【2022】ステークホルダーダイアログ
「サステナビリティレポートからJTBの課題を専門家と読み解く」
~人をつなぐ、笑顔をつなぐ~
様々なステークホルダーと共に未来や笑顔を創り上げていく
座談会
<会場の様子>
有識者:
秋山 宏次郎
一般社団法人 こども食堂支援機構代表理事
企業版ふるさと納税の新たな活用モデル構築戦略会議学識委員
Forbes Japan オフィシャルコラムニスト
専門分野:SDGs/(ソーシャル含めた)イノベーション/マーケティング/メディア論/こども食堂/CSR/SNS/こどもの貧困/パラレルワーク/副業
馬場 裕子
コミュニカーレ株式会社 代表取締役
専門分野:コミュニティエンパワーメント/ブランディング・プロモーション事業/コトづくり企画事業/社会的価値共創事業
JTB:
(イベント実施当時の役職を掲載)
ファシリテーター
あまり氏(WoWキツネザル)
専門分野:ダブルフェイスMCという新スタイルを行い、一人で全く異なる二つのキャラを使い分けるスタイルで活躍。絶滅体験レストランやYouTubeチャンネルを通じて、環境保護を訴える活動を行っている。
~はじめに~
山北 栄二郎
山北:JTBグループの経営理念は「地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する」ことです。その実現のため、「感動のそばに、いつも。」というブランドスローガンのもと、人と人の触れ合いにより、感動が生まれ、人々が心身ともに健康になるシーンを作り、美しい地球を未来に繋げていきたいと考えています。
サステナビリティについて改めて考えてみると、オーバーツーリズム(※)などの問題も発生しており、交流が増えることが本当に心豊かな社会に繋がっているのかと考えさせられます。交流が私たちの事業がもたらす影響を「見える化」し、よりサステナブルなものへ転換していくことが必要です。経営層や社員に対しても、サステナビリティは我々の事業そのものなのだと日頃から話をしています。
※ オーバーツーリズム・・・観光客の大幅な増加によって観光地が過度に混雑し、地域住民の生活や自然環境に悪影響を及ぼす状態のこと。
髙﨑 邦子
髙﨑:社員の皆さんにも仕事をしている中でサステナビリティに関して感じていることがあると思います。未来に向けてベクトルを合わせるためにも、まずは課題感を共有いただき、有識者のお二人を含め、課題解決に向けた意見交換をお願いします。
JTBグループがサステナビリティを更に推進・向上するにあたっての課題
あまり
あまり:今回の目標は全員で同じ方向を見ていくには何が必要なのかを見極めることで、サステナビリティを推進していくための第一歩だと考えています。社員の皆さんからJTBグループがサステナビリティを更に推進・向上するにあたっての課題をあげて頂けますか。
関 裕之
関:まず一つ目は、お客様に向けた商品やソリューションを拡充していく中で、一目見て誰にでもわかりやすいような取り組みを発信していくことが必要だと考えます。
二つ目は、日本では価格差があるとサスナブルな商品が選ばれない傾向があります。お客様に共感・購入いただくためには何が必要なのか、検討していかなければなりません。
海老名 晃成
海老名:お客様がパーパス実現へ取り組まれる中でサステナビリティに関する課題解決に向けた取り組みは不可避となっております。それら課題解決に向けて、JTB社員一人ひとりがサステナビリティに関する知識や理解を深め、お客様の課題解決プロセスに寄り添う姿勢が必要です。そうした取り組みを実践できる人財の確保に繋がる、社内教育が最も重要だと感じています。
蛯名:一点目は、JTBグループ内には積極的にサステナブルな活動に取り組んでいる会社があるのですが、アウトプットできている会社はまだ少ないのが実態と感じています。例えば、ホテルや旅館に備品・消耗品を提案・提供しているJTB商事は、昨年12月にアメニティ・リサイクル協会の設立に参画し(※)、環境配慮型商品の提案や開発を行っております。このような活動は社内や社外にもあまり知られていません。
蛯名 匡実
二つ目は、JTB社内ではサステナビリティに関わる言動も確かに増えてきたという実感がありますが、まだ不足しているようにも感じています。社内から取り組みを教えて欲しい、自らの業務にどう落とし込んだらよいか、という相談を受けることがあります。社員一人ひとりがサステナビリティ視点で、自分の事業を語れるようにしていくことが必要だと感じています。
大岩:まず一つ目は、社内での情報発信や教育も行われているのですが、日々の業務に追われ、自ら情報を取りにいくことができていない状況にあります。役員をはじめマネジメント層と一般社員との間にも認識にギャップがあると感じています。
二つ目は、事業パートナーやステークホルダーの皆さんに共感していただくということよりも前に、社内も少し見直すべきだと思うのです。私達は、地域や事業パートナーの皆さんといかに旅行業を持続させていけるかが出発点です。コロナ前の2019年に戻るのではなく、改めて旅行業・ツーリズムのリスタートにしたいと思います。それには、「SDGs」と「サステナブルツーリズム」というのは同じ意味ではないということを理解するための教育も大事です。会社が発信するのはブランディングとしての「SDGs推進」でいいと思いますが、旅行商品を作っている部門では、カーボンオフセットなどにしても、それがコストとして発生してしまい、お客様がついて来ることができなというギャップがあります。
大岩 直美
また、「JTBは旅行会社」として認識されることが多いのですが、旅行以外の事業におけるポジショニングの価値を内外に発信することでサステナブルツーリズムを通じて事業を進めていくことも課題になっていると考えています。
あまり:有識者の方にも、率直な感想をお聞きかせいただきたいと思います。
秋山:方向性を定めるポジションの方と、その方向性に従って業務を推進していくという立場の社員だと、自分事感というのが変わってきます。自分がハンドリングできる範囲での手触り感がないと、なかなか定着していきません。正直な話、非役職者への浸透に一番効果があるのは「評価」です。評価の中にサステナビリティの要素が入ってくれば、パーパスは社員が意識するでしょう。その上でエシカルな活動の見える化や、何かラベルを付ける等の方法を考える必要があるのです。
一つ事例をあげると、先般、松山市とANAに協力いただき、自治体の事業として、コロナ禍の影響で旅行に行けなかった子どもたちを無料で旅行にお連れする取り組みを行いました。すると、「それはとても良い取り組みなので、何かお手伝いさせてください」と、一般の企業から原資を出しますというオファーも出てきたのです。どこの地域も、関係人口をどう作るかという課題に直面している中、JTBは色々な地域と関係があり、課題と課題を掛け合わせることで、両方とも相殺して価値に変化させられるのではないでしょうか。
秋山 宏次郎
JTBは事業ドメインとして、旅行だけではないソリューションを数多く持っています。今まで旅行という文化と一緒に変化してきた会社であり、同時に、旅行という文化を作り上げてきた会社でもあります。そして、現在、様々なアセットを持っているJTBだからこそ、令和の新しいツーリズムというものを作っていけると感じています。グループが持っているアセットをうまく掛け合わせ、シナジーを作ることが非常に有効になるのではないでしょうか。
山北:サステナブルというのは、人々の共感を得ながら地球環境を良くしていく取り組みであり、パートナーシップで様々な人を巻き込むことは大事なことですね。
馬場:一番問題になるのが、事業を通じて、どうやってサステナビリティに貢献するかです。
一人ひとりの実感値や、腹落ち感が重要ではないでしょうか。全部は無理でもやってみようというものが一つでもあれば、まずは自分事になると思います。
JTBの110余年に及ぶ歴史を通じて何をしてきたのか、地球という舞台でどういう風に多様な人たちが平和的に共存してきたのか。その最前線に立っているJTBとしての社員の誇りを一人ひとりがどれだけ共有していけるかが重要です。
馬場 裕子
ひとつのアイディアとして気軽でカジュアルに議論する機会を作るのはどうでしょう。セミナーは一方的になりがちですので、何でも話せるフラットな場がもっとあると、社員も徐々に自分事化していけるのではないでしょうか。
また、リーダーの方が部内でサステナビリティの目標を提案することや、共感を生むためのMVP表彰があるとよいかもしれません。一人ではモチベーションを維持するのが難しいので、仲間や上司のサポートがあると力になるはずです。
社員の力と事業そのものの力でサステナブルな社会に貢献
あまり:社員の方からの課題感について、今後どのように解決していけばよいと思いますか。
花坂:トップダウン、ボトムアップ、ミドルアップなど、色々な進め方があると思います。サステナビリティというテーマに限らず、私たちの会社が持っている根源的なカルチャーに関わるテーマです。
伝統的な縦型の組織の場合、人事異動などで新しいチームになると壁ができてしまうこともあります。そういう中で、社内外の人と縦横無尽に繋がれるカルチャー、あるいは、組織に閉じずに色々な組織と繋がり合うカルチャーを醸成する取り組みを始めています。まずは自由闊達なコミュニケーションができる風土を作り、コミュニケーションをしていく中でサステナブルというテーマが自然と入ってくるような仕組みづくりが大事だと考えています。
もう一つ、社内でサステナビリティを浸透させるには、サステナビリティを「事業」としっかり紐付けることが大事です。「社内の活動」と、いわゆる「ビジネスとしての事業」を分離してしまうと、忙しいからという理由で、ビジネスとしての事業を優先してしまいます。事業を通じてサステナビリティをどう実現していくのか、自由な雰囲気で真剣に語っていきたい。そういう取り組みを進めていくと、我々も一緒に入って、真剣な議論ができますし、様々な世代の社員がそれぞれの思いの中で、こういう世界を実現していきたいと熱く語れるような「場」を、作っていきたいと考えています。
花坂 隆之
京都では、観光におけるサステナビリティが大きなテーマです。京都の良さを伝えつつ、訪れる方のモラルについても考えていかなければなりません。我々がリーダーシップをとりながら、地元の自治体や観光事業者に入っていただき、京都の観光のサステナビリティを考えていくプロジェクトを進めています。そういうモデルケースができてくると、全国で同様に地域の人達と考えていく、そんな取り組みが多分できるのではないでしょうか。私たちは47都道府県に拠点があり、観光事業者だけでなく、全てのステークホルダーの皆さんと一緒に考えていくことが実現できると思います。
大岩:そのような地域ビジネスは、JTBの法人個所が長年取り組んでいます。それが、「サステナブルツーリズム」という言葉に、今置き換えられてきているという認識が社員側にないのだろうと思います。もともと当社では、地域交流事業や市場開発など、様々な言葉を使いながら、20年~30年も前から自治体や観光事業者の皆さんと地域プロモーションやまちづくりに取り組んでいます。このこと自体がサステナブルなことだと教える場が、少し足りないという気がしています。それは、観光事業者の皆さんも一緒で、現在実施している事業パートナーへのヒアリングはこのような気づきに繋げる目的もあります。
あまり:教育について、社員と事業者、あるいはお客様の皆さんが一緒に学べるような場を作るというのは、現場として効果がありそうに思えます。逆に、難しそうでしょうか。
蛯名:非常に価値があると思います。社内に対して取り組みを発信することも重要な一方で、社外に向けて発信することが、お客様を通じて社員にも伝わり、実感がわきやすいと考えます。
山北:共創でいうと、企業・地域・個人、これらを繋ぎ合わせることができるのが我々の強みです。
例えば、ビジネスソリューション事業で手掛けている「グローカル・サステナビリティ・プロジェクト」がありますが、「グローカル」という言葉のとおり、グローバル(地球規模)とローカル(地域)の両方の視点を大事にしているプロジェクトです。具体的には企業から意識が高い若手の人財を派遣していただき、サステナビリティに関するセッションやワークショップを地域で実施しています。北海道や沖縄で、座学だけではなく、人々の暮らしや自然などを実際に体験してもらっています。
あまり:そのような取り組みを始めていることは、サステナビリティレポートで見れば知ることができますが、社外にはあまり知られていないようです。今後はどのように実施結果や影響について発表されるのでしょうか。
髙崎:サステナビリティという面で、ツーリズム業界全体として向上していく観点からも、どのような形で伝えていくかは重要です。社内のオウンドメディアやWeb等の発信に留まらず、より広い形で様々な取り組みを可視化していけば、成果に対する社外の関心も高まるのではないでしょうか。現状は始めたばかりの取り組みが多いので、今後積極的に発信していく必要があります。
山北:本日は二つの可能性を感じながら、皆さんのお話を聞かせていただきました。
一つ目は、社員の力の可能性、二つ目は事業そのものでの可能性です。
これまでサステナビリティというテーマは、どうしても意識の高い、あるいは感度の高い社員のものでしたが、社員全員が取り組みを加速し、我々が持っているリソースやアセットを社内外で組み合わせ、つなげていくことで、更なる発展の可能性が膨らむと感じることができました。
そして事業を通じてサステナブルな社会に貢献できる余地が沢山あるという可能性も大いに感じることができました。
この機会を皮切りに、経営や職場での役割を踏まえながら、社員全員が自分たちのビジネス、あるいは自分自身は何ができるのだろうと考え、初めの一歩につなげていきたいと思います。そうした動きを始める契機になりました。気持ちが熱いうちに、早速実行に移したいと思います。
本日は貴重な機会をいただきありがとうございます。これからも色々とアドバイスをお願いいたします。
本イベントは「COゼロMICE®」を利用して実施しました。
COゼロMICE®とは
「COゼロMICE®」 は、MICEを実施する際に、その会場で使用される電気を再生可能エネルギーに置き換えることで、CO2を実質0にできるサービスです。再生可能エネルギーの調達、実際に使用されたエネルギーが再生可能エネルギーの環境価値としてどれほどなのかを算出し、事後検証などを含めてパッケージにした商品です。
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