高松から生まれる共創拠点「クセモノズ」
〜地域・観光・サステナビリティの交差点〜

瀬戸内の魅力を支えてきた高松市では、漁獲量の減少や魚種の変化による新たな食材の活用が課題となっています。
JTBグループは、高松市中央卸売市場内に飲食店「クセモノズ」を開業し、地域の“クセモノ”を新たな価値として発信する取り組みを開始しました。持続可能な地域づくりと観光振興の両立を目指す、高松発の新たな挑戦をご紹介します。
背景
香川県高松市では、「高松市中央卸売市場」の再開発が計画されており、観光交流拠点としての整備が進められています。
この再開発にあわせて、JTBは高松市と包括連携協定を締結し、地域課題の解決と持続可能な地域づくりに取り組んでいます。
社会課題
地域が抱えるさまざまな社会課題が複合的に絡み合い、新たな課題が生まれています。
物価高騰の影響による個人消費の抑制は、地域経済や観光産業に直接的な打撃を与えています。
一方、瀬戸内海では海水温の上昇など気候変動の影響により、漁獲量の減少や魚種の変化が進行。狙っていない魚ばかりが獲れ、逆に本来の主要魚種が獲れないという現象が起きています。この結果、漁業関係者の所得は減少し、活用されない魚が廃棄されるフードロスも拡大。地域の産業と資源の両面において持続性が損なわれつつあります。
さらに、こうした課題に対処すべき企業や地域の担い手は、高齢化や人手不足により減少傾向にあり、地域経済の根幹をなす「ひと・しごと・自然環境」の三位一体のバランスが大きく揺らいでいます。
クセモノズとは
気候変動の影響による漁獲量の減少・魚種の変化といった状況を背景に、JTBが主催する地域交創プロジェクトが「クセモノズ」です。未利用魚や市場に出回りにくい地域食材、いわゆる“クセのある”食材を積極的に活用し、フードロス削減と地域資源の価値向上を目指す取り組みとして、高松市中央卸売市場を拠点にスタートしました。
クセモノズでは、単に飲食を提供するだけでなく、見過ごされがちな食材を「地域の新たな宝物」として磨き上げ、地域課題の解決と持続可能な地域づくりにつなげることを目的としています。
また、このプロジェクトには高松市とJTBが協働して開設した「SICSサステナブルラウンジ」が連動しています。SICSサステナブルラウンジは、地域住民と観光客、企業、教育機関が交流し、地域課題や社会課題に取り組む共創の場です。クセモノズの活動もこのラウンジを通じて広がり、産官学の連携による実践的な地域づくりが推進されています。
クセモノズは、地域で活躍する多様なパートナーとともに、飲食や教育の現場を通じてフードロス削減を進めるとともに、「クセモノは地域のタカラモノ」を合言葉に、瀬戸内の魅力を守り続けるための新たな挑戦を続けています。
クセモノズの取り組み事例:レトルトカレープロジェクト
香川県高松市では、地域課題の解決と次世代の学びを結びつける具体的な取り組みとして、産官学が協力した「レトルトカレープロジェクト」が実施されました。
きっかけは、香川大学教育学部附属高松小学校5年緑組の児童が、社会科見学で「クセモノズ」を訪れたことです。瀬戸内の海を守り、地域の水産業を支えてきた人々の現状にふれ、子どもたちは漁獲量の減少やフードロス、流通されづらい未利用魚や規格外野菜の存在といった地域課題を自らの目で見て学びました。
この見学を契機に、高松市・JTB・香川大学教育学部附属高松小学校を中心とした産官学の連携がスタート。半年間にわたり、地域の水産・農業の現場を知り、フードロス削減や持続可能な地域づくりについて議論を重ね、地域の“クセのある”食材を活用したレトルトカレーの共同開発に挑戦しました。
完成したレトルトカレーは、地域の未利用魚や流通されづらい野菜を有効活用した、子どもたちと地域が一体となって生み出した新たな特産品です。現在、高松空港や高松三越、瀬戸内国際芸術祭公式ショップを含む県内12カ所で販売され、発売からわずか1か月で3,000食以上を売り上げるなど、地域内外から注目を集めています。
「ともに子どもたちを育て、ともに地域課題を解決する」。その理念を土台に、教育と地域づくりを一体化させ、持続可能な未来につながる新しい学校教育と地域づくりのモデルを、高松市から発信しています。
クセモノズの成果
クセモノズは、観光業・サステナビリティ・地域づくりという3つの視点を軸に、着実に取り組みの広がりを見せており、以下のような成果が表れています。
観光業
・クセモノズで年間63回のイベントを開催し、延べ約6,000名が参加
・SDGs関連番組や地域メディア等で年間49件の露出を達成
・メディア掲載による広告効果
サステナビリティ
・クセモノズにおける県産食材の年間活用量:670kg(未利用魚・規格外野菜等含む)
・レトルトカレープロジェクトにおける県産食材の活用量:356kg(未利用魚・規格外野菜等含む)
・地域食材の持続的な活用による地域経済への貢献
地域づくり
・香川県が主催する「かがわフードロス大賞」で優秀賞・特別賞をダブル受賞
・産官学が連携した学校授業を年間6回実施
・香川県教職員研究論文(令和6年度)で最優秀賞を受賞

地域の“クセモノ”を、次世代の宝物に変えたい
私は香川県高松市で観光開発に携わっており、これまで地域の魅力発信やエリア整備に取り組んできました。そんな中、地域の方々と話をする中で、観光開発の前に地域の根っこに眠る課題を解決しないといけないことに気づきました。
こうした現実を前に、課題を課題のままにせず、むしろ“クセモノ”こそ地域の宝物に変えていきたい。その思いから、地域の方々や行政、教育機関とともにクセモノズの立ち上げに至りました。
特に次世代を担う子どもたちには、社会課題に実際に触れ、自分たちの地域をより良くするために行動できる力を育んでほしいという強い思いがあります。その思いが学校の先生方と重なって協力を得られるようになり、さらに地元企業にもご理解いただけて、産官学が連携したレトルトカレープロジェクトを実現できたことは今後につながる大きな一歩と考えています。
これらの取り組みを通じて、地域の人、海、自然、そして子どもたちが誰一人取り残されない未来をつくることが私たちの目標です。クセモノズをきっかけに、少しでも多くの方が地域課題を「自分ごと」として考え、行動するきっかけになれば嬉しく思います。
JTB 高松支店 山田 裕木
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