観光資源"鍋ヶ滝"における持続可能性への取り組み
以前より交通渋滞に課題を抱えてきた熊本県、小国町。
JTBグループが提供するソリューション「チケットHUB®」を導入し、観光地における来場者の受け入れ体制を整備し、観光需要の復活に向けて取り組む事例をご紹介します。
社会課題
熊本県、小国町鍋ヶ滝公園は、落差約10m、幅約20mの滝を有し、滝川のほとりで滝を間近に見ることができる人気の観光地です。週末、一日3,000人以上が訪れるといわれています。
公園周辺は道幅が狭小で車がすれちがうことが困難なため、コロナ禍以前は大型連休時期には駐車場が混雑し、近隣集落において交通渋滞が発生。近くの小学校跡地を臨時駐車場とし、シャトルバスを臨時運行するなどの渋滞緩和対策に取り組んできました。
コロナ禍では、公園内での密集を避けるため、シャトルバスの運行を中止したり、繁忙期は休園したりするなどの規制を余儀なくされました。
観光需要の復活が見込まれるコロナ禍後は、公園への受け入れ環境を整備し、より多くの来場者に足を運んでもらえるよう、JTBから解決策を提案しました。
解決策
①予約システム「チケットHUB®」導入
JTBグループが提供するソリューション「チケットHUB®」を導入。2021年10月27日よりシステムオープン、同11月4日より予約制入園を開始しました。
②小国コールセンターの設置
システムおよび鍋ヶ滝公園の入園情報に関するお客様問い合わせ窓口として小国コールセンターを開設しました。
③実証実験
2021年11月4日より実証実験開始。
鍋ヶ滝到達前に位置する「蓬萊小学校グラウンド」を臨時の予約検問として設置し、下記に対応しました。
園内平均滞在時間の調査/予約枠数の設定・検証/予約者以外の対応/看板案内/券売所対応・設備
④予約データ分析
予約者に対する追加設問を設定しました。
来園時の1グループあたり車両台数
1台当たりの乗車人数を測定:今後の枠数検討に利用
性別/年代
今後の観光施策策定時のターゲットデータとして利用
在住県
小国への来訪者の在住エリアデータを取得:今後のプロモーション等に利用
⑤広報展開
下記媒体にて、チケット予約販売について告知しました。
ポスター・チラシ/ WEBページ/ WEB広告/新聞広告/交通広告
導入効果
①予約システム「チケットHUB®」導入 ②小国コールセンターの設置
JTBグループが提供するソリューション「チケットHUB®」の導入を決め、全体を通して、スムーズな導入・実証実験を行うことができました。2022年度は、最繁忙期のゴールデンウィーク・お盆休みに実証を行い、開園以来初の渋滞未発生を実現しました。
その際には、「いかに事前告知を行うか」という手法の再検討、「いかに事前のイレギュラー想定をしいておくか」という現地体制の整備が大きなポイントになりました。単なる「DX活用による予約制の導入」に留まらず、併行して「鍋ヶ滝自体」を活用した、各種事業開発を行うことにより、更なる小国町全体の観光振興につなげています。
③実証実験
システム利用を開始し、混乱が予想された2021年11月4日~ 11月7日に最大要員を配置、鍋ヶ滝へ向かう途中にある蓬萊小学校グラウンドを臨時の予約検問所として設置したことで、平均予約率約60%という結果につなげることができました。また、予約制にしたことで、11月の繁忙期の自然渋滞も回避することができました。一方で、WEB予約機能が利用不能というユーザーが一定数いるということがわかりましたが、他地点での販売窓口設置といった方法の有効性を実証しました。
④予約データ分析
来場者年代は、20代、次いで30代、50代の順に多く、今後、20代~ 40代のアクティブ層へのプロモーション強化が必要だとわかりました。
在住県は、福岡、次いで熊本が多いものの、関東・関西からの来訪も一定数存在するため、プロモーションとしては、九州域内では福岡都市圏・熊本都市圏、域外では関東圏を中心に実施することが効果的だと考えられます。
予約完了~来園実施までのスパンとしては、当日予約が圧倒的に多く、次いで前日、2日前、3日前と続き、1か月より前に予約している割合はほぼ0に近いことがわかりました。この点から、制度告知の継続実施において「現地のリアル広報」「WEB広報」両軸での告知アプローチ体制の担保が必要であると考えられます。
来園時間帯別分布は、平均的ではあるものの、午前は10時20分枠から増え始め11時枠、午後は13時枠から増え始め14時20分が予約来園のピークというデータが出ました。一般的な昼食前、昼食後の時間帯に来園が集中していることから、前泊チェックアウト後及び、当日朝出発の午後に来園、ないしは前泊チェックアウトののち観光と昼食の後で鍋ケ滝まで足を延ばしている観光客層が多いことがわかりました。
⑤広報展開
ポスター約100枚、チラシ約10,000枚を制作し、小国町内における「リアル告知」として活用しました。
現地観光協会をはじめ、宿泊施設や飲食施設に設置し、制度の周知を図りました。
交通広告(JR博多駅)
WEB広告では、デバイス別の流入割合として「スマホ・タブレット」がPCの約4倍の実績を上げました。この点から今後の広報活動において、モバイルデバイス上のユーザーインターフェースを意識した広報・プロモーションが必要であることがわかりました。交通広告では、博多駅、福岡市営地下鉄、熊本駅にて駅構内のデジタルサイネージ広告を実施。今後も、旅行者の旅行導線を考慮した広報活動を続けていく必要があると感じました。
社会的インパクト
属性 | 内容 | 取り組み前 | 取り組み後 | ||
---|---|---|---|---|---|
定量 | 定性 | 定量 | 定性 | ||
サステナビリティに関するプラスインパクト | 鍋ヶ滝公園 渋滞時間 | 繁忙期 最大3時間 | - | 常時0秒 | - |
三密具合 (コロナ禍) | - | 密閉:無し 密集:危機的 密接:危機的 | - | 密閉:無し 密集:無し 密接:無し | |
環境負荷削減等のマイナスインパクト | チケット紙資源削減 CO2削減 ※概数 | 230,000枚 46,000g | - | 160,000枚 32,000g ※完全オンラインに移行すれば「0」になる予定 | - |
JTBグループとして | チケットHUB 有効性 | - | 実用拡大中 | - | 世界的な知名度獲得 |
受賞歴
①グリーン・デスティネーションズ(Green Destinations)*1
『世界のサステナブル観光地トップ100選 2022年』選出
*1…グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)が開発した持続可能な観光の国際指標の国際認証団体
②グリーン・デスティネーションズ主催
『グリーン・デスティネーション・アワード2023』
「Governance, Reset & Recovery
(観光地のガバナンス体制の構築、観光地の再生)」部門で世界3位を受賞
③JATA主催
『第1回SDGsアワード』奨励賞獲得
担当者メッセージ
JTBならではの、サステナブルな社会発展貢献
JTB熊本支店 営業課 中村 亮介
オーバーツーリズム(観光公害)は観光地経営のサステナビリティ(持続可能性)を脅かす要因の一つとなり得ます。
課題解決に向けたアプローチとして、今回はグッドフェローズJTB社が提供するDXツール「チケットHUB®」が有効に働きました。同時に、DXツールの特性を活かし、「環境負荷軽減」も実現でき、世界的な評価を得ることができました。
実証・システムを通して得たデータを利活用し、これからもサステナブルな観光地経営・社会の発展に貢献してまいります。
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