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進化し領域を拡大する日本人の国内旅行(2019)

●旅行・観光のあり方はデジタル化や社会構造の変化、世代交代で徐々に変化し、意味・領域を拡大

・地域と旅行者との関係は「地域の観光地に旅行者を囲い込む」⇒「地域の生活エリアでの交流」

・「暮らすように過ごす」、「地域の産業に関わる」、「ボランティアやファンディングで支援」と関係人口の拡大

●「最近の国内旅行について感じること」は年代によって違いが浮き彫りに

・訪日外国人の増加には若い世代ほど前向き。「経済面で地域活性化する」「文化交流が促進される」

・「泊まってみたい個性的な宿泊施設が増えた」は若い世代、「観光列車が増えた」は上世代の支持が高い

●日本人の旅行意欲を引き上げる"ブリージャー"や"ワーケーション"の浸透で、旅先での仕事も柔軟に

・"ブリージャー"や"ワーケーション"(*)で、休暇を取りやすくなると考える割合は業務旅行経験者の約3割

若い世代は、「休暇旅行中の仕事が業務として認められれば、より休暇が取りやすくなる」と考える

●業務旅行に付随した観光旅行をしている延べ人数は、14,725千人(延べ業務旅行者の約31.8%)、消費額は4,856億円と推計。業務に付随した延べ観光旅行者数が5割になれば、消費額は+2,769億円の見込み 

 

(株)JTB総合研究所(東京都港区 代表取締役社長執行役員 野澤 肇)は、「進化し領域を拡大する日本人の国内旅行(2019)」の調査研究をまとめました。当社は生活者の消費行動と旅行に関する調査分析を多様な視点で継続的に行っています。

 観光を取り巻く環境はここ数年で大きく変わりました。観光の経済波及効果が期待され、地域活性化を目的に、訪日外国人旅行者の拡大に向けた規制緩和や受け入れの体制の基盤整備が進みました。新しい多様な移動手段(LCC、観光列車など)や宿泊施設(グランピング、ゲストハウス、民泊など)も全国に広がり、訪日外国人旅行者が増えるとともに、日本人にとっても、国内旅行への意欲が高まるきっかけになっているようです。一方、期を同じくして急速に進むIoTやビッグデータ、AIによる技術革新は個々人にきめ細やかに対応できる商品やサービスを生みだし、人々の行動を変えています。その結果、価値観やライフスタイルは多様化し、旅行のあり方や志向も従来の画一的な余暇、レジャーから変容しつつあります。

 本調査研究では、こういった社会や人々の意識の変化を踏まえ、「ワーケーション」や「ブリージャー」といった新しい概念も登場した国内旅行の現状を改めて捉え、過去の調査研究や公的データ、アンケート調査を交えながら、人口減少が進む中での、日本人の国内旅行の活性化へのヒントを探っていきます。

(*)ワーケーション:休暇を目的とした旅行に業務を組み合わせる旅行

   ブリージャー:業務を目的とした旅行に休暇を組み合わせる旅行

【調査概要】

調査方法:インターネットアンケート調査

対象者:過去1年間(2018年9月以降2019年9月まで)に1泊以上の国内旅行(業務旅行も含む)をした、全国に居住する20~69歳の男女 30,000人(スクリーニング)、2,062人(本調査)

調査時期:2019年9月10日~9月13日

*直近の旅行実態については、以下の「旅行についての調査(JTB)」のデータを使用

対象者:過去1年間(2018年1月以降2018年12月まで)に1泊以上の国内旅行(業務旅行を除く)をした、全国に居住する20~69歳の男女 7,385人

調査時期: 2018年12月18日(火)~2018年12月22日(土) 

【2018年の日本人の国内旅行市場と旅行スタイルの変化についての概要

1.日本人の国内延べ旅行者数は56,178千人。人口減少や消費増税の中でも微増で、旅行意欲は高い

 日本人の人口は2010年をピークに18年までに200万人以上減少し、日本人の国内旅行市場は確実に減少しています。観光庁の「旅行・観光消費動向調査」による日本人国内延べ旅行者数および消費額の推移を見ると、消費税率が5%から8%と上がった14年、災害が多かった18年では、延べ旅行者数、消費額とも減少しましたが、大きな流れでは、延べ旅行者数、消費額ともに微増で、人口減少が進む中でも旅行への意欲は衰えていないことがうかがえます。延べ宿泊者数は17年から減少していますが、消費額はほぼ横ばいで単価が上昇しており、訪日外国人旅行者数の増加と宿泊施設の稼働率上昇の影響も少なからず受けていると考えられます(図1~図3)。

(図1)日本人人口と国内延べ旅行者数の推移 (図2) 日本人国内旅行消費額の推移

(図3)訪日外国人旅行者数と客室稼働率の推移

2.旅行・観光のあり方はデジタル化や社会構造の変化、世代交代で徐々に、しかし大きく変化

  観光エリアに「旅行者を囲い込む」から、旅行者が「地域の生活エリアで地域の人々と交流する」時代へ

 これまでの研究から、私たちは旅行・観光のあり方は図4、図5のように進化しつつあると考えています。高度成長期には、新幹線や高速道路、ジャンボジェットなどの交通インフラが整備され、生活が豊かになるとともに、レジャー志向が高まりました。また核家族が増えたこともあり、旅行の形態は団体から個人へと変化しましたが、情報の取得手段は限られ、行動は同質的でした。現在は、誰もがスマートフォンを所有し、SNSを通じて各人のネットワークが構築され、情報の取得だけではなく「発信」により「個人」の力が強くなっています。地域と旅行者との「関係性」は変化し、ネットワークの中で循環する「個人」発信の情報も地域のブランドイメージの形成に重要な位置を占めるようになってきました。名所・旧跡を巡る従来型の観光スタイルはなくなりませんが、観光地や観光事業者から一方的に発信された情報をもとに同じように行動するのではなく、個人の価値観や志向がより強く反映される旅行のあり方へと広がりをみせています。

 当社の過去の調査で「旅行先での交流についての考え方」を年代別に聞いたところ、「地域の活動に参加するなど積極的に交流を持ちたい」、「地域の産業についてより深く知りたい」と考えているのは20代男性に多く、一方「地域の歴史や文化についてより深く知りたい」は60代男女が最も多い結果でした(参考1)。若い世代ほど旅先で生活エリアでの地元の人との交流を望み、上の世代は知的好奇心を埋めるような観光の場を求める傾向にあるようです。これは訪日外国人に対する調査でも同様の結果となり、グローバルな傾向と考えられます。

(図4)変わる観光の志向と"ツーリズム"領域の拡大

     

(図5)情報の流れと地域と旅行者のつながり・関係性の変化

(参考1) 交流についての考え方         (複数回答) JTB総合研究所

国内旅行の実態と今後の意向

3.旅行先は居住地から「遠方」が回復傾向に。日数は1泊2日が減少し、2泊3日、3泊4日が増加傾向に

  旅行の予約時期は年々早期化。2か月前以上の予約が増加し約半数を占める。希望日程で確実に予約したい

  計画段階で参考にする情報源は「家族・友人・知人」が最多。「SNS」も増加。「宿泊施設のサイト」が18年は2位に   

 ここ数年、日本人はどのような国内旅行をしているのでしょうか。JTBの「旅行についての調査」から調査対象者の直近の旅行について経年で見てみます。居住地から旅行先への距離に関しては、「遠方(居住地域と接していない地方)」が回復傾向にあり、18年は割合を33.4%に伸ばし、近場(居住地域と同じ地方)より高い結果となりました。旅行日数も2泊3日、3泊4日が増加傾向で、地域別には、18年は北海道、九州、沖縄のシェアが前年より高くなっています(図6~図8)。

 旅行の予約時期は年々早期化しています。2か月前以上の予約は18年には合算で49.9%と約半数まで増え、特に「3~6か月前」は、16年の17.7%から18年の22.5%へと大きく伸びました。最も多い理由は「希望の日程で確実に予約したい」で、3年連続で上昇しています。訪日外国人旅行者が急伸したことによる、決まった日にちの中で、行きたい場所に確実に予約したいという意識の表れもあると考えられます(図9)。

 旅行を計画する段階で参考にした情報源については、「家族・友人・知人」、「宿泊施設の観光サイト」が上位となり、年々増加し続けています。「ガイドブック」や「パンフレット」という紙媒体は緩慢ですが減少傾向です。SNSは全体としては少ないものの、年々増加しています。年代別に情報源の内訳をみると、20代は「家族・友人・知人から意見を聞いた」や「SNSで観光地や旅行会社の評判を調べた」、「旅行会社の店頭でスタッフにアドバイスや情報を聞いた」など、他の年代に比べて人の意見やクチコミを重視する傾向が明らかになりました(図10~図11)。

(図6)国内旅行の行先(居住地からの距離別)(単一回答)(図7)国内旅行の日数(単一回答)

(図8)国内旅行の行先(地域別)(単一回答) (図9)国内旅行の予約申し込み時期(単一回答)

(図10) 国内旅行を計画する段階で参考にした情報源        (複数回答) 

(図11) 旅行の計画段階で参考にした情報源(2018年・年代別) *上位のみ抜粋 (複数回答)

4.「最近の国内旅行について感じること」は年代によって違いが浮き彫りになる。次世代をけん引する20代に注目

  訪日外国人旅行者の増加による影響は、若い世代ほど前向きに受け止める

  若い世代ほど「ある目的に特化した旅行をするようになった」、「SNSでの発信を目的に旅行するようになった」と考える

 「最近の国内旅行について感じること」について聞いてみたところ、見えてきたのは、20代を中心とするミレニアル世代・ゼネレーションZ(ポストミレニアル世代)(*特徴は参考2を参照)と、上の世代との考え方のギャップでした。インターネットやスマートフォン、SNSが子供の頃から身近にあった彼らは、各人の情報ネットワークや人との繋がりを持ち、今後の行動や消費に影響を与える世代として世界的に注目されています。

 訪日外国人旅行者が急増したことへの考え方:「混雑する観光地に行かなくなった(28.2%)」、「自然環境が悪化するので増えて欲しくない(23.4%)」が全体で上位となりましたが、こういったネガティブな意識は年齢が高いほど上がる傾向が見られました。一方、「日本の良さを再認識した」、「経済面で地域活性化するので増えて欲しい」というポジティブな考えは若くなるほど高い傾向となり、参考でみられるようなミレニアル世代、ゼネレーションZの特徴を表していると言えるでしょう。

 旅行資源の多様化:「泊まってみたい個性的な宿泊施設が増えた(26.9%)」、「乗ってみたい観光列車が増えた(21.7%)」が全体では上位となりました。宿泊施設に関しては20代、30代が高い結果となり、逆に観光列車は50代、60代が高く、年代で違いが出ました。また「訪れてみたいライブやイベントが増えた」と感じている人は全体で9.2%でしたが、20代、30代に、より高い傾向が見られました。全体としては少数ですが、「ボランティアを目的とした旅行するようになった」も20代、30代が高い結果となりました。

 旅行目的の多様化:名所旧跡巡りや温泉など従来からある旅行目的の他に思っていることを聞いたところ、「ある目的に特化した旅行をするようになった」が9.0%、特に20代(11.7%)、30代(10.1%)が高い結果となりました。また「SNSでの発信を目的に旅行するようになった」は全体では3.8%とわずかですが、やはり若い世代が高い傾向があり、20代は8.7%となりました。

 デジタル化の影響:「情報が溢れすぎてどう旅行先を選べばよいかわからないことが増えた(20.7%)」については、年代別の差異はみられませんでした。「SNSで、あまり知られていない旅行先の情報を得られるようになった(16.5%)」は若い世代は上の世代に比べ、かなり高い傾向にあり、20代で29.4%でした。一方で、僅かですが、「人やAIなどにお任せして楽に旅行先を決めたいと思うことが増えた(3.8%)」も高く、20代で5.7%、30代で5.4%と、意思決定の煩わしさを感じている人が、若い世代により多いことがわかりました(図12~図14)。

(図12) 国内旅行について感じること(訪日外国人旅行者の増加による影響・年代別) (複数回答)

(図13) 国内旅行について感じること(訪日外国人旅行者の増加による影響・世代別) (複数回答)

(図14) 国内旅行について感じること(観光資源の多様化、目的の多様化、デジタル化の影響) (複数回答)

(参考2) ミレニアル世代とゼネレーションZ(ポストミレニアル)世代の特徴 JTB総合研究所

5.他業種の参入による競争激化、訪日外国人旅行者や新世代の新しい価値観の影響で宿泊施設が多様化

  簡易宿所に宿泊する訪日外国人旅行者は、2015年から2018年までの4年間で約3.3倍の伸び

  利用を増やしたいのは「温泉旅館」。20~30代は「都市型旅館」や「テーマ性のある宿泊施設」の利用意向が高い

 訪日外国人旅行者の増加も後押しし、様々な業界からの参入により新しい形態の宿泊施設が増えました。簡易宿所(カプセルホテル、ゲストハウスの他、新しい形態の宿泊施設も多く登録される)の施設数も増加し、簡易宿所における訪日外国人延べ旅行者数は2015年から2018年までの4年間で約3.3倍となりました(図15)。民泊の営業には「2泊以上の宿泊」や「年間180日まで」などの制約があることから、古民家などを活用した宿泊施設が"簡易宿所"として運営される場合も増えていると考えられます。

 前章では、若い世代を中心に「泊まってみたい個性的な宿泊施設が増えた」と感じている割合が高いことがわかりました。そこで、具体的にどのような宿泊施設に関心があるのか、宿泊施設の利用実態と今後への意向を聞きました。「今後の利用を増やしたい」という割合が、「過去1年間に利用した」の割合を超えているものをみると、「温泉旅館」、「シティホテル」、「民宿・ペンションなど」が上位でした。新しい形態の宿泊施設に関する利用意向をみると、全体では「都市型旅館(星のや東京、Hotel zen tokyoなど和モダンをコンセプトとする宿)」が高く、20.7%でした(図16)。年齢別には、「都市型旅館」の利用意向は、特に20代女性と30代男女で高く、「テーマ性のある宿泊施設(泊まれる本屋®など)」は20代と40代女性、「古民家、町屋」は40代女性で高くなりました。20代女性は民泊を除き、全体的にどの施設にも利用意向が高い傾向があるようです(表1)。

 最近では、日本でも動画や音楽の定額配信サービス(サブスクリプションサービス)が広がってきましたが、海外では、航空機やレストラン、宿泊施設などの定額利用サービスも増えています。そこで、旅行や滞在に関連するサブスクリプションサービスについての利用意向を聞きました。利用してみたいサービスで最も高かったのは、「全国の登録宿泊施設に泊まれる(28.6%)」で、「複数の交通機関が使える(26.9%)」が続きました。全国の施設に泊まるためには、移動手段も必要になることから、両方のサービスをセットで考えていくことも必要でしょう。性年代別にみると、「全国の登録宿泊施設に泊まれる」は男性60代での利用意向が高く、「登録されたレストランが利用できる」、「ワークスペースの使い放題」は20代の男女で高い傾向でした(図17)。

(図15) 宿泊施設形態別の延べ旅行者数推移(訪日外国人旅行者と日本人)

(図16) 過去1年間に利用した宿泊施設と今後利用を増やしたい宿泊施設  (複数回答)

(表1) 今後利用を増やしたい宿泊施設(性年代別) *抜粋      (複数回答) 

(図17) 利用してみたいサブスクリプションサービス         (複数回答)

6.20代、30代男性は二拠点生活、長期滞在に関心が高い

 観光の志向の変化に伴い、地域と旅行者の関係は「観光エリアでの旅行者の囲い込み」から「地域の生活エリアでの交流や触れ合い」に変わってきました。その結果、特定の地域に対して「深く知りたい」、「支援したい」という思いが生じ、旅行者の再訪意向が高まっていると考えられます。特に20代を中心としたミレニアル世代やゼネレーションZは、他の世代と比べてこういった意識が高いことから、消費者としての旅行者に留まらない、地域活性化の担い手となる「関係人口」としても期待が集まります。ここでは"拠点を持つ"ことに関連し、移住、長期滞在、二拠点居住などへの意識を聞きました。

 全体として関心のある滞在の形態としては、「二拠点居住(20.7%)」、「長期滞在(19.2%)」が上位となりました。性年代別にみると、「二拠点居住」は男性の40~60代で高く、「長期滞在」や「移住(Uターン)」は20代、30代の男性で高い結果でした。総じて、長期的な滞在に関しては、女性より男性の関心が高いようです(図18)。

 長期的な滞在をしたい理由として高かった項目は、「自然が豊かなところに住みたい」、「生活費が安い場所で暮らしたい」、「その場所が好きだから」などでした(図19)。

(図18) 長期的な滞在への興味           (複数回答)

(図19) 長期的な滞在をしたい理由            (複数回答)

 性年代別では、60代男性で「自然が豊かなところに住みたい」が高く、20代女性は「生活費が安い場所で暮らしたい」、「家族・知人の近くに住みたい」、「環境の良い場所で子育てしたい」が高くなりました。20代男性は「第二の仕事場を持ちたい」、「環境の良い場所で子育てしたい」、「起業したい」など、長期滞在先で仕事を持ちたい、という意識がみられました。長期的な滞在ができない理由としては、「仕事がない(43.6%)」、「今の仕事を辞めたくない、辞められない(27.1%)」と、仕事関連の理由が上位でした。「なんとなく踏ん切りがつかない」は男女とも60代で突出して高くなりました。若い世代は、仕事の問題さえなければ熟年世代より動きが軽いようです(図20)。

(図20) 長期的な滞在ができない理由               (複数回答)

7."オンとオフ"の融合:「テレワーク・デイ」参加率(自分または家族)は8.5%。参加者のうちテレワーク実施は69.5%

  テレワークの場所は「自宅や職場の近隣(41.4%)」が最多。「国内旅行先で仕事を経験」した割合は24.2%

 前述の「利用してみたいサブスクリプションサービス」として、若い世代は「ワークスペースの使い放題」が高い傾向でしたが、時間や場所にとらわれない働き方の広がりにより、休暇と仕事の関係性も変化してきました。そこで、今夏に実施された「テレワーク・デイズ(*)」の認知や参加の実態、テレワークやノマドワーク(様々な場所で自由に働く)への意識について調べました。

 テレワーク・デイズの認知度と参加率を地域ごとにみると、認知度は首都圏で最も高く、37.7%でした。自分自身が参加した割合は、首都圏と名古屋圏が7.2%、九州・沖縄が7.0%と続きました。参加者が実際に行った内容は、テレワーク(合算)69.5%、時差出勤(46.1%)が上位でした。国内や海外の旅行先でテレワークを実施した割合はそれぞれ24.2%、10.9%で、"ワーケーション"や"ブリージャー"など、"旅行先で仕事をする"という行為も広がっていることがわかります(図21~図22)。

 今後や東京2020オリンピック期間中の働き方についての意識を性年代別にみると、男女共に、20~30代の若い世代で普段からテレワークや時差出勤など、時間や場所にとらわれない働き方をしたい、という意識が高くなりました(図23)。

(*)政府が東京都や関係団体と連携し、東京2020オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、2017年より進めているテレワーク国民運動プロジェクト。2019年は7月22日~9月6日の約1ヶ月間にテレワークや時差出勤、有給休暇取得などの一斉実施を呼びかけ、全国で2887団体が参加した。

(図21) テレワーク・デイズの認知と参加  (単一回答) (図22) テレワーク・デイズで実施したことと実施場所(複数回答)

(図23) 今後やオリンピック期間中の働き方への意向        (複数回答)

8."ブリージャー"や"ワーケーション"で休暇を取りやすくなると考える割合は業務旅行経験者の約3割

  若い世代ほど、休暇旅行中の仕事が業務として認められれば、より休暇が取りやすくなると考える

 次に、業務旅行で観光も実施する"ブリージャー"や休暇中に業務を実施する"ワーケーション"について詳しくみてみます。

 国内の宿泊業務旅行の実施中に、付随して実施した旅行で最も多かったのは、「名所旧跡などを巡る観光旅行(26.7%)」で、「音楽やスポーツイベント参加など特定目的の旅行(5.8%)」、「家族友人訪問(5.8%)」が続きました。男女別に比較すると、男性より女性の方が付随した観光を実施している割合が高いことがわかりました(図24)。

 過去1年間の間に業務旅行をした経験がある人に対し、"ワーケーション"や"ブリージャー"についての意識を聞いた結果では、全体としては「仕事で行った旅行に休暇を付けられれば、もっと休暇が取りやすくなる(30.5%)」の回答が「プライベートで行った先でする仕事が会社から業務として認められれば、もっと休暇が取りやすくなる(27.0%)」を上回り、"ブリージャー"の方がより休暇が取りやすくなると考える人が多い傾向となりました。しかし年齢別にみると、20代は全体の傾向とは異なり、「プライベートで行った先でする仕事が会社から業務として認められれば、もっと休暇が取りやすくなる(38.1%)」が最も高くなりました(図25)。

 また、フルタイムで仕事をしている人に対し、プライベートでの旅行中にどの程度、仕事をした経験があるかを聞いた結果では、仕事をした(合算)の割合は28.1%となり、約3割の人は何らかの仕事をしたことがある、と回答しました。また、内容についても、メールのチェックや電話連絡だけでなく、書類作成などの作業や電話会議など、多岐にわたっています(図26)。

(図24) 国内宿泊業務旅行に付随して実施した旅行       (複数回答)

(図25) ワーケーションやブリージャーへの意識        (複数回答)

(図26) プライベートでの旅行中に仕事をした経験と内容    (複数回答)

【"暮らす"と"泊まる"がボーダレスに ~宿泊施設の多様化

 デジタル化によって、私たちは、情報収集や働き方など様々な面で、時間的・空間的な制約から解放され、"暮らすように旅をする"、"旅するように働く"といった新しい旅行スタイルを生み出しました。また、訪日外国人旅行者の急増により、観光産業が注目され、様々な業種が参入したことで競争が激化する中、差別化のための様々な取り組みが進み、多様な宿泊施設が出現しています。

 現状の宿泊施設を、① 旅する(短期滞在)/暮らす(長期滞在) ② 機能特化/付加価値特化 という2軸で整理したのが図27です。短期滞在向け機能特化型としては、宿泊場所にフロントがなく、常駐スタッフもいない人件費を抑えた「無人ホテル」、長期滞在の機能特化型としては、定額制で全国住み放題のサブスクリプションサービス、短期滞在向け付加価値特化型としては、その時だけ、特別な場所に出現するポップアップホテルなどがあります。また、暮らすまではいかないけれど、その土地の人々との交流を深めたいというニーズの高まりに対しては、まち全体を一つの宿泊施設ととらえ、宿泊者と地域との交流を促す"分散型ホテル"も増えています。2019年7月には、環境省が富裕層向け「分譲型ホテル」の国立公園内での設置を認める方針を固めました。長期滞在向けの付加価値特化型の施設も今後増えそうです。

(図27) 多様化する宿泊施設

【"観光"から"ツーリズム"へ。旅行・観光における領域拡大の可能性】

 過去に世界経済フォーラムがまとめた観光競争力ランキングで、ビジネス旅行からプライベート旅行へとつなげる取り組みが課題とされたこともあるように、日本では業務にプライベートをつなげることに「気が引ける」といった風潮がありました。しかし働き方が多様化する中で、若い世代を中心に"ブリージャー"や"ワーケーション"も広がってきていることが調査結果からわかりました。そこで、そのような動きから、今後の観光旅行拡大の可能性を考えるため、今回の調査結果と「旅行・観光消費動向調査(観光庁)」のデータ(延べ旅行者数者数と1泊当たりの消費単価)を元に、延べ業務旅行に付随して観光旅行をしている人数を推計したところ、延べ旅行者数は14,725千人(延べ業務旅行者の約31.8%)でした。消費額は4,856億円で、宿泊観光消費額全体の13兆395億円の3.7%となりました。仮に、延べ業務旅行者数の半数が観光を実施した場合の消費額は7,625億円(+2,769億円)となります。今後、業務旅行に観光を付随する動きが広がれば、一定の経済効果が期待できると考えられます(図28)。

 2019年4月、京都府舞鶴市の赤れんがパークに「Coworkation Village MAIZURU」がオープンしました。"仕事をしに旅に出る"をコンセプトにしたこの施設は、「働く」という行為を通じて、地域との継続的な交流の促進を目指すものです。このような地域での「観光」を超えた交流を促す試みも増えています。

 本文で述べてきたように、若い世代を中心に、「暮らす」と「泊まる」、「出張」と「観光」がボーダレスになり、「旅行」の概念は広がりつつあります。二拠点居住のようなライフスタイルも生まれてきました。今後、日本人の人口減少はさらに進み、国内市場は小さくなると考えられますが、「旅行・観光」は領域を拡大し、市場を広げる可能性があるのではないでしょうか。

(図28) 業務旅行に付随する延べ観光旅行者数の推計

<お問い合わせ>
(株)JTB総合研究所 
調査・分析担当:早野、波潟
広報担当:早野・三ツ橋
03-6722-0759
www.tourism.jp

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