家のサクランボを買いたいという連絡があったそうです。 来年以降もお付き合いが続いていく期待をもてますから、それは農家にとって本当にハッピーなことではないでしょうか。

交流も、アグリワーケーションの醍醐味。

―― 参加された方どうしの交流はいかがでしょう。さらに深い交流もありますか?

満永:さまざまな方にアプローチしていますので、参加者にはサラリーマンがいたり、主婦の方がいたり、旅館のご主人がいたりと多彩です。いろいろな話が出て、輪が広がり、仲のよいグループができることも珍しくありません。高知でできたあるグループは、その後もグループ内で連絡を取りあって、また別のツアーへ一緒に参加されたようでした。

そして高知では、ツアーに参加され、移住へ発展した方もおられたんです。JTBアグリワーケーション®をきっかけに、その土地をとても気に入られたとのこと。この事業は「地方創生に寄与する」ことを夢みて始めたことでもあるので、とてもうれしかった。ほかにも移住とまではいきませんが、「またこの土地を訪れたいです」「次は、もう少し長く旅行したいね」といった声はよく聞かれます。JTBアグリワーケーション®によって、多くの方の「この土地を、より知りたい」という気持ちが高まり、願わくは将来の移住などへ発展してくれたらと思っています。

早見:JA全農が提唱する91農業でも、人手不足に悩む生産現場を支援するだけでなく、その地域に人が集まることで地方創生や農業関係人口の増加を目指しています。この移住の事例は、まさに地方創生であり、関係人口の拡大であり、この上ないことですね。私たちとしては、移住、さらには新規就農へつながるように、JTBさんと一緒にJTBアグリワーケーション®に取り組んでいければと思っています。

JA全農とJTBの強いパートナーシップで、本当の着地点へ。

―― 今後の1,2年で、どのようなことに力を入れていく予定ですか。

早見:まずはJTBさんと一緒に、このJTBアグリワーケーション®を、より広く知っていただくことに力を入れていきたいと考えています。2022年度はJTBさんと連携した農作業請負の取り組みが、全国で延べ8,000名ほどでした。今後はさらに拡大していきたいです。

満永:そしてJTBとしてはこの1,2年で、農業には企業研修の場としても利用価値があることを広く知っていただきたいと考えています。特に「健康経営」に注目されている企業であれば、朝の太陽を浴びながら体を動かし、土をいじって、いい汗をかいてみる。あるいは、農業を通じたチームビルディング、さらにはCSRやSDGsへの取り組みの一環という考え方もあるでしょう。今までのようなデスクでする研修ではなく、農業を企業の経営課題の解決に利用してみませんかと、今年度は特に力を入れて広めたい。また、ワーケーションとは少し違いますが、スポーツの合宿やキャンプなどで利用していただくことも考えています。早い時間帯に収穫を手伝い、賃金を合宿費の一部に充てる。このアグリキャンプは、すでに計画を進行しているところです。

そして企業や団体に限らず、参加者個々にとってもメリットがあることを広く具体的に訴えていきたいです。昨年度の参加者からは「食に対する感覚が変わった」とか、「ふだん感じているイライラ感がなくなった」「幸福感が上がった」といった声が寄せられています。このようなご意見を紹介しながら、JTBアグリワーケーション®をさらに魅力的なものにしていきたいなと考えています。

―― さらに先、10年後くらいの展望を聞かせてください。

早見:繰り返しになりますが、JA全農が農業支援の先に見据えているのは「地方創生・地域活性化」です。先ほど挙がった移住だけでなく、二地域居住もあるかもしれない。農村部にたくさんの人がいる状況を生みだせたらと考えています。

満永:JTBも、目指すところはJA全農さんと一緒です。地方創生が、本当の着地点だと思っています。JTBでは「交流創造事業」を事業ドメインとしており、JTBアグリワーケーション®は交流創造事業そのものと言えるでしょう。農業を通じた交流創造事業は、これが初めての試みだと思いますが、10年後には会社の目玉事業のひとつと呼ばれるくらいまで成長していればと考えています。そのころ、私はもう定年退職しているかもしれませんが、どこかで、何らかの形で農業に携わっていたいですね。

早見:そうですね。この地方創生につながるJTBアグリワーケーション®をさらに広げ、人手不足への対策を通じて多様な方々が農業に関われるようハードルを下げることで、農業関係人口増(農業に関わる母数増)を進めていきたいと思っています。

満永:JTBアグリワーケーション®事業の拡大や成功は、JA全農様との連携があってこそ。JTBだけでは実現できないことです。応募される働き手の方たちからも「JA全農とJTBが共同でやっている事業だからこそ安心して参加できる」という声をいただいています。パートナーとして一緒にこの事業を深めていきたいです!今後ともよろしくお願いします!

左から、JTB 浅沼元気、JTB 満永浩、JA全農 早見隆志、JTB 西澤淳貴(JTBの所属はいずれもビジネスソリューション事業本部 第四事業部)

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