北海道の担当者に聞いてみた 今話題のアドベンチャーツーリズムとは?
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とにかく「暑い!」のひと言に尽きた2023年の夏。インターネット上では「避暑地」というキーワードでの検索が急増したようですが、避暑、涼しい・・・と聞いて思い浮かぶのは、そう、北海道ですよね。
そんな北海道でいま、「アドベンチャーツーリズム」という旅行スタイルが話題になっています。「Adventure(冒険)」などと聞くと、どこかわくわくして、考えるだけで楽しい気分になる方も多いのでは。そんなアドベンチャーツーリズムの魅力や、地元がよせる期待についてご紹介します。
「アクティビティ、自然、文化体験」が、旅行者の内面や人生観を変える。
大雪山国立公園にてトレッキング
アドベンチャーツーリズム(Adventure Tourism 以下AT)とは、旅行者が地域独自の自然や地域のありのままの文化を、地域の方々とともに体験する旅行のこと。AT業界最大の団体である「Adventure Travel Trade Association(以下ATTA))からは、「アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上の要素をもって構成される旅行」と定義されています。経済的にゆとりのある欧米人を中心に、「付加価値の高い旅のスタイル」として人気を集めてきました。自然をテーマとした旅行というと、「エコツーリズム」や「グリーンツーリズム」もありますが、ATにはアクティビティや異文化体験が組み込まれ、「学ぶこと」よりも「楽しむこと」を重視しているのが特徴です。
※
弟子屈町(屈斜路)でのSUP
また、ATTAではその3要素にくわえ、「今までにないユニークな体験」「自己変革」「健康であること」「挑戦」「ローインパクト」という5つの体験価値を掲げています。自然・文化・地域を体験し学ぶことで、最後は旅行者の内面や人生観が変わる。出会ったことのない自分に出会える。それがATという旅行スタイルの、一番の魅力となっています。
ATTAが提唱するATにおける5つの体験価値(JTB総合研究所提供)
北海道の自然資産を生かし、地域活性化が期待できる。
ATの人気は、市場規模の成長からもよくわかります。観光庁のデータ(※)によると、世界の市場規模は2016年で約49兆円でしたが、2023年には約147兆円に拡大するとされています。この規模の大きさに注目しているのが地域の経済で、ATの特長として、地域への高い経済効果が期待できる点は見逃せません。
※ 地域の自然体験型観光コンテンツ充実に向けたナレッジ集|国土交通省 観光庁
加えてATTAのリサーチでは、ATは旅行消費額の65%が地域に使われるといわれています。これまでの一般的な旅行スタイルでは現地までの交通費などを引くと約14%しかなく、ATを推進することは、地域経済を潤すことに繋がります。さらに雇用創出効果も、ATのほうが1.7倍大きいといわれています。
その経済効果に、日本でいちはやく着目したのが北海道です。北海道では2016年ごろから、ATの推進に取り組んできました。知床・釧路・大雪などの大自然に恵まれ、ハイキング・サイクリング・カヌーといったアクティビティも多数。アイヌの伝統文化やゆたかな食文化などもあり、ATが求める3要素を備えている北海道は、まさにATを推進するにはうってつけの場所なのです。
アイヌなどその地に息づく伝統文化も、ATを彩る要素のひとつ
さらにAT推進にあたっては、北海道全体への誘客を見込むことができる点も重要なポイント。北海道旅行というと、札幌や函館といった交通の便が良い都市部に人が集中する傾向がありますが、自然が重要なテーマであるATであれば、ガイド料金やホテル代、タクシー代といった形で各地の経済への波及効果も期待できます。
こうした流れのなかで、北海道ではATの関係者が一堂に会する世界大会「アドベンチャートラベルワールドサミット(以下、ATWS)」の誘致にも力を入れてきました。そして見事、2021年に、アジア初の開催地として選出!コロナ禍だったため、その年はバーチャル開催となりましたが、あらためて今年9月に、北海道の地でのリアル開催を実施します。
「日本の旬 北海道」キャンペーンページ
そんな、ATで盛り上がる北海道を、JTBでも「日本の旬(日本各地の魅力を掘り起こし、旅行を通じた国内観光地の活性化を目指すキャンペーン)」として取り上げてきました。北海道におけるATと「日本の旬」キャンペーンの両方を強力に推進してきた社員に、実際の取り組みについて聞いてみたいと思います。
仕入商品事業部 北海道仕入販売部 地域統括担当部長
柴田勝浩
生まれも育ちも北海道。社会人になってからも北海道の観光一筋で、いわば北海道のプロ。2012年からは「北海道発営業」の業務から、「北海道着営業」の業務へシフトし、旅行者へ提供する商品やサービスの仕入れ業務に従事している。以降、「北海道観光をどう盛り上げていくか」に心血を注ぐ。プライベートでは「ソフトアドベンチャー」とも呼ばれるアクティビティの「ウォーキング」を、広大な北海道大学の構内を中心に楽しんでいる。
北海道全体がATへ期待!業界を挙げて、情報発信や商品企画で貢献へ。
―― いま、北海道ではATが盛り上がっているようですね。
柴田:北海道庁と北海道運輸局が主体となって、9月のATWSに向けた準備を進めています。観光事業者だけでなく地元の事業者など地域全体が協力して、みんなでATWSを成功させようという機運が高まっていますね。実はATWSは2021年に開催が決まっていましたが、新型コロナの影響でバーチャルとなりました。今回、再誘致しての実開催になりますので、みんな力が入っています。
ATの中心は欧米のお客様ですから、今回ATWSを実開催することで北海道が認知され、特に欧米から多くのお客様が来てくださるようになったら嬉しいですね。そしてアジアや日本国内でもATの認知や理解が進んで、付加価値ある旅行を求めて北海道に来ていただけるのではと、業界をあげて期待値が高まっています。
―― JTBとしては、どのような動きをしていますか。
柴田:地域が協力してコンテンツ開発をしていこうという機運が高いなかで、今後はその魅力をどう発信していくかが求められています。その点で、JTBを含めた旅行エージェントの役割は、重要になっていくのではと考えています。ATはすでに欧米ではトレンドとなっていますが、日本においてはまだ確かなマーケットができていない。しかし、一般のお客様からの問い合わせは増えており、JTBグループとしては昨年から商品を出し始めました。まずはATの土壌を広げていくためにも、そして北海道におけるATを広めていくためにも、本来は競合である他の旅行会社も、今は同志だと思って取り組んでいます。
市場やお客様のニーズにお応えするのはもちろんですが、サステナビリティの推進や、地域経済への貢献、さらにはJTBが掲げている「交流創造事業」といった視点からも、AT事業に取り組む意義は大きいと考えています。
―― 柴田さん個人は、このATに関する動きをどう感じていますか。
柴田:北海道運輸局が唱える「四方(よんぽう)よし」というキーワードがあるのですが、この考え方に私は共感しています。近江商人で有名な「三方よし」は、「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方ですが、これを旅行に置き換えると「観光客、観光事業者だけでなく、地域に貢献できてこそ良い商売といえる」となります。そこに「環境や自然のサステナビリティ」を「四方よし」で、ATの展開においてサステナビリティという重要な要素を入れた点は、私の考え方と非常にマッチしています。
北海道運輸局Webサイトより
この考え方は、「北海道の国立公園 ここだけの旅」という商品の企画にも発展しました。通常の観光とはひと味違う自然・文化・歴史を体感していただくことをテーマに、少数グループを地元に精通したガイドがご案内する、ゆとりある旅をお楽しみいただけるのが特徴です。
ATならではの、そして少人数での旅の魅力に「交流」も。
―― 旅行者のみなさんは、具体的にどのような体験をされているのでしょう。
柴田:知床国立公園コースに参加された、ある年配のご夫婦が私としては特に印象的ですね。以前から知床への旅行を考えていたそうで、ようやく時間ができたとのこと。特に野生動物を観たいと期待されてお越しいただきました。自然が相手ですので正直なところ会えるかどうかは運次第なのですが、はやくも初日のナイトウォッチングツアーで野生のキツネが野ネズミを捕獲するところに遭遇。そして幸運なことに、次の日も、知床峠手前でヒグマに出会うことができました。
ご主人からは「この歳になると感激することが少ないが、ここでは自然のものと今を一緒に生きている実感がわく」「さまざまな生態が過酷な環境で生育していることを知り、『お前も、まだまだだぞ!』と言われているような気がした」「まだ私には一緒に歩いてくれる人がいますから、これからも頑張ろうと思います」「元気をもらったような、本当にいい旅でした」という言葉をいただきました。
世界遺産 知床五湖
また、先日はホエールウォッチングが欠航になってしまったため、代わりに地元の羅臼昆布のヒレ刈り(※)体験をご案内したこともありました。地元の漁師ならではの「浜言葉」でハサミの入れ方や美味しい食べ方を教えてくれ、お土産も持たせてくれました。ATは天候や気象状況によって柔軟に行程を変えないといけないケースが多々あるのですが、地元の人たちとの交流を通じて、参加者の皆様にもイレギュラーを楽しんでいただけていたら嬉しいです。
※ ヒレ刈り:昆布のまわりのヒレに似た薄い部分をハサミ等で取り除いて整形する作業。
―― 参加者や地元の方たちなどの、交流も生まれていそうですが。
網走オホーツク海 蓮葉流氷帯
柴田:はい、今お話しした欠航のケースだけではなく、ツアーのなかで交流を生む工夫もしています。たとえば、今回企画したツアーでは、あえて昼食を組み込みませんでした。ツアー参加人数を少なく設定し、大人数では対応できない、地元の方たちが利用する名物店や料理を選んでご利用いただきたいと考えたためです。多人数で押しかけ、慌ただしく食べて引き上げるのではなく、少人数で地元のお店に入り、そこの店主と交流しながら食事を楽しむ。あるいは地元の人と相席となって会話を交わす。そんななかで、北海道の本当の魅力に触れていただきたいという想いです。実際、地元の皆さんも大変好意的に受け止めてくださっていて、参加者との交流にやりがいを感じていただいています。加えて、お客様のお好みにあわせてお店をご案内していますので、地産地消や食品ロス対策(適量での食事)にも少なからず貢献できているのではないかと思っています。
地方に必要なのは活力ある経済。ATで北海道の観光を強くしたい。
―― 今後、北海道のATにはどのようなことが必要でしょうか。
北海道仕入販売部 担当課長の広瀬(左)、リーダーの神谷(右)
柴田:日本でATは、まだまだニッチなマーケットかもしれません。しかし今後は業界のニューツーリズムになると思っています。北海道としては、さらに旅のクオリティを重視して、リピーターになっていただくための努力をしていかなければならないでしょう。そして人と地域とのコミュニケーションや、驚きあるコンテンツを提供することで、旅行者に楽しんでいただくことを最優先に考える必要があると思っています。
またJTBとしては、北海道はもちろん、今後は日本全国に対象を広げてATの認知拡大に取り組んでいきます。
―― 柴田さん個人の夢も教えてください。
柴田:お話しした「四方よし」の考えが、私には本当にしっくりきています。これを念頭にATを広めていきたい。北海道には世界に誇れる魅力があり、それをさらに磨き上げることで地域を活性化するだけでなく、日本をゆたかにする柱のひとつである「観光」の発展に、微力ながら貢献できればと思っています。
個人的な夢をいうなら、観光における知識や経験を武器に、北海道の経済界にも関わってみたいですね。地元事業者の皆さんと一緒に考え、さまざまなことに取り組んで、北海道の将来に貢献できたら、こんなに嬉しいことはありません。
然別湖カナディアンカヌー
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