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特徴的な取り組み

【2025】有識者ダイアログ
「サステナブルなサプライチェーンを築くために」

2025年12月1日(月) 実施

ディスカッションの様子

有識者

代表理事 下田屋 毅 様

Sustainavision Ltd. 代表取締役
一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会

JTB

  • 玉垣 知子

    執行役員
    サステナビリティ担当(CSuO)

  • 森下 勉

    仕入商品事業部
    国内仕入戦略部
    国内仕入戦略部長

  • 狩野 純子

    仕入商品事業部
    マーケティング部
    マーケティング課長

  • 藤倉 晶子

    モデレーター:
    サステナビリティチーム

藤倉:JTBでは、事業運営の根幹であるサステナビリティ経営を一層高度化するため、相対的かつ客観的なご意見を伺うべく、社外の有識者をお迎えしてダイアログを毎年開催しております。今回はSustainavision Ltd.下田屋様をお迎えして「サステナブルなサプライチェーンを築くために」をテーマに、サプライチェーンに関する対応の強化について意見交換ができればと思いますので、皆さまどうぞよろしくお願いいたします。まず、はじめに玉垣さんから、JTBのサステナビリティの取り組みについてご紹介をお願いいたします。

玉垣 知子

玉垣:私どもJTBが目指しております、ありたい姿のストーリーは、「交流が増加するほど地域・人権・環境の課題が解決し、むしろ発展を促すようなツーリズムの在り方への変革をリードする」というものです。それを目標に掲げて、サステナビリティの推進を図っております。
戦略の全体像として最上位概念は、地球の持続可能性とJTBの企業価値向上の両立を目指していますが、その中心に「ありたい姿のストーリー」を掲げています。

この「発展を促すようなツーリズムの在り方」は、未来に向けて変化し続けることを前提としており、社会・環境の変化に応じて定期的に見直しています。また、テーマ領域ごとに、ありたい姿・目標・KPIの数値などをセットし推進していく事で、ありたい姿の実現可能性を高めていけるよう、テーマ戦略で底支えをする方針を取っています。
その中でも、商品・サービス・ソリューションという一番重要なテーマ領域に対しては、2050年には各事業の全ての商品とサービスで、サステナビリティが実装されている状態を目指しています。
今年度の取り組みとしては、まずはサステナビリティに配慮した事業パートナー様を増やすことによって、皆さまとつくる商品がサステナビリティに資するものであるという前提のもと、サステナブル取引方針を契約に実装していく(ご賛同いただく)活動をしています。また、お客様にサステナビリティをベースにした商品、サービスの選択肢をご提供するために、ホームページなどのアクセシビリティの強化にも取り組んでいます。
本日、皆さまとお話をさせていただきたい事はサステナブル取引方針についてです。取引方針はホームページで公開済みですが、特に取引額が多い仕入商品事業部では、まずは事業パートナーの皆さまに取引方針へのご理解をいただくことから始めております。観光産業の中では、このような事例がまだ少ないので、ご理解いただけるように一件一件丁寧に進めていますが、さまざまなご意見やご質問をいただいております。そのあたりの課題もお話しできればと思います。

藤倉:玉垣さん、ありがとうございました。それでは、下田屋様からも事業内容のご説明を頂戴したいと思います。

下田屋 毅 様

下田屋様:私の活動は大きく分けて、サステイナビジョンと日本サステイナブル・レストラン協会の二つがあります。サステイナビジョンは、英国ロンドンに拠点を置きグローバルな視点から日本企業のサステナビリティ/CSR戦略についての統合と社内浸透のサポートを行っています。
日本サステイナブル・レストラン協会は、フードサービス業界のビジネスがよりサステナブルに運営できるようにサポートし、サステナブルなフードシステムの構築に貢献するものです。

カフェ、大学の学食、社食、ファストフード、レストラン、居酒屋、ホテルなど、食事を提供するどんなところでも参加可能な会員制のコミュニティです。具体的な施策の一つとしては、「FOOD MADE GOOD スタンダード」という基準をグローバルで連携して推進しています。これは調達・社会・環境という3つの柱の下に10項目あり、オンライン上で答えていただくと、それぞれパーセンテージでサステナビリティの推進状況が可視化されるものです。50%以上で一つ星、60%以上で二つ星、70%以上が三つ星という形で、サステナビリティの推進状況を星で表すものとしてグローバルに使用されています。実施できていないところは目標設定をし、実施できているところは模範事例として一緒にセミナーなどで発信・拡散して、多くのレストランに参考にしていただくという形で実施しています。
現状の日本では、レストランやシェフ、ホテルも含めて、サステナビリティを切り口に消費者/生活者の方々から選ばれるわけではありません。まだそれほどのニーズがないからです。私自身もSDGsが発行される前から企業へのサステナビリティの認知拡大、理解促進を実施してきた経験があるので、JTBが今直面している課題にもお答えできる点があるかと思います。今日はよろしくお願いいたします。

藤倉:それでは、ここからはまず国内仕入戦略部長の森下さんから、実際に宿泊施設様と正対している中での状況や課題などのご共有をしていただきつつ、下田屋様と意見交換を進めてまいります。

森下 勉

森下:サステナビリティ取引方針の契約実装を推進する前に、2024年6月から、JTB協定旅館ホテル連盟(通称:JTB旅ホ連)の会員の皆さまに対して、「サステナブルツーリズム・パートナーシップ協働宣言」という宣言書にご署名をいただく取り組みを行ないました。全国の会員約3,500件を対象に約半年間で集約を行ったところ、ご署名いただけたのが2,011件(回収率57.5%)という結果でした。

集約手法に課題があり、そのためのシステム改善なども必要なのですが、一番の気づきは、会員施設様のサステナブルに関する理解や活動の取り組み度合いに大きな差があるということでした。先駆者である施設様ほど問題意識は高く、私たちが気付かなかったさまざまなご意見をいただくことができました。また「宣言書に署名することの具体的なメリットがわかりにくい」という現実的なご指摘もいただきました。会員施設様としては、その取り組みは宿泊販売増につながるのか? という点は重要な観点だからです。こういったご意見は、現在進めておりますサステナビリティ取引方針の契約実装およびご賛同依頼においても同じようにいただいております。
もちろんご同意いただけなければ契約をしないというものではありませんが、ご同意いただき一緒に進めていくことでビジネスの選択肢が増えるとお伝えしています。例として、国際MICE(学会やイベント)では、特に環境系や医療系の学会などのオーガナイザーが「サステナブルな取り組みをしているホテルを使いたい」とご指定が来るケースが増えてきているからです。

下田屋様:ヨーロッパでは、既に市民レベルでサステナビリティに対しての意識が高いですし、遅かれ早かれ日本にもその流れが来ると思います。現時点でも、国際MICEのようなイベントでは、グローバルな基準がより早く適用される可能性は高まっていると感じています。

森下:今はご理解いただける施設様も日に日に増えてきているとの認識ですが、一部地域の施設様にとっては、まだ自分事になっていないなと感じるケースもあるように思いました。ただ、本当に近い将来どこでも求められることだと思うので、私たちとしては幅広いビジネスの選択肢に対応できるように、一緒に取り組んでいきましょうというスタンスでお伝えしています。これをいかにご理解いただけるかが、業界全体を盛り上げていくための課題だと思っています。 

下田屋様:事業者のある地域全体を巻き込んでいく観点も重要ですね。日本サステイナブル・レストラン協会において、一緒に取り組んでいるレストランは、地域に愛されるレストランになっていると感じます。なぜかというと、「FOOD MADE GOOD スタンダード」の世界基準の「社会」には「地域コミュニティの支援」という項目があり、それを推進すると、地域への貢献と協働の活動からコミュニティの方々がレストランに関心を持ち、集まるように設計されているからです。ホテルや旅館も、地域コミュニティとの連携がとても重要なので、その動きをJTBが支援していくと良いかもしれません。
「環境」の項目で考えてみても、事業者と一緒にできることはたくさんあります。それを実践すれば、事業者にとってはコストダウンにもつながるのでメリットは大きいですよね。
例えば、食品ロスを減らしたり、JTBが一緒になって宿泊施設さんとその地域の課題解決につながる食材開発を協働で実施してみるのも良いかもしれません。その他にも例えば、紙パックのリサイクルは、家庭では実施されていても、飲食店やホテルでは実施されていないのが実情です。この活動は事業系一般廃棄物としての焼却のコストを抑えるとともにカーボンフットプリントの削減にもつながります。JTBがカーボンフットプリントのスコープ3を推進する際には、該当するものがあればそのやり方を事業者の方に教えて差し上げることも推進に大事なことだと思います。 サステナビリティのメリットは見えていないだけで、ちゃんと成果を可視化したり、従業員のモチベーションを高める仕組みにすると、従業員が本当に幸せにいきいきと働くことができるようにもなります。こうしたことは事業者さんにとってコストダウン以外でも大きなメリットになるはずです。
このような支援をしていくことで、エンゲージメントが高まり、事業者の方々がよりJTBと一緒に実施する価値が見出せると思います。

森下:事業者様の理解に差がある場合、取引方針やサステナブルな事業戦略に関してどういったアプローチをすれば、事業者様にご理解いただけるようになると思われますか?

下田屋様:取引方針にサステナビリティを組み込むことは非常に重要です。しかしながら、事業者の方々にはその重要性を理解した上で実施していただけるようなワンクッション手前のステップがあると良いと思います。私も農林水産省傘下でサステナブル レストラン推進ワーキングチームを結成し、「シェフズサステナビリティ・マニフェスト」という17項目の宣言文をつくって賛同者を増やしているのですが、次はファーストステップとして、具体的な取り組み事項を提示し、可視化をしていこうと思っています。賛同者を増やすには、誰でも実施できそうなことを、まずはファーストステップにすると良いかもしれません。
また、サステナビリティの先駆者の事業者の方々に「こういったものをつくっていますが、どうですか?」と個別にご意見を聞きに行くことも必要かもしれません。

森下:確かにそうですね。ステップ感をお示しすること、そして進めていく中で、先駆者の方々から適宜教えを請う姿勢を持ち続けて少しずつでも相互のギャップを埋めていきたいと思います。

玉垣:事業者様の理解の差を埋める解決方法として、ステップごとに導いていくというお話がありました。現在、取引方針に同意いただいた施設様にサステナビリティ推進への取り組みについてアンケートを取ることを計画しております。アンケート内容についても段階を踏んで変化させていくというのも一つの手段かなと思うのですが、いかがでしょうか。

下田屋様:SAQ(アンケート)の内容を理解するための事業者・サプライヤー向けのセミナーを実施した上でアンケートを取るほうが、JTBが共に進めていきたいサステナビリティの根本的な内容を理解していただいた上でアンケートに回答いただくので、本来の意図が伝わって納得感がありますし、先方も実施事項が明確になるのでより良い状況になっていくと思います。

玉垣:やはりワンクッション置いて、ご理解いただくことが重要ということですよね。いきなり高いグローバルレベルでの理解を求めるのではなく、ステップに応じてご質問していくことによってサステナビリティ推進へのご理解を深めていただけるように心掛けたいと思います。

藤倉:では続きまして、仕入商品事業部マーケティング部の狩野さんより、サステナブルな旅行ツアーを造成するに当たり、状況や課題などをご共有いただけますでしょうか。

狩野 純子

狩野:私は個人向けのお客様のご旅行をつくっている部署におります。旅行会社は、宿泊施設様からお部屋を、鉄道会社や航空会社から席を販売させていただくなど、さまざまなところと協力しながら旅行をつくっています。その上で、サステナビリティの旅行をつくるときに、大きな課題は三つあると感じています。
一つ目は「サプライヤー様のご理解」で、今森下からお話があった、ご協力いただくサプライヤー様のご理解がまだなかなか得られていないという点です。

二つ目は「魅力的でサステナブルなコンテンツづくり」です。エコツアーのようなイメージがまだお客様にはあり、サステナブルな旅行は利便性に欠け、我慢を強いられるといったネガティブなイメージが強いのです。このネガティブなイメージを払拭し、その旅行商品がいかに魅力的であり、満足できるものなのかを考えなければいけません。地域特有の文化体験や地元の食材とサステナブルをうまく組み合わせて商品を開発していくことが大切だと思っています。その中でも何故サステナブルが重要なのかという、お客様に共感や感動していただけるストーリーとセットにしないといけないのですが、なかなかできていないのが現状です。
最後に三つ目は「価格面の課題」となります。現状においては、サステナブルな旅行は全体的に旅行代金が高くなるイメージがあり、実際に高い商品になっています。サステナブルな付加価値にお支払いいただけるお客様もいるのですが、低価格帯で利便性をお求めになるお客様もいるため、旅行代金のバランスをつくるのが難しいと感じています。
これらの課題とうまく向き合いながら、持続可能な観光の未来をつくっていきたいと思っているので、アドバイスをいただけますと幸いです。

下田屋様:「サプライヤーのご理解」についてはお話ししたので、「魅力的でサステナブルなコンテンツづくり」についてお話ししたいと思います。今、日本全国の食文化の理解促進を進めているのですが、その土地でしかない食を体験するという、その地域での食とサステナビリティをテーマにしたツアーをもっと広げていくことができればと思います。
その上では、何故食とサステナビリティがつながるのかというストーリーを紡ぎ出していくことが必要です。農業ではそれぞれの地域で今、生産者の高齢化を原因とした耕作放棄地がどんどん出てきているという状況があります。食べる人だけでなくつくる人も増える状況をつくっていかないと、日本は食料難に陥るといわれています。その地域の環境・社会課題にJTBが踏み込み解決することを含めた企画を検討すること、例えば援農(農家さんの手伝い)に行くという形で、食べる人がつくる人になり、課題解決につながるようなストーリーをつくることで、「魅力的でサステナブルなコンテンツ」が生まれていくのではないでしょうか。

狩野:そのようなストーリーを作る上で、何かポイントはあるのでしょうか? 

下田屋様:ストーリーテリングという手法をサステナビリティの文脈で使用する「サステナブル・ストーリーテリング」を使用すると良いと思います。これは、自分自身(当人自身)の体験も含めた文脈で何回も試行錯誤して生み出すものです。
そうして生み出されたストーリーはとてもパワフルで、聞いた人に共感を生みだし、その人にとっての自分のストーリーに代わるものになります。各地域には、生産者や食文化、それをつないできた人たちの人生などさまざまな背景があるので、そこをストーリーとして話して共感を生むことができれば、絶対にそれは守らなくてはならないと思う人や、体験したいという人が出てくると思います。

狩野:価格面の課題として付加価値をつけていくにはどういった方法があると思われますか?

下田屋様:現時点で付加価値にお金を払っていただける人は、サステナビリティに関心がある、あとは美食家やラグジュアリーな体験をしたい人だと思います。高価格帯の層は、有機栽培でつくられたサラダなど、付加価値があるものにお金を払ってくれる人は必ずいます。
低価格層については参加型のアプローチによって付加価値をつけるのも一つの方法だと思います。例えば、その地域でしか採れない在来種は、それが無くなると地域での伝統食が継承できなくなるという問題があります。それを継承するためにどうしたらいいのかと考えることから参加してもらい、さらに援農を通して参加者自身がサステナビリティに貢献する。そうすることで、その活動自体が付加価値となり、より魅力的なコンテンツになっていくと思います。

狩野:たしかに参加型であれば、課題解決にも直接つながっていきますね。お客様自身が主体的に関わるきっかけにもなりますし。サステナブル・ストーリーテリングによって参加型のコンテンツを生み出し、そこに付加価値がついていくという流れは良い解決方法になり得ると感じました。ありがとうございます。

玉垣:今日は本当に多岐にわたるお話で、サステナビリティの領域の広さを実感いたしました。サステナビリティを経営にしっかりと実装する過程で、ステークホルダーは確実に広がっていくと感じています。私どもは交流創造事業を通して、『つなぐ、つくる、つなげる』ことを得意とし、そこから生まれる価値を持続可能な社会づくりに結び付ける企業です。
ステークホルダーの広がりは、私たちにとって大きなチャンスです。
事業パートナーの皆さまと一緒にサステナブルなサプライチェーンを築き、ツーリズムの持続的な発展につなげていきたいと強く感じました。
本日は誠にありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

本イベントは「COゼロMICE®」を利用して実施しました。