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豊かな観光資産で地域活性化へ。富士山の魅力と地域をつなぐ観光開発プロデューサー(山梨編)

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日本各地の隠れた魅力を掘り起こし、「観光の力」で地域の課題を解決する仕事「観光開発プロデューサー™」。「会社と地域」という関係を越えた「人と人」との関係性を大切に、地域の課題解決を目指し、日本各地でさまざまな取り組みを行っています。
今回は、世界遺産・富士山をはじめとする豊かな自然と、果物王国として知られる山梨県を舞台に、持続可能な観光地づくりを目指す挑戦と、地域との新しい協働のかたちに迫ります。

甲府支店 観光開発プロデューサー 鈴木 悠太

2006年水戸支店入社。群馬支店での営業を経て、2022年から山梨の観光開発プロデューサーとして着任。おすすめのグルメは、笛吹市の「ラーほー(ラーメン×ほうとう)」だが、それに続く新たな名物メニューの開発にも余念がない。愛犬はパグのケン。

笛吹市・石和温泉ホテル千石 若旦那 鈴木 駿一

1994年笛吹市石和町生まれ。大学で地域総合戦略を主としたゼミに所属し、教員免許を取得するものの、卒業後は家業である旅館へ戻る。若旦那として日々多くの仕事をこなすかたわら、商工会青年部、消防団、JCといった地域団体にも所属。石和温泉旅館協同組合発足後、歴代最年少での副理事長を務め、地域の若手リーダーとして活躍している。

観光資源を生かした地域活性化への挑戦

――はじめに、鈴木さんが担当されている山梨県の魅力について教えてください。

鈴木:山梨県の魅力は何と言っても豊かな自然と美味しい食べ物です。特に果物が有名で、桃、ぶどう、すももは日本一の収穫量を誇ります。また、農産物も有名で、盆地特有の昼夜の温度差が大きい気候を生かしてつくられたナスや、とうもろこしが有名です。南部では“幻の大豆”と言われている「あけぼの大豆」も知る人ぞ知る特産品。それから水がとても美味しくて、原水を使用したウイスキーや日本酒などのお酒も絶品です。
食べ物以外では、富士山をはじめとする山々の景観ですね。南アルプスや八ヶ岳、身延山など、多様な山岳景観を楽しむことができます。甲府市にある昇仙峡という渓谷も人気があります。
さらに、温泉も魅力の一つ。特に笛吹市にある富士山石和温泉郷は県下最大の温泉地で、多くの観光客に親しまれています。

――日本が誇る富士山を有し、豊かな自然と食文化をもつ山梨県。そんな魅力的な山梨ですが、観光においてはどのような課題があるのでしょうか。

鈴木:山梨県は確かに素晴らしい観光資源を有していますが、いくつかの課題にも直面しています。最大の課題は観光消費額の低さです。2019年のインバウンド統計によると、山梨県はインバウンド来訪者数では全国12位ですが、1人当たりの消費額はワースト3に入ってしまいます。これには主に3つの要因があると考えています。

1つ目は二次交通の課題です。山梨県内には魅力的な観光地が点在していますが、それらを結ぶ交通手段が不足しています。そのため、観光客が県内を周遊しにくい状況にあります。

2つ目は富士北麓地域への一極集中です。県内観光の訪問地は、富士北麓地域を含む 「富士・東部」圏域への旅行者が49.1%を占め、外国人宿泊者に至っては80%以上がこの地域に集中しています。つまり、他の地域への誘客ができていない状況です。

3つ目は日帰り観光の多さです。首都圏からのアクセスが良いからこそ、日本人客および外国人客ともに日帰り観光がメインになってしまうんです。宿泊者が少なく、県内の宿泊施設の客室稼働率が低いのが現状です。
これらの課題を解決するために、現在、自治体のみなさまにご協力をいただきながら私たちJTBが推進しているの が「カイフジヤマロード構想」です。

――「カイフジヤマロード構想」とはどのような取り組みなのでしょうか。

鈴木:カイフジヤマロード構想は、インバウンドのお客様が山梨県内各地の魅力を不便なく楽しめる状況を作り出すことを目的としています。お客様が​山梨県内を周遊する大きな流れのことを「カイフジヤマロード」と名付け、​具体的には以下の3つの取り組みを柱としています。
 
1.強い点を作る
まず、各地の観光コンテンツを磨き上げ、魅力ある観光素材を作ります。これは単に既存の観光地を整備するだけでなく、地域の隠れた魅力を発掘し、新たな観光資源として育てていく取り組みも含みます。

2.点を線でつなぐ
次に、分断している観光拠点をつなぐ二次交通を充実し、周遊を促します。理想としては毎日運行する交通手段があればいいのですが、現実的には難しい面もあります。そこで私たちは、申し込みがあったときだけ運行する交通付きツアーを提供しています。これにより、観光客の皆さまが県内を不便なく周遊できるようサポートしています。

3.線を束ねて面にする
最後に、これらの線を束ねて面として捉えられるよう、主要な拠点整備を進めています。具体的には、「ツーリストベース河口湖」、「FUJIYAMAツインテラス」、そして今後開発予定の「甲府湯村温泉」の3拠点を整備し、それらを結ぶことで面的な観光エリアを創出する計画です。

※ 2023年11月にオープンした「ツーリストベース河口湖」は、カフェや着物・甲冑(かっちゅう)の着付け体験などを楽しめるのが特長。インバウンド訪日客の県内観光周遊の促進、河口湖地域周辺のオーバーツーリズム解消を目的に開設された。

新たな観光拠点の誕生。カイフジヤマロードが描く山梨の未来像

――2023年11月に「ツーリストベース河口湖」、2024年4月には「リリーベルヒュッテ」がオープンし、「カイフジヤマロード構想」は着々と形になってきているように見えます。それぞれどのような場所なのでしょうか。

鈴木:「ツーリストベース河口湖」は、富士山エリアの観光客の 拠点として機能しています。一方、「FUJIYAMAツインテラス」と「リリーベルヒュッテ」は、河口湖からもう一歩足を延ばしたいと考えている観光客にきっかけを提供し、さらなる周遊を促すための拠点と位置付けています。

「FUJIYAMAツインテラス」は富士山・河口湖・山中湖を一望できる絶景スポットとして、笛吹市が2021年にオープンした展望台です。登山家やカメラマンのあいだでは以前から有名でしたが、本当に景色を楽しむためだけの場所だったので、2024年4月に笛吹市がその麓に「リリーベルヒュッテ」という多機能施設を整備し、運営はJTBで担うことになりました。ここは単なる休憩所ではなく、情報発信や地域の特産品販売など、山梨の魅力を発信する場としても活用しています。

FUJIYAMAツインテラスからの絶景。晴れた日の早朝には富士山と雲海を間近に臨めることも。

おかげさまでいずれも好評で、「FUJIYAMAツインテラス」は富士山の絶景を楽しめる人気スポットとして定着しつつあります。晴れている日は、ほぼ100%の来訪者が「素晴らしかった」と評価してくれますし、曇りや雨の日でも、約8割の方が「再訪したい」と言ってくれます。

FUJIYAMAツインテラスの麓にオープンしたリリーベルヒュッテ。ウッドデッキとトレーラーハウスが山岳リゾートの雰囲気を盛り上げる。

――構想を形にしていくなかで苦労したことはありますか?また、どのように乗り越えましたか?

鈴木:一番大変だったのは、今までにない事業形態に挑戦したことです。従来の旅行会社の枠を越えて、実際に施設を運営し、スタッフのマネジメントや細かな運営の決定をしなければなりません。例えば、エアコンの選定や椅子の種類、メニューの決定、ビールの銘柄選びなど、今まで私自身やったことがなく、また社内にもノウハウがないような判断の繰り返しだったんです。

ただ、わからないことは地域の事業者の方々にいろいろと教えていただき、なんとか前に進めてきました。この過程で、地域の事業者の皆さんがいかに大変な仕事をされているかを改めて実感しましたね。

リリーベルヒュッテで販売されている山梨県産の桃を使用したピーチソルベ(500円)と、富士山の干菓子(700円)。

地域とともに歩む観光開発。地域との連携が生み出す相乗効果

左:甲府支店 観光開発プロデューサー 鈴木 悠太/右:笛吹市・石和温泉ホテル千石 若旦那 鈴木 駿一さん

JTBが推進する「カイフジヤマロード構想」の実現には、地域の方々の協力が不可欠です。そこでここからは、山梨県内最大の温泉地 ・富士山石和温泉にあるホテル千石の若旦那であり、同温泉組合の若手リーダーでもある鈴木駿一さんをお招きし、地域と連携した観光開発について語っていただきます。

――JTBと地域がどのように連携し、「カイフジヤマロード構想」に取り組んでいるのか教えてください。

JTB鈴木:先ほども触れたとおり、山梨は富士山、河口湖、甲府などの観光スポットやコンテンツが非常に多いんです。そういった土壌があるので、全体的に「観光で食べていく」「地域の魅力を観光につなげたい」という意識が強いと個人的に感じています。
一方で、商圏が分かれているのも感じていて。例えば、河口湖エリアと盆地周辺エリアなどは山があることで地理的な隔たりがあるため、商圏や観光客にも隔たりがあるように感じます。

ホテル千石・鈴木:昔ほどではないですが、やはりそういった部分はまだありますよね。そのため、それぞれの地域でばらばらに活動していくのではなく、地域全体として魅力を高めていくことが重要だと考えています。
「FUJIYAMAツインテラス」がある芦川エリアは、古民家や兜造りと呼ばれる伝統的な建築が残る、まさに日本の原風景とも言える景観が魅力。そういった場所があることも知っていただければと思い、石和温泉に宿泊されたお客様に「FUJIYAMAツインテラス」や「リリーベルヒュッテ」そして芦川エリアを紹介したり、逆に「FUJIYAMAツインテラス」を訪れた方に石和温泉をご紹介したりしています。

JTB鈴木:JTBとしても、石和温泉に泊まっていただく方に付加価値を提供していきたいと考えています。ただ泊まるだけじゃない、実際にその土地に住んで地域に貢献している方から直接話を聞いてほしいという思いから、(ホテル千石)鈴木さんにも、地域の魅力や取り組みなどについて講演をしていただいているんです。お客様からも、新たな学びにつながったと好評をいただいています。

――「石和温泉」は名前に「富士山」を付けて「富士山石和温泉」に改名したそうですね。その真意について教えてください。

ホテル千石・鈴木:2024年5月27日から「富士山石和温泉郷」という通称を使い始めました。これは単に富士山の名前を冠につければいいという安易な考えではありません。石和温泉の魅力と、山梨県全体の魅力を世界に発信していきたいという私たちの心意気の表れです。

また、石和温泉自体はこれまであまり外国人観光客に知られていませんでしたが、県下最大の温泉地であり、富士山エリアからも近いという利点があります。その利点を生かし、外国人観光客の誘致にも力を入れていきたいと考えています。

JTB鈴木:石和温泉が「富士山」を冠につけたことで、より多くの観光客に注目してもらえることを期待しています。また、私たちJTBとしても、「FUJIYAMAツインテラス」と石和温泉の連携を強化し、相互送客を進めていきたいと考えているところです。
例えば、石和温泉の宿泊施設にご協力いただき、期間限定で「FUJIYAMAツインテラス」を徹底的にアピールするとか。パンフレットやポスターを大々的に展示することで「富士山」のイメージを強くする……といったこともできるのではと考えています。

――石和温泉を始め、山梨県とJTBとの協力関係。その意義についてお互いにどのように感じていますか?

JTB鈴木:観光コンテンツ作りや石和温泉の魅力付けなど、もともと地域のみなさんがやろうとしていたこと、やってきたことを、JTBも一緒にやっていきましょうというイメージですよね。

ホテル千石・鈴木:そうですね。どちらが主導ではなく、お互いに目標や夢が同じ方向にあって、山梨にあるそれぞれの魅力である「点」を、共に磨き上げているイメージです。
ただそのなかで、魅力発掘という点においては、JTBさんの視点にハッとさせられることが多いです。ずっと住んでいると当たり前のことも、県外から来た方には新鮮な魅力なんだと気付かせてもらえるのでありがたいですね。

例えば、印象的だったのが笛吹市の「ならではプラン(※)」です。JTBさんの提案で、「桃やブドウができる前に果樹袋をかける」という体験をプラン化したのですが、最初はあまりピンと来なくて(笑) でも、農家さんと一緒に生産工程に関わるというのは、県外の方にとっては実は貴重な経験なのだと気づかされました。地域と関わることで思い入れが強くなり、果物もより美味しく味わうことができます。この目の付け所には驚きました。

ならではプラン:地域に眠る観光資源を、地域の方とともにJTB担当者が発掘。その時、その場所でしか見られない感動体験や、地域の方々と交流するプログラムなど、ならではの付加価値を加えたプラン。

JTB鈴木:ありがとうございます。笛吹市の「ならではプラン」は、地域の皆様のご協力もあり、他地域に比べても特に充実できていると自負しています。ただ果物狩りをしたり施設見学をしたりするだけではなく、働いている方や地域の方々の思いを加えることで、旅行に「学び」という付加価値が加わる。より満足いただける旅になるかと思います。

ホテル千石・鈴木:「カイフジヤマロード構想」を通じて、私たちが 伝えたいのは、山梨の多様な魅力です。富士山、温泉、自然、文化、そして人々の温かさ。これらすべてが調和した山梨の魅力を多くの方に体験していただきたいと思っています。そして、持続可能な形で地域の観光を発展させ、地域経済の活性化にも貢献していきたい。JTBさんには従来の旅行会社としての役割だけでなく、地域観光開発のパートナーとしてご協力いただくことで、より効果的な集客や情報発信ができると期待しています。

未来を見据えた観光戦略。地域の声を形にする使命と挑戦

――最後に、これからの展望や抱負を聞かせてください。

JTB鈴木:私たちの目標は、富士山をきっかけに旅行者を呼び込み、そこから山梨の多様な魅力を発見してもらうこと。観光プロデューサーの役割として最も重要なのは、地域の方々の声に耳を傾け、地域の方々の望む方向へ、共に進んでいくことだと思っています。例えば、カイフジヤマロードのように山梨県全域で周遊させるという構想は、地域の方々にとっての悲願でもあります。こうした地域の願いをしっかりと拾い上げ、今後も実現に向けて取り組んでいきます。

また個人的には、この仕事を通じて、経営やスタッフのマネジメントなど、新しいことにチャレンジしているという感覚があります。自分自身の成長にもつながっていますし、このプロジェクトが他の地域のモデルケースになる可能性もあることから、成功させなければならないという強い使命感もありますね。これからも地域と一体となって、山梨の観光をより魅力的なものにしていきたいです。

写真:西谷玖美
文:大西マリコ
編集:花沢亜衣

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