観光の力で、ふるさとを次の世代へ ~カナダには、未来へとつながる旅がある~ (後編)
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カナダの「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」という概念に共感し、JTBがカナダ観光局とパートナーシップを締結したことで誕生したツアー 『こころで旅するCANADA~Tsunagari tabi~』。新たな価値を生み出した、二人のキーパーソンによるトークの後編です。
今回は再生型観光の現場で、その土地の人たちと旅行者との間に、どのような交流やエピソードが生まれているのか。そして、新しいカナダの旅の推進や、新しいツーリズムの創成と定着に取り組むお二人が、思い描く未来をお聞きします。
カナダ観光局 日本地区代表 半藤 将代
1999年、カナダ観光局へ入局。23年間でカナダの州および準州を、すべて訪問。自然も人もオープンなカナダを愛し、その魅力を世に広めるために東奔西走されている。カナダのサーモンも愛して止まない。
JTB 海外エスコート部 企画課 グループリーダー 永安 智美
2000年、JTBワールド入社。以来、ルックJTBの企画一筋、様々な国・方面を担当。
カナダへの渡航歴は10回を超え、多彩な魅力に満ちた同国への熱い想いにあふれる。
つながりから生まれた、地元の“とっておき”があるツアー
―― 再生型観光についてお聞きしましたが、そこでは地元の方との様々な「交流、つながり」が芽生えているようですね。
© カナダ観光局
永安:(前編で)ご紹介したツアーの、昔ながらのメープルシロップづくりを守るアンドレさんは、まさにその貴重な"つながり"から紹介いただいた方のひとりです。JTBとして以前よりカナダの魅力を積極的に発信してきたことで、カナダのたくさんの地域や人とのつながりが深まり、今回"とっておき"を紹介いただくことができました。
当社を含め、世の中にはメープル街道をテーマにしたツアー商品はいろいろあるのですが、今回のツアーはそれらとは異なる場所に訪れることができます。どこも知る人ぞ知る魅力的な場所ばかりですよ。
そしてアンドレさんをきっかけに日本国内のメープルシロップにも目を向けてみたところ、なんと埼玉県の秩父にも、持続可能な林業を目指しながらメープルシロップを生産されている方がいらっしゃったんです。実はその後、この生産者とアンドレさんとをおつなぎすることができ、今では生産者どうしの深い交流や成果も生まれています。
その一つとして2021年には、この秩父の生産者を訪れ、楓の森散策や秩父産の素材を使ったお食事を楽しむ特別ツアーを実施しました。森の歴史や植物の多様性、持続可能性などを、実際に特別な案内人から聞きながら散策します。そして砂糖小屋では、秩父のメープルシロップ生産者のお話や、事前録画したアンドレさんからのメッセージ、さらには秩父産の材料で作ったパンケーキを両生産者のメープルシロップで食べ比べるイベントなどを行いました。
ゆくゆくは、カナダでアンドレさんを訪問するツアーに参加いただいたお客様に、次は秩父のツアーにも参加いただき、カナダの思い出などを語り合っていただけたらと思っています。アンドレさんとオンラインでも交流していただけたら、きっと楽しく、日本とカナダの一層のつながりになるでしょう。
―― 森や昔ながらの製法を守る上で、気候変動の影響等はどれくらい見られるのでしょうか。
永安:メープルシロップの原料である樹液は、まだ雪深い春先に採取するのですが、降雪量や気温によって味わい深さや樹液の出る量にも変化があるそうです。特に樹から砂糖小屋までパイプを敷設するような機械化された方法ではなく、手作業で一ヵ所ずつバケツに樹液をため、人が手で運ぶ方法によって採取していると、変動をより感じると聞きました。
© Tourisme Québec
© Tourisme Québec
そのなかで、例えば秩父の生産者は、樹に穴をあけて自然に流れ出す樹液を採っているのですが、気候変動の影響か、樹が樹液を出してくれる時期が遅くなる年があるそうです。そうすると、気温が上がり過ぎてしまい、穴から雑菌が入り込むため、樹が弱ってしまうと聞きました。なぜ遅くなるのか原因は究明中なのですが、伝統的な製法を守りながら採取するうえで、やはり気候は非常に重要なポイントだと思います。
現地での交流で、旅行者がその土地のサポーターに
―― カナダのすべての州と準州を訪問されたことがあるという半藤さんですが、人々の交流を目にされたことも多いのでは。
半藤:カナダではコミュニティという考え方に対する意識が高まっていて、住民が地元愛を分かちあうといった考え方があり、すごくいいところだと思います。そしてカナダは、旅人を地域が積極的に迎え入れ、日常に巻き込んでくれる、そんな国です。私もカナダの各地域を旅して巻き込まれる体験をし、喜びをたくさん感じてきました。
例えば、プリンス・エドワード島という「赤毛のアン」で有名な島があるのですが、そこでは今、観光と食、農業や漁業をセットにした取り組みに、島のコミュニティを挙げて力を入れています。その中で、この島の特産の一つである牡蠣をテーマに活動されているアーティストに出会ったときのことです。
彼女は、牡蠣殻の内側を顕微鏡写真で撮り、それをアートとして展示されています。一つひとつ異なる模様があるだけでなく、そこに詩などを付けて発表しているのが、とても面白いと思いました。私は近くで観ているうちに彼女のパッションに巻き込まれ、いつしか自分事に。帰国後には彼女に頼まれて、日本から牡蠣の殻を送りました。
カナダではこのようなことが特別なことではなく、誰にでも起こり得ます。旅行者を巻き込んで、一緒に楽しむ風土があるんです。そうして、旅行者にとってそこが大切な場所となれば、帰国後もその土地を気に掛け、何かあれば支援の手を差し伸べるサポーターにもなり得ます。
実際、赤毛のアンの家のモデルとなったグリーンゲイブルズが火事になったとき、日本人のファンがたくさん寄付をしました。それを覚えているこの島の人々は、逆に東日本大震災の際、すぐにチャリティーイベントで手作りの物を販売し、収益を寄付してくれました。そういったつながりを生み出せるのが旅の交流だと実感させてくれます。
「赤毛のアン」で有名なプリンス・エドワード島
© Destination Canada
旅行で芽生えた"つながり"が、未来の社会や平和に貢献
―― 今後どういった方向での取り組みに力を入れていきたいとお考えですか。
半藤:これまでにもJTBさんのツアーでは、あらゆる面で "人とのつながり" という要素を加えていただいてきました。カナダ観光局としては、それをさらに推し進めていきたいと考えています。
その中でもJTBさんと立ち上げた 『こころで旅するCANADA~Tsunagari tabi(つながり旅)~』 には期待しています。今まで一緒に企画する中で新たな気づきやアイデアが芽生え、本当に奥が深いと感じています。それは、このパートナーシップが表面的なことだけでなく、本質的な取り組みをしているからでしょう。
永安:カナダは国土が広いこともあって、深呼吸したくなるような本当に美しい自然があり、美味しい食事があり、お買い物も楽しいですし、どこへ行ってもやさしい、ホスピタリティ溢れる人々に出会えるんですね。仕事ということだけではなく、個人的にも、本当にカナダが大好きです。だから先ずは、この大好きなカナダに、一人でも多くの方に興味を持って欲しい。実際にご旅行に参加されるお客様だけでなく、JTBのスタッフや関係者などにも、ファンを増やしたいと思っています。
半藤:今後カナダの「つながり旅」を、いっそう「進化と深化」させたいと考えています。それには、やはり発信する側のカナダへの愛や情熱が非常に重要なカギになるはずです。これまで一緒に取り組ませていただきながら、JTBさんからはカナダに対する大変な愛を感じてきました。永安さんのような「カナダの、こんな魅力を旅行者に伝えたい」とか、「カナダのこんな人たちと、旅行者とのつながりを生みだしたい」といった情熱を持った方がいるのは、私たち観光局にとっても大変嬉しいことです。
そして、そんな想いをJTBの中で永安さんが他の社員の方々に広めてくださっていることも感じています。他の社員の方々もお客様にカナダの話をしてくだされば、きっとカナダに対する見方はさらに変わってくる。新しいカナダの旅を打ち出していこうという中で、この愛や情熱はとても大事な力なんですね。これがなければ表面的なもので終わってしまう。そこに大変期待していますし、きっと私たちであれば、お互いが思い描く豊かな旅を創っていくことができるのではないでしょうか。
カナダ観光局としても、旅行者に心豊かで意味のある経験をしていただけるこの「つながり旅」を、もっともっと知っていただけるよう取り組んでいきたいと思います。
© Johan Lolos
―― さらに、その先に見据えていることはありますか。
永安:旅行者が、カナダで何かしらの取り組みを見て意識を変え、帰国した後に自分には何ができるかを考えて行動を起こしてくださる。そんな行動変容する人たちを「つながり旅」を通じて増やしたい。そして次に他の国や国内を旅する中でもまた様々な取り組みに意識を向けたり、周りに共有して良い輪が広がっていけば、ひいてはそれが社会貢献となり、未来につながる何かが生まれると考えています。小さな一歩ですが、この「つながり旅」のコンセプトをぶらさず、カナダをテーマに発信し続けることで未来に貢献したいと思っています。これも、旅行会社の大切な使命、だなんて言いすぎでしょうか。
半藤:仰られた通りで、より良い社会を創っていくために、観光の力を活用していきたいと思います。特に今、世界では分断が問題になっていますが、そこで観光が果たせる役割は大きいのではないでしょうか。観光というものはフィクションでなく、人がリアルに触れ合ってつながるものです。これによって、訪れた土地が旅行者にとっても大事な場所となり、互いに相手へ思いを馳せるようになったら、きっと戦争などにはならない、そう信じているからです。だから今こそ、交流が必要であり、「つながり旅」が貢献できるはず。JTBさんとカナダとで、そんなメッセージを一緒に伝えていきたいです。
『こころで旅するCANADA~Tsunagari tabi~』特集ページ
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カナダ観光局 公式サイト
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